「さあ、行くか!」
今夜は先生の家に泊まる。あの夏休み以来だ。
「車で十五分くらいだな。緑川でも街はずれの学校だからな」
先生の車の助手席に座って、緑川の街並みを見ていると、父さんの病気のことを思い出す。
『平田さん、元気かな?千石さんももうベテラン看護師だろうな?』
そんなことを思い出していると、「お父さんは、その後も元気なのかい?お母さんはもちろん、元気だろうけど…」
先生が聞いてきた。
「ええ、おかげさまで…父さんの病気はあれきりです」
「さすがだなあ、ハルキのお父さんはやっぱり強かったんだなあ」
「そうですね。ヒロトやカホに『ハルキの父さんは強いから!』って、あの時、励ましてもらったけど、本当に強い。今でもバリバリ仕事してるし、太鼓の方でも小学生の指導をしているみたいです」
車は、緑川の街の真ん中を流れる川沿いの道を進む。川の両岸には柳の木が植えられていて、これがあの時、病室から見えた緑の太い線だ。あの夏、何度か、母さんやじいちゃんに乗せられて、この道を通ったはずなのに、そんなことを考えたことがなかった。
街の繁華街を抜け、新しい家の建ち並ぶ住宅地の小さな小路へとに入っていく。「まもなくだぞ。あそこが第二小学校だ」と、フロントガラス越しに先生が指をさした。たくさんの住宅に隣接して学校はあった。それでも、十分広いグランドがあり、校舎も新しく見えた。
「新しい学校なんですか?」
「そうそう、開校して、五年。この辺りの子どもが増えたからね。第一小学校から分かれたの。周辺の町や村はどんどん、子どもが減って学校もなくなっているけど、緑川は別だな」
先生の言うとおり、舞鳥もすべての学級が複式学級になっているらしい。寿町も三校あった小学校が今は一つになっている。