「いいですか、みなさん、さようなら」
今日の半日で、「いいですか」という言葉を何回、聞いたろう。「さようなら」の挨拶が終わるや否や、先生は、あっという間に教室を後にした。間もなく、あの三人がタケオの所にやってきた。タケオは、おどおどした様子で、立ち上がり、何も言わずに俯いている。すると、コウタが、
「は~い、今日も頼むよ」と、おどけた声なのだが、妙に高圧的な口調で言うと、机の上にあったタケオのランドセルを手で払って床に落とした。そして、三人揃って、自分たちのランドセルをそこにおき、教室を出て行く。タケオは、急いで自分のランドセルを背負い、両手に三つのそれを抱えて、よろめくように三人の後を追って行った。
いじめだった。そんな様子の一部始終を見ていた僕は、堪らない気持ちになって遠山先生の所に急いだ。
「失礼します。先生、いじめです」
僕は職員室に入った途端、耐え難い気持ちが爆発してまった。遠山先生は、座ったまま、何も言わず、僕を手招きした。職員室は、舞鳥の倍ほどの広さがあり、たくさんの先生方が机に向かっていた。
「いいですか、いきなりどうしたの?」
「先生、ごめんなさい。でも、タケオ君があまりにもかわいそうだったから」
僕はそういって今日の午後に見たことのすべてを先生に話した。先生は、僕が話している間中、パソコンに向かい、その手を休めることはなかった。そして、ぼくが話し終わると、
「話してくれてありがとう」
と言ったものの、何だか気持ちの入っていない言葉に聞こえた。それから、
「先生は何でも知っているのよ」
という顔で、こう話した。
「いいですか、大丈夫よ。四人はとっても仲のよいお友達なの。今日も何かして遊んでいただけよ。大山君は今日、転校してきたばかりだから、わからないのよ。いいですか」
僕は返す言葉が見つからなかった。先生がもう一度、
「いいですか?」
と聞いたので、
「わかりました」
と答えるしかなかった。納得がいかず、いらいらした。わかってもらえないことがこんなに悔しいことなのだと初めて知った。そう、舞鳥ではこんなことは、決してなかったから。はじめの日から、僕はこの寿小学校では迷路の中に足を踏み入れてしまった。でも、明日は土曜日。舞鳥に行って、バンドの練習、そして、太鼓も…と思うと、少し気持ちが軽くなった。
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