6話です。今日は、やや短めです。
先生は、この写真の日のワンシーンワンシーンを宝箱の中の宝石を見つめるような目で、大切に語ってくれた。そして、僕に聞く。
「今更だけど、何であの場面でバットを振らなかったんだ?」
僕は驚いた。
「えっ?先生、あの時、スクイズのサインを出したでしょ!」
先生がサインを間違ったのか、僕が見間違ったのか、それは、今はもう確かめようもない。でも、僕は、あの打席に立った時の心境を今でもしっかり覚えている。
『ワンアウトだし、ピッチャーと僕の力関係を考えたら、打ち返す可能性は十パーセントくらいのものだ』
そんな弱気が「打て」サインを「スクイズ」のサインに見せたのかもしれない。
『よし、スクイズだ』
相手ピッチャーのモーションに合わせて、バントに構え、球筋を見極めて、バットを出す。
信吾がホームに滑り込み、結果、僕らは先制したのだった。寿ファイターズに先制したのは初めてだったので、僕らはすっかり舞い上がってしまった。そんな興奮した雰囲気の中で、その時のサインについて、僕も先生も、信吾も確かめずにいた。そして、先生と僕の二人では、その謎を解くことが出来なかった。
「いつか、信吾に聞いてみるよ」
「いや、間違いなく、『打て!』のサインをだしたはずだ」
先生は、右手で左耳をつかんだ。
それは、『スクイズ』のサインだった。
8月も今日で終わり、今年の「ひまわりのころ」も終わりですね。
続編に対する感想をお持ちしてます!!!