食の歴史 by 新谷隆史ー人類史を作った食の革命

脳と食を愛する生物学者の新谷隆史です。本ブログでは人類史の礎となった様々な食の革命について考察していきます。

ブタの家畜化ー1・3家畜は肉の貯蔵庫(5)

2019-12-01 08:29:20 | 第一章 先史時代の食の革命
ブタの家畜化
イスラム教とユダヤ教では、豚肉はタブーとして避けられる。イスラム教では、豚肉に触れた調理器具や食器も使用しない徹底ぶりだ。また、ヒンズー教徒も豚肉を食べない。

一方、中国で肉と言えば豚肉で、教え子の中国人留学生に尋ねたら、ほぼ毎日食べると言っていた。また、日本人も豚肉をよく食べる。私も豚肉は大好物で、特にカツ丼には目が無い。出かけた先の食堂でカツ丼を注文すると、家族から「またか」という冷たい目で見られている。

このように豚肉は、一部の人々には仇敵のように忌み嫌われ、好きな人々にはやたらと食べられる、変わった食品だ。

ブタはヤギ・ヒツジ・ウシとは異なり雑食性であることから、食べ物を人間と競合してしまう。また、乳を利用することもできないし、労働力としても使えない。これらが、特定の宗教で豚肉がタブーになった理由とする説もある。

それでも、なぜブタを飼うようになったのか。

それは、ブタの並外れた繁殖力に理由がある。ブタは一度に10匹程度のたくさんの子供を産む。ヤギ・ヒツジ・ウシが一回の出産で1~2匹の子供しか産まないのに比べて圧倒的に多い。また、ブタの妊娠期間は4か月程度で、年2回の繁殖が可能だ。一方、ヤギ・ヒツジ・ウシは通常は年1回しか繁殖しない。さらに、生殖可能になるまでの飼育期間はウシでは15か月なのに対して、ブタは7か月程度と半分以下だ。つまり、エサさえ確保できればブタはどんどん増えて、とても優れた肉の供給源となるのだ。

こうした理由から、ブタはイノシシから家畜化されたと考えられる。約8000~6000年前のことだ。イノシシは、アフリカ北部からユーラシア大陸及びアジアの島々などに広く分布しており、狩猟の対象としても重要な存在だった。このイノシシが、複数の地域で独自に家畜化されてブタが誕生したと考えられている。そして、ヨーロッパや東アジア、オセアニアの島々で重要な家畜となって行った。

ブタの家畜化にともなって、体色が黒や褐色から白色に変わった。また、鼻も短くなり、牙も小さくなった。しかし、今でもブタと野生のイノシシは交配可能で、家畜化後も世界の様々な地域でブタとイノシシの交雑が繰り返されてきたと推測されている。