道しるべの向こう

ありふれた人生 
もう何も考えまい 
君が欲しかったものも 
僕が欲しかったものも 
生きていくことの愚かささえも…

本当のことを言おうか…②

2022-01-22 18:18:00 | 黒歴史




コーポというのは名ばかりで
実際は木造モルタルのぼろアパート
その2階の端っこの201号室に
ひっそりと僕は暮らしていた

中野区のはずれというよりも
生活圏はどちらかといえば練馬区よりで…

アパート近くには
武蔵大や武蔵野音大
そして日大芸術学部が
歩いて行ける距離にあって…

ただ…
僕の住んでたアパートは
学生じゃなくて
社会人の一人暮らしがほとんどみたいで
日中は静かな良いところだった



入学して1年を過ぎた頃からは
まるで毎日遊び呆け続けているような
大都会の目まぐるしい生活がイヤになり…

入部した劇団サークルも足遠くなって
もちろん学校の講義には出ることもなく
ほぼ毎日顔を出していたバイト先もやめ…

友人たちと会うこともない
徐々に塞ぎ込んだ日々に…

夜通しロックのレコードを何度も
貪るように聴き漁るだけの
沈んだような日々…

このままじゃ
まともに卒業なんか出来ないだろうな
漠然とそう思いながら
自分の将来に不安を抱きつつ…

バイトで稼いで貯めたお金を費やして
束になったロックのレコードと
有名画家たちの画集本
そして何冊も積み上げられた小説の
単行本や文庫本に埋もれつつ

いま思えば
無為なルーティンを繰り返すばかりで
無駄に浪費していた大量の時間の流れ…

そんな流れの中で
自分でも何をしたいのか
どう生きていけばいいのか
わからないまま…

ただ
音楽を聴き
絵画を眺め
本を読むという
病んだような
弱々しい息を吸ったり吐いたり…

大切な青年期と言える20歳すぎの頃の年月を
そんな風に過ごしたことが
果たしてどうだったのか?

もう45年ほども前のこと
いまとなっては…






やがて
まともに卒業できる見込みがなくなり
この際中退して働き出そうか
それとも留年してでも卒業しようか
それすら決めかねて…

段々と膨らんでくる厭世観
そんな重い閉塞感の漂う
毎日の暮らしに沈んでいた秋のある夜…

アパートの1階に設置されていた
住人共同の公衆電話のベルが鳴り
1階に住む誰かが僕の名を大声で呼んで
僕への電話だということを告げた

僕にかかってくる電話は稀な方で
しかも大抵が決まった悪友からで
街中まで出て来いよとか
○時から麻雀しようぜとか
しょうもない電話が何件か
おそらく今回も同じだと…

そう思いながら
階段を駆け下り
無造作に受話器を耳に当てると…

受話器の向こうから聞こえてきたのは
思いがけなかった懐かしい声の響き
忘れることのなかった聞き覚えのある…

というより
忘れようもない
悔やんでも悔やみきれないほど
もう一度聞きたかった声だった


○○ちゃん?
あたし○○…
わかる?

(えっ?)

ハイ…

(気の利いた返事が返せずビミョ〜に…)

不意に電話してごめんね…
驚かせちゃった?
でもどうしても電話して
伝えたいことがあって…


何年かぶりに聞く
受話器越しの彼女の声は
照れながらも
何か思い詰めたような感じもして…

根拠のない胸騒ぎが
不用意だった僕の心の中に生まれ始めていた

(それにしてもどうして?)

僕が住むアパートの共同電話の番号
どうやって調べたのか?
たとえ誰かに訊いたとしても
知ってるのは家族と限られた友人だけ
そう簡単にはわからないはず…

(家に電話して聞いたのか?まさか!)

いずれにしても
そこまで調べ上げて
わざわざ電話をかけてくるということは…

結構な肝っ玉だと…








彼女とは同じ高校の同級生として顔を合わせ
高2から卒業後の数ヶ月までの2年余り
いわゆる付き合ってる関係だった

僕にとっては
本格的?に付き合うことになった
最初の女の子だった

おそらく彼女にとっても
同じように僕が…


高校時代…
僕たちはどちらも
誰もが認める
美男美女というわけじゃなかったが…

なぜか僕はそれなりにモテて?いて
彼女は僕よりももっと人気があったはず…

入学して同じクラスになると
笑顔がひときわ可愛く
足の速いスポーツウーマンの彼女に
僕は段々と惹かれようになり
高1が終わる頃にはハッキリとした好意に…

高2に進級すれば
クラスが別々になるかもしれない
いっそのことダメもとでもいいから
告白しようかと
真剣に思い詰めていた春休みのある日

我が家の郵便受けに届いた1通の手紙
僕への宛名の裏に記された差出人は
まさしく彼女の名前だった

思ってたより
かなり綺麗な筆跡で書かれた
思いがけない1通


手紙の中身は
僕の想いを知ってか知らずか
当の僕より一足早くしたためられた
好意の告白だった

僕は直ちに折り返しの返事を投函して
手紙のやりとりを始めるとともに
無事に付き合うことになったのは
言うまでもないが…

現代とは違ってスマホもなく
LINEなどの連絡手段が
手紙か電話しかない時代

しかもそんな中で
女子の方から
長文の手紙で告白してくるというのは…

もしフられたりしたら…

やっぱり
もともと
肝っ玉の座った子だったのかも…

(to be continued…)



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