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毎日の暮らしの中にある大好きなもの、こと、出合(会)いなどについての気まま日記

猫と妻と暮らす

2013-03-24 15:44:16 | 読書

年明けからの怒涛の新刊予約順番ラッシュも一段落し、料理本をぱらぱらでもいいけどやっぱり読み物があったほうが。
かといって特に誰、が思いつかず書棚を眺めていてタイトルにひかれ手に取った一冊。
以前も書いたが、犬派なのになぜか読むのは猫が多い。
一癖ある猫ゆえ話の展開がよめないから、それとも飼ったことがないので感情移入しないですむからなのだろうか。

家に帰ると猫がいた。
これは猫になった妻なのだ。
大学勤務のここの主人の家系は、その方面で名高い葦野原の長筋で為すべきことを為すのが宿業だ。
妻が突然猫になると、為すべきことを為すことがやがて訪れるのだ。

障子の脇で丸くなって眠る猫の表紙から、留守中に妻が拾った猫との日々の話だと思っていたが、ずいぶんと違う展開になってきた。
やはり猫が登場する話はミステリアスだ。
さしずめ先日の福島原発停電は屋鬼か。
この本で書かれていることは、数十年前までの日本人の心の中にはまだあったように思う。
3.11以前に書かれているのだが、あの日を転換期としなければこの国は多分消滅してしまう、そんな気持ちにさせられた。

「猫と妻と暮らす」 小路 幸也










いちばん長い夜に

2013-03-09 14:18:33 | 読書

始めからスッと物語に入っていける作品というのは好み、それともやはり作者の文章力なのだろうか。
「いちばん長い夜に」は、「いつか日の当たる場所で」「すれちがう背中を」の連作短編シリーズ続編であり、完結編でもある。
かつて祖母の暮らした下町で、人との距離を保ちつつ肩を寄せ合うように暮らす芭子と綾香は前科もちのムショ仲間だ。
過去を知られることにおびえながら暮らしている二人だけれど、下町ゆえにいろんな人とのかかわりに巻き込まれるわけで、それがおかしくも切ない。

何の隠し事もせずに済む相手だった二人の関係が微妙に違い始めたのは、あの日の出来事からだ。
この時期にこの本を読んだことに驚いてしまったのだが、タイトルと同じ短編「いちばん長い夜に」で感じた違和感。
心理描写の巧みな筆者にしても、この微にいり細にいるこのリアルさは。
作者自身も予測していなかった物語の終わり方に、偶然は必然という言葉が浮かんだ。
それにしてもこんなことが現実に起きるとは驚きです。
綾香の心の変化と共に、命の重さ、これからを改めて考えさせられる作品です。

「いちばん長い夜に」 乃南 アサ


微笑む人

2013-01-28 16:09:18 | 読書

帯には著者の言葉、「ぼくのミステリーの最高到達です」

春先の河川敷で、母と子の水難事故があった。
連絡を受け救急隊員が駆けつけたとき、横たわった二人に人口呼吸を施していたずぶぬれの男性は夫だった。
気の毒な水難事件だと思われていたが目撃者の通報により、一転犯人として逮捕されることとなるのだが、あっさり自供した動機は「本を置く場所に困って妻子を殺した」だった。
常人の理解を絶する動機に強く興味を覚えた小説家である私は、あえてノンフィクションという未知のジャンルにあえて挑むことになる。
いつも穏やかでやさしく微笑をたたえているエリート銀行員、誰もがいい人だと口をそろえて言う仁籐とは一体どんな過去を持っているのか。

あっ、こんな時間だ。
小説家である私と一緒に過去をさかのぼっていく過程に引き込まれ、先が読みたい気持ちを残しつつ就寝。
楽しみな読書タイムでしたが終盤予想していたとおりの展開に、ここまでグイグイ引っ張ってこられたのでがっかり感はぬぐえない。
これを最高到達とは・・・

歯がゆいけれど、感じた核心部分を書けないのがミステリー。
まだ今年始まったばかりなので、今月の一押し。

「微笑む人」 貫井 徳朗







5.4冊

2012-10-31 19:20:47 | 読書

図書館の年間一人当たり平均貸し出し冊数が5.4冊。
近年利用者が増える傾向にあるそうです。
ふーむ、少ない月でもこの数上回ってるなあ。
小学一年生から始まった図書館通いも、思い返せばうん十年の私としましては。
こうして日々県立・市民とお世話になっているのですが、ネットで予約・延長(市民は電話)なども出来、人気の新刊が入るのも早く、とっても便利になりました。

