https://news.yahoo.co.jp/articles/e1a684e987e8f04d843330a5ed7b792a635115b9
ウェブメディアのBCN+Rでは、全国の家電量販店やネットショップから集計したBCNランキングを紹介している。今年5月の完全ワイヤレスイヤホン販売台数は、前年同月比165.4%だった。
ヘッドホンやイヤホンなどを使う機会が増えることで危惧される「ヘッドホン難聴」は、大きな音にさらされ続けることで起こる音響性難聴のこと。オーディオ機器を使って大音量で音楽などを聴き続ける、あるいはロックコンサートやライブ、クラブなどで長時間、大音響の中にいることがきっかけで生じる。
世界保健機関(WHO)も、世界で11億人もの若者がリスクにさらされていると警告している。
厚生労働省の健康情報サイトでヘッドホン難聴の記事を監修した、慶応義塾大学医学部耳鼻咽喉科の小川郁教授は、
「オンラインの会議や飲み会でヘッドホン、イヤホンを使うぐらいでは、難聴になることはまずありません」
と言いつつも、
「屋外でジョギングやウォーキングをするとき、あるいはスポーツジムで使う場合は、適正な音量で聴くことを心がけてほしい」
と注意を促す。
また、今は感染予防として、多くの地域で地下鉄も含め電車の窓を開けている。そのため車内は騒々しく、つい音量を上げがちになるので、それも気をつけたほうがいいそうだ。
そもそも、なぜヘッドホン難聴は起こるのか。小川教授は次のように説明する。
「耳から入ってきた音の振動は、内耳にある有毛細胞で電気信号に変換されて脳に伝わり、音として認識されます。この音を感じるセンサーである有毛細胞は、ある一定以上の大きな音を聞き続けると傷ついて、やがて壊れてしまう。その結果、難聴になります」
問題は、両耳の有毛細胞が少しずつ、かつ同時に壊れていくので、早期は気付きにくいという点、そして有毛細胞は一度壊れると再生しないため、発症したら治らないという点だ。
この難聴の怖さを「真綿で首を絞めるように、じわじわと悪くなっていく」と表現するのは、日本橋大河原クリニック(東京)の大河原大次院長だ。
「いちおう治療法はあって、ステロイド薬や血管拡張薬、ビタミンB12製剤などを用いていきますが、これらの薬で効果が出るのは、難聴になりかけた直後、1~2週間までです」
となると、いかに早く難聴に気付くかが鍵となる。大河原院長が言う気付きのポイントは、「ヘッドホンやイヤホンを使っていて、耳鳴りや耳閉感(耳が詰まった感じ)が1、2日続く」で、心当たりがあったらすぐに耳鼻科を受診する。耳鳴りと難聴とは一見関係ないように思えるが、実は難聴の一つの症状で、初期に表れやすいそうだ。
また、ヘッドホン難聴は若い人に起こりやすいが、中高年も無関係ではない。大河原院長は言う。
「加齢性の難聴にヘッドホン難聴が重なると、より大きな音で音楽を聴くようになり、病気の進行リスクが高まります」
何より大事なのは予防、つまり難聴にならないような音楽の聴き方をすることだろう。小川教授、大河原院長に聞いた予防対策をまとめると、次の三つになる。
■耳や頭が痛くなるほどの音量で音楽を聴かない
■1時間を超えて聴き続けない(聴き続けるときは1時間に1回、10~15分程度耳を休ませる)
■外から入る騒音を抑える機能(ノイズキャンセリング)などが付いたヘッドホンやイヤホンを使用する
「耳が痛い、頭が痛いというのは、その音量は耳にとって危険であるというサインです」(大河原院長)
WHOは難聴のリスクが高まる音量や時間の目安を示している。それは「80デシベル×1週間で40時間以上」「98デシベル×1週間で75分以上」などだ。ちなみに環境省によると、ファミリーレストランの店内が60~70デシベル、地下鉄の車内が70~80デシベル、パチンコ店の店内が90デシベルだという。
スマホで音楽を聴いているのであれば、音量をチェックできるアプリがある。例えば、アイフォーンなら「ヘルスケア」というアプリで過去にどれくらいの音量で聴いていたのかが一目でわかる。ほかにも同様のアプリがあるので、試してみるといいかもしれない。
自分の耳の聞こえ方を調べたい場合は、WHOが作ったアプリがある。今のところ英語版しかないが、イヤホンから聞こえてくる数字を入力することで、どの程度の聴力かチェックできる。
最後に、難聴対策となりうるヘッドホンやイヤホンについて。e☆イヤホン秋葉原店の東谷圭人フロア長に聞いた。
「外からの騒音を抑え、小さい音量で音楽を楽しめるものは、大きく分けて、ノイズキャンセリング機能付きのもの、物理的にフィット感を強めた耳栓効果が高いもの、耳ではなく骨伝導によって音楽を聴けるものがあります」
ノイズキャンセリングで代表的なイヤホンは、アップルのAirPods Proや、ソニーのWF‐1000XM3。後者は同店の一番人気だ。ソニーはヘッドホンタイプのWH‐1000XM3も出していて、こちらもヘッドホンでは一番売れている。
耳栓効果の高いイヤホンは、米国の音響機器メーカー・SHURE(シュア)のSE215SPE‐B+BT2‐A。国内外のアーティストのライブ用イヤホンも作っているメーカーのもので、外部の騒音をほぼカットする。
骨伝導タイプは、この種のイヤホンに特化するメーカー、米国のAfterShokz(アフターショックス)が出すAEROPEXがお薦めだという。
「いずれにしても、使う際は、かならず正しくフィッティングをしてください。せっかくの高機能のイヤホンやヘッドホンでも耳の形に合っていなければ音漏れがして、機能を十分に生かしきれません」(東谷さん)
耳の老化は30代から始まるというが、個人差が大きい。人生100年時代、聞くという機能を低下させないよう、上手に音と付き合っていきたい。