人とイヌの共通性
人とイヌは似ている。これが、イヌが人の最良の友になった要因だ。
ウマのところで述べたように、人は汗をかくことができるので、マラソンのような長時間の運動が可能である。狩猟ではこの利点を生かして獲物を狩っていたと考えられる。つまり、集団で長い時間をかけて獲物となる動物を追い込むことで、ついには動けなくなったところを強力な武器で仕留めるのだ。
オオカミなどのイヌ属も人類に似た狩りを行う。つまり、群れで長時間をかけて獲物を追い込み、弱ったところを仕留めるのだ。この狩猟方法によって、自分たちよりも体が大きな獲物を狩ることができる。
ところで、汗をほとんどかかないイヌ属に長時間の狩りが可能なのは、イヌ属で特に発達している体を冷却する仕組みのおかげだ。
暑い時や運動をした時にだらりと口を開けて舌を出し、よだれを流しながら速い息をしているイヌの姿を見たことがある人は多いだろう。あの浅くて速い呼吸を「パンティング」と呼ぶ。パンティング時には呼吸数が安静時の5倍以上に増加する。このパンティングこそが、イヌ属の体温冷却機構の根幹になっている。
まず、あふれ出すよだれがパンティングによって蒸発することで気化熱が奪われ、舌や口内の血液が冷やされる。また、速い呼吸によって肺を通る血液も冷却される。
さらに、脳に送る血液を冷やす、イヌ属などにしか見られない次のような仕組みがある。
鼻腔内には細い毛細血管が張り巡らされていて、この中を通る血液がパンティングによって冷却される。この冷却された血液が流れる静脈と脳に血液を送る動脈が接していて、脳に送る血液を冷やすのだ。静脈に接する動脈は網目状になっていて、熱交換が効率的に行われるようになっている。
このように、イヌは血液を冷却する仕組みを持つことで、人と一緒に持久的な活動を行うことができるのだ。
さらに、人とイヌでは仲間に対する接し方も似ている。
狩猟・採集生活を送る人類の集団内は平等であったように、イヌ属の群れでも獲物の分配などは平等に行われる。また、子犬の養育なども群れのさまざまなメンバーが協力して行うなど、人の集団のようにメンバー同士の結束が強い。
人とイヌが一緒に生活するようになると、イヌは人間を仲間として認識することで、強いきずなを感じるようになったのだろう。その結果、イヌは人に対してとても献身的な活動をしてくれることになった。人類とイヌは最良の友として歩み始めたのだ。