読み終えた道尾秀介さんの「ノエル」
色んなジャンルの作品が続いていましたが、これは久しぶりの道尾トリッキー小説。
貧乏を揶揄していじめられていた圭介君が大人になり、同窓会に出かけ・・・
「暗がりの子供」は途中から、あれ!と気が付いたのですが、全編道尾ワールド全開作品なのでした。
続いて読んでいるのは、長野まゆみさんの「あのころのデパート」
そうそう、昔デパートはささやかな贅沢と非日常性を味わう場所でした。
それが今では・・・

包装紙も箱も「当店のもの」なのに、中身が別の進物を返品に来る人。
道具街では老舗デパートのニセ包装紙も売られていたそうで(今でも?)、ニセモノ横行の中国のこと笑えないな。
進物って返品して金券に換える率が高いものだったとは。
あれもこれもと出させては広げ、何も買わないただ単に暇つぶしにやって来る常連さんなどなど。
バブル期前の数年デパート勤め経験のある作者ならではの困った人々のエピソードは驚きの連続です。

読書週間です。










 


我が家の問題

2012-05-09 09:13:39 | 読書

ささやかな日常から生まれた6つのドラマ、前作「家日和」
落札されたことからオークションにはまってしまった主婦。
ついには夫の物に手を出してしまい、これがガラクタだと思っていたら高値が付いてしまいあせる話などに大笑い。
それの続編?「我が家の問題」

前作でおおいに楽しませてもらったので、期待をこめて読み始める。
それぞれの家庭が抱える悩みはそれぞれだ。
夫と妻の初めての里帰り。
UFOと交信できるようになったなんて突然言われた妻の悩み。
見たという話なら盛り上がるだろうけど、交信と言われて心穏やかな人はそうそういないだろう。
「妻とマラソン」
おや、これは一時妻のロハスに巻き込まれていた家族の続編だ。
また新たな問題を抱えてますね。
やっぱり面白い奥田作品でした。

「我が家の問題」 奥田 英朗









図地反転

2012-04-23 08:19:15 | 読書

「藁にもすがる獣たち」が出たとき、書評にはもっと注目されていい作家だとあった。
これを読んで連想する人もいるだろうと書かれていた奥田英朗「最悪」を先に読んだものだから、あちこち寄り道をしてまず読んだのは江戸川乱歩賞を受賞した公安ミステリー「沈底魚」
公安ものはちょっとかなと思っていたが、これがおもしろいかった。
そして「藁にもすがる獣たち」でまんまとはめられてしまい、この「図地反転」でまたまた手中にはまってしまう。
曽根さんはストーリー展開がうまい。

無口で暗い感じのする男がアパートに越してきた。
解決の糸口すら見えていない四年前の女児行方不明事件についで起きた女児殺害遺棄事件。
アパート周辺で起きている猫の虐待死。
越してきた男はもちろんだが、大家の坂田も、出てくる人それぞれが闇を抱えているようだ。
たいていの場合読み進むにつれそこそこ先が見えてくるのだが、この複雑に絡まりあう闇に最後まで引っ張られる。
図地反転・・・ルビンの盃は有名だからこれはすぐ分かる。
が、染みの集まりのような絵はなかなか見えてこない。
一度認識してしまえば、見えなかったはずの絵を今度は消すことが出来ない。
警察捜査のあり方など、大きな問題を提示した作品だった。

「図地反転」 曽根圭介








少し変わった子あります

2011-09-13 07:45:46 | 読書

うーむ・・・
読後感はこの一言だった。
この少し変わったタイトルと表紙絵に惹かれて読んでみた。

後輩荒木から聞いた店のことを思い出したのは、彼が行方不明になってからのことだった。
そこは料理と酒は飲めるのだが店という実体はなく、場所はそのつど借りているらしく、接客に現れるのは三十代の女将一人だけ。
客は一人でなくてはならない。
荒木の指摘で考案されたという新しいメニューは、その場一度限りの食事を付き合う女性と共に料理を一緒に食べるというものだ。
美しいしぐさで食事をする子、無口な子。

人がものを食べるというしぐさは、日ごろ取り繕っている人の本質が垣間見えて幻滅を感じたという話は良く耳にすることだ。
見とれるほどの美しい所作というのはどんなものだろうか。
ただ食事を共にするというだけの時間にいろんな世界観が散らばまれていて、心地よい静寂感の中で深く思索するのは哲学的でもある。
「上品な孤独をどうぞ」
これはもう、ぜにぜひ味わっていただきたい極上の小説です。

