Tokyo Walker

諸事探訪

Takumar 55mmF1.8(M42)系

2022年11月08日 14時54分05秒 | カメラ

 標準レンズが50mmになるまでの間、55mmという焦点距離があった。50mmが設計上光学的に難しかったからか、「標準」が定まってなかったからか、とにかくそんな時代があった。ASAHI PENTAXも多種多様なレンズを作って来たが、性能向上に心血を注いだ5群6枚構成・変形ダブルガウスタイプのTakumar 55mmF1.8(M42)系もそんな中の一つである。
 特別コレクションする気も無かったが、いつの間にか数が増えて、「Takumar 55mmF1.8」がそれぞれの時代を代表して3本になった所で、その歴史を訪ねてみた。

Takumar 55mmF1.8
 1956年に作られた(市販された)55mmF1.8系の最初のレンズとされている。というのは、生産数が少なかったためか、Netでググってみても画像はなかなか見つからない。姿形が見えないので何とも言いようがない幻のレンズである。

Auto‐Takumar 55mmF1.8(前期)

 1958年になって登場したのが「Auto」である。これには前期と後期がある。前期は絞りオート・レバーが付いており、レバーは「白」で共通しているが、ボディが黒のものと、Focus環だけが「白黒(ゼブラ)」柄のものがある。後にも先にも「ゼブラ」柄はこれしかないと思われるもので、珍品と言えなくもない。黒のボディは生産が更に少なかったようで、なかなかお目に掛れないものである。

Auto‐Takumar 55mmF1.8(後期)

 1960年、同じ名称で後期型が登場する。グッと現代的になって、レバーが無くなりAuto/Manual SWが追加された。Bodyは黒一色になった。分解清掃して思ったことだが、前期と後期ではかなりの違いがある。デザインの違い、構造上の違い、光学上の違い、絞り羽根の枚数の違い、撮影最短距離の違い、フィルター径の違い、絞り方向が時計方向に逆転等である。ここまで違って何故同じ名前なのか理解に苦しむ。仕組みとして同じだったのは、「∞」のフランジバック調整が、薄い真鍮のワッシャーを数枚用いて調整していることくらいである(調整箇所は違うが)。

 レンズの玉も前期と後期でニコイチしようと思いTop Lensを交換してみた。同じφ35mmなのだが、凸の高さが0.1~0.2mm違い、更にガラスの厚さも異なるようで、「∞」が大幅にズレてしまい、とてもニコイチに出来る代物ではなかったのである。前期と後期、名前は同じでも全く別物である。

Super‐Takumar 55mmF1.8(初期型、前期型)
 1962年になって「Auto」の後継「Super」初期型が登場するが、翌年の1963年には「Super」前期型が続く。初期型は絞りの方向が(「Auto前期」と同じ)反時計方向MAXで開放にしてあるが、前期型は何故かまたこれを元の時計方向MAXで開放に戻しているのである。レンズの構成は「Auto」の後期と全く同じらしい。故に「Auto」から「Super」に名前を変えただけ、と言われているのである。
 確かに外観的にはそっくりで、仕様から「名前を変えただけ」に見えるのだが、実はそうでもない。分解してみると判るが、内側の構造が結構違う。おそらく各レンズの特性も異なっており、互換性は無いものと思われる。しかし「Auto」の前期、後期の違いからすれば微々たる変更かもしれない。また、つくづく疑問に思うのだが、一体どの辺が「Super」だったのだろう。是非知りたいものだと思う。

Super‐Takumar 55mmF1.8(後期型)

 1965年に登場したのが後期型(Asahiの前に製造番号)で、ガラスに放射性物質(酸化トリウム)を使用している。一次的な流行りとは言え、レンズの屈折率の精度を向上させ、色収差を低減して描写力を向上させる効果があるようで、後々黄変するとは言え、これは確かに大きな違いかもしれない。

 黄変レンズ(酸化トリウム含有レンズ)は、今まで分解した経験からF1.4ではFront側の張り合わせレンズに使用されていた。このF1.8(後期)ではRear側のEndレンズに使用されている。
同じ「変形ダブルガウス型」であっても、その都度、光学的に最も効果的な所に使用しているようで、予め決まっている訳ではないらしい。

 「Super」はこの時代、35mm一眼レフカメラ「ASAHI PENTAX SP」で全世界に400万台以上を売り上げたというベストセラー機の標準レンズであったため、中古市場では今もお安く調達できる。そのため、初めて使ってみるオールドレンズ・ファンの必携レンズと言われている。オールドレンズの代表格のようなレンズである。

Super‐Multi‐Coated TAKUMAR 55mmF1.8

 1971年、モノコートの「Super」から多層コートになって「Super‐Multi‐Coated」が登場する。このコート多層化で「コントラストや逆光耐性」が向上したとされているもので、また一歩近代的なレンズに近づいている。同じSuper‐Multi‐Coated TAKUMARの「55mmF1.4」は明らかに黄変しているが、入手した「55mmF1.8」に黄変は全く無く、「酸化トリウム」含有レンズは採用していないらしい。この辺の区別は今一つはっきりしない。

SMC TAKUMAR 55mmF1.8
 1972年、「Super‐Multi‐Coated」の後継(?)として登場したのが「SMC」である。この辺から「酸化トリウム」は採用されなくなったようだが、またもや「絞り連動機構の違いだけ」とも言われているレンズである。まあ、SMCは「Super‐Multi‐Coated」の略なのだから当然と言えばそうかもしれない。しかし、Focus環はアルミ切削からゴム巻きに変更されている。オールドレンズ・ファンはこの「ゴム」がお嫌いらしいけれども、商品としてそれなりの新しさはあるように思う。

 1975年、Takumar 55mmF1.8(M42)系はここからK-Mount化され、50mmに集約される方向へ向かう。この他にも赤外線(R)表示の追加、表示文字の色、書体や指標のかたち、製造番号表示の位置など細かいことを言えば切りが無いほど変更されているが、「Takumar」名も廃止され、凡そ20年にわたる「Takumar 55mmF1.8(M42)」の歴史を閉じることになる。エンジニア達の悪戦苦闘の跡が滲み出ているような歴史である。

「Takumar 55mmF1.8(M42)」について、より詳しいWeb Page「1:1.8/55 の変遷」があります。
 URL  http://home.a00.itscom.net/shisan12/bunkai08.htm

後記:
 Net上の情報を搔き集めて、更には分解清掃の経験から、或いは勝手な妄想も含めて、まとめてみました。とんだ勘違い、明らかな誤認は無いと思いますが、お気づきの点があればご指摘いただけると有難いです。



 

 

 

 

 

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