パンの誕生
現代のパンは「発酵パン」と呼ばれ、コムギやライムギなどの良質のグルテンを含んだ穀物を粉にして、水と塩、砂糖などを加えてこねたのち、酵母で発酵させることで膨らませてから焼くことで作られる。酒を造る時と同じように、酵母は発酵によって砂糖を炭酸ガスとアルコールに変える。この炭酸ガスが網目状になったグルテンの間に入ることでパンは膨らむのだ。アルコールはパンを焼くときに蒸発してしまい、出来上がったパンには残らない。
ところで、人類が最初に作ったパンは酵母による発酵を行わずに、ただ単にこねて焼いただけの「無発酵パン」だった。紀元前6000年から4000年頃の古代メソポタミアでのことだ。こうして作られたパンはやわらかくなかったが、水分が少ないため腐りにくく、食べたいときにすぐに食べることができたので便利だった。平たく伸ばして焼いたパンは、インドのナンに受け継がれたと考えられている。
無発酵パンは、古代メソポタミアでは、魚や動物などのいろいろな形の型に入れられて焼かれたようだ。また、皿の形になるように焼かれて、料理の土台として使用されることもあった。パンで作ったフタもついていたようだ。今日のパイの包み焼きの原型と言えるかもしれない。
やがて、パン生地に酵母を加えて作った「発酵パン」も作られるようになった。
古代メソポタミア人は、ムギを粉にしたものを煮ることで、おかゆのようにして食べていた。これを放置すると乳酸菌と酵母が繁殖して、自然に発酵が始まる。できるのは酸っぱいパン生地みたいなものだ。これを捨てずに焼いたのが発酵パンの始まりと考えられている。
このような発酵パンは当初、オオムギから作られることが多かったが、しだいにコムギで作られるようになった。紀元前16世紀頃の古代エジプトでのことだ。コムギには良質のグルテンがたくさん含まれているので、ふっくらした美味しいパンができるのだ。
古代エジプトでは様々な種類のパンが作られた。ミルクやバター、卵を入れたものや、薬草などを入れた薬用パンが作られた。症状に合った薬用パンを食べることで、病気やケガが治ると信じられていたらしい。