「少し変わった子あります」 森 博嗣




神様のカルテ

2011-06-21 08:55:43 | 読書

続編が書店に並んでいて、この本が大変人気だったことを知り読んでみた。
医学生が医者になる道は、大きく分けて二種類ある。
ひとつは大学病院の医局に所属する道、もうひとつはどこかの病院に勤務する道。

夏目漱石「草枕」を愛読書とする栗原先生は、24時間・365日対応を看板とする本庄病院に勤務する「変人」と噂される5年目の内科医だ。
彼が救急部当直の日は重症患者が多い、いわゆる「引く医者」として周りから迷惑がられている。
作者も信州大医学部を卒業後地域医療に従事しているということで、慢性的医師不足の医療現場の大変さが非常にリアルだ。
最先端医療と一般医療、命の意味・生きるということ。
問われていることは重いけれど、ちょっと古風でずれている栗原一止先生を取り巻く人々に和む。
一に止まると書いて正しいと読む。
(武田鉄也さんは偶然にも、今朝の番組で菅さんに関連してフリーズと表現してましたが)
足元の宝に気付きもせず、前へ前へと進むことだけが正しいと吹聴されるような世の中に、いつの間になったのだろう。
思い苦悩した時にこそ立ち止まらねばならぬ。
今この言葉に出合ったことに意味がある気がして読み終える。

「神様のカルテ」 夏川 草介


蜜蜂のデザート

2011-05-28 09:05:44 | 読書

「ビストロコウタ」は、安くておいしいレストランとして地元民の間で人気の店だ。
が、高い評価を得ている料理に比べ、コース最後のデザートについて誰も感想を語ってくれない。
料理に負けないようなもっとおいしいデザートを。
これが幸太にとって目下の課題だ。

「ブルーチーズのパート・フロマージュでございます」
白く淡い色のソースが皿の上を満たし、その上に丸く焼いた生地ととろりとしたクリームが幾重に積み重なっている。
その見事な造形美をためらいなく突き崩し、口の中に入れる。
冷たさと温かさが入り混じる、温度差のある濃厚な甘みが広がった。
異なる数種類のチーズの香りが鼻先を抜けたかと思うと、ほろほろと崩れるサブレのような生地とナッツの香ばしさが舌に確かな足跡を残した。
甘い衝撃に脳がとろけてしまいそうだった。
もう一度口に含むと、むほほ、と思わず笑いが漏れた。
客として訪れた「テル・カキタ」のオーナー兼パティシエ柿田の言った、単品として食べれば存在感があるのに料理のしめのデザートとしては失敗している、とはこのことだったのだ。

スイーツをめぐり起きた事件は「食の安全」を問いながら複雑に展開していくのだが、作者は神戸フランス料理店など飲食業に従事していただけあって、人間の口に入るものに携わる人たちに苦言を呈している。
食品偽装・安全性の管理・・・儲け主義の世の中で、相変わらず後を絶ちません。

「蜜蜂のデザート」と言うタイトルに魅かれて読んだ作品でしたが、「このミステリーがすごい!」大賞「禁断のパンダ」の続編でした。
うーん、脳にガツンとくるスイーツ食べたいなあ。

「蜜蜂のデザート」 拓未 司


原子力神話からの解放

2011-05-19 07:38:29 | 読書

ネットで評判になっているというので、高木仁三郎さんの本を読んでみた。
1999年に起きた東海村JCOウラン加工工場における臨界事故の衝撃と、二十世紀の終わりに過去五十年ほどの間に進んできた原子力開発を振り返ってみるという二つの動機から、文明的な転換と原子力問題の根本を理解し先を考える必要を誰にでも分かりやすく説いている。
日本の原子力技術は優秀だ。
確かに福島原発事故が起きるまで、いたるところで事故が起きていてもどこかでそう信じていた。
だから事故後、安全対策どころか優秀だと言う根拠がどこにもなかったことに驚いたのだった。
原子力は安い電力を供給するものでもなく、地域振興に寄与するものでもなく、クリーンなエネルギーでもない。
「火」を作る技術は進歩しても、「消せない火」である原子力は無害化することが出来ない。

唐突だった浜岡原発停止措置は、人気取りだろうとなんだろうと適正な判断だと思ったのだが、他の原発は安全対策をとった上で稼動・・・
対策費を再生可能エネルギー開発研究に使うべきじゃないのだろうか。
「安全神話は崩壊した。そんなものには頼れないというところから出直そう」
そう言いながら、同じ報告書によって日本の原子力が再構築できるかのごとく言う11年前と同じことを繰り返せるつもりだろうか。
これからのことを考えるために読んでおくべき本だ。

「原子力神話からの解放」 高木 仁三郎