土曜の朝に偶然聴いたラジオ文芸館。
この日は海酒と月工場、桜の三作品だった。
控えめな効果音と男性アナによる朗読と豊かな感受性あふれる物語にすっかり引き込まれ、さっそく作者の田丸雅智氏を調べてみるとお隣愛媛出身の若手ショートショート作家でした。
さっそく読んでみた「家族スクランブル」は、子供の頃を思い出させてくれる懐かしさと温かさの感じられる物語ばかりで、1987年生まれの若さなのに今となっては豊かだったと思える昭和が濃く感じられるのが不思議です。
豊かな環境で育ったんでしょうね。
紅茶から幸茶、目からうろこと言葉から発想が広がっていったりと作者の創造力の豊かさに感心することしきり。
干しガキのようなブラックな物語や、真剣さに笑っちゃうお馬さん、しみじみと心にしみてくる常秋などなどどの作品も期待を裏切ることのない、読み終えるのが残念な本でした。
あとがきを読んで、やっぱりね。
海酒で感じたままの人柄でした
こんな素晴らしい出会いをもたらしてくれたラジオ文芸館の今朝の朗読は、大好きな坂木司さんの「肩の荷+Q」
前回の乙川さん「サヤンテラス」も、作品の選択がいいですね。
耳で聴く短編小説 ラジオ文芸館は、朝8時5分から45分までです。
「しかめっ面して何を読んでるの?」
きっとそう問われただろう、前作「原発ホワイトアウト」のさらに上をいく不快な気分で読み終えた。
フクシマ以降、電力モンスターシステムの存在が明らかになってきましたが、事故の責任を誰もとらされることがなかったため、未だその影響力は衰えることがない。
毒饅頭に群がる議員に官僚達。
きっと関係をばらすぞと脅しがあったのだろう。
ノンフィクションとフィクションで物語は一応構成されていますが、都知事選でマスコミに感じた違和感は間違いではなかったと納得する。
テレビよりまだましだと思っている朝夕のラジオ番組ですら、微妙に変わる発言に闇の圧力を感じることがある。
が、原子力ムラの御用解説委員でない水埜解説委員は、ラジオに時々登場する水野解説委員で信頼に値する。
古生代石炭紀から生き続け「生きている化石」とも称されているゴキブリと同じく、何が起きようと懲りずにしぶとく生き抜く日本の縦割り官僚制は、放射能汚染に抵抗力があるところもまた共通性があった。
いつまで尻拭いは国民に、をのさばらせていくのだろう。
必読です。
園遊会で天皇に直訴した山本議員がマスコミ批判を受けましたが、日本国憲法に請願権が規定されているそうです。
「天皇に対する請願書は、内閣にこれを提出しなければならない」
今上陛下への請願の送付先
〒100-8968 東京都千代田区永田町1-6-1 内閣官房内閣総務室
とありました。
「東京ブラックアウト」 若杉 冽
臨時だけど先生になる夢を抱いていた主人公ゆきがおじいちゃんの田んぼを受け継ぐ決心をしたのは、卒業式当日に起きたあの大震災だった。
あの惨状を目の当たりにして、大半の人がこれからの生き方について考えさせられたと思う。
分岐点に立ち、目の前の整備されたまっすぐな道を進むのか、でこぼこで曲がりくねっているけど土の感触を踏みしめて進むのか。
しかし今では3.11は日本が立ち止まるいい機会だった、改めてそういわれなければいけないくらい何事もなかったかのような扱いだ。
神話によると、天照大神が地上に降り立つ孫に一束の稲穂を「日本を豊葦原の瑞穂の国にしなさい」と手渡したことが稲作の始まりとある。
稲が豊かに実り、国民が平和に暮らす国。
米は連作しても土地をやせさせないのだ。
「世の中にはいろんな考えを持った人がいるべ。
能率的に米がとれるのがいいという人もいる。
そればかりじゃない人もいる。みんな違うのさ。
んだからよ。全部一緒にしないで欲しいんだ。
俺みたいな農家も、生きられる世の中になってくれればいいなぁ」
ゆきのおじいちゃんの言葉は、今おかれている米農家の現状を語っていて心にずんとくる。
コシヒカリから始まった今年の新米は今、大野見村の特栽米にこまるです。
特別栽培によるエコロジー活動、応援します。
「雪まんま」 あべ美佳
「明日、やま、行きませんか」
どんよりした不調のサインをキャッチしたのか、山歩き大好きの同僚藤原ちゃんが誘ってくれた。
いきなりの明日!
初心者でもハイキング気分で登れる山だったが、それでもしんどい思いをして登った山だった。
そこで出合った、ひとつの感情になったような感動。
生まれる前にそれを見たようなで、たまらなく涙腺が緩み素直になれたような気分。
山から手を差し伸べられ、そしてしっかり、その手を握った。
それはやがて山好きの聖域「槍岳」、常念山脈縦走へと、つながっていく。
日帰り登山経験しかないのだけれど、共に山泊をしながら縦走登山している気分になる。
山泊してみたい。
俄然興味がわいてきて登山用テントなど調べてみると、大体4~5万円で1、5キロ前後。
アライテントのエアライズやパイネG-LIGHT、モンベルあたりが人気のようでした。
頻度・予算・体力を考えると、ツェルトだなあ。
まあ必要ないか・・・
裏に注意書きもあるくらい、その気にさせられる小説でした。
くれぐれも気をつけて。
北村 薫 「八月の六日間」
うーん、相変わらず三浦しをんさんは人物描写がうまい。
体温が感じられるっていうか、数ページですとんとその世界に入り込んでしまう。
ちょっとした文章の中にも笑いがあり、そして悲哀がある。
まるで還暦川柳のブラックな笑いのようなのだ。
「男たちはまだ、背後から忍び寄る老勢力に気づいていない」
老勢力とは、やんちゃをしていた昔の仲間からぼこぼこにされた愛弟子のため、話し合い(脅し)に出向いた堀源二郎と有田国政の73歳幼馴染コンビのことだ。
気が合うわけではないのにこんなに長く面合わせているのは、惰性ってやつらしい。
真面目に銀行を勤めあげた国政にしてみれば、好き勝手に生きてきたようにみえるつまみ簪職人の源二郎に若い弟子が出来たのがうらやましくて仕方ない。
仕事一筋、家庭を顧みなかったばっかりに、ある日妻は娘夫婦の家に出かけたまま帰ってこない。
お互いさびしい老後の境遇と思っていたのに、置いていかれた気分なのだった。
政は山崎努、源は禿頭じゃないけど菅原文太かなあ。
「神去りなあなあ」も映画化されたことだし、と勝手にイメージを膨らませてみた。
「政と源」 三浦しをん
先日、秋葉原事件の弟が自殺したと聞いて、東野圭吾の「手紙」を思い出した。
罪は当事者はさることながら、周りのものをも苦悩させるものだと改めて思う。
そこまで考えが及ばないから重大事件を犯してしまうのか?
薬丸作品には罪、過去とどう向き合っていくのかという重いテーマーが多いのだが、これは特に深く考えさせられた。
ジャーナリストの夢が捨てきれない主人公が一時的なつもりで入った会社の同僚が、世間を震撼させた事件の犯人かもしれなかったら。
「死んだら悲しいと思う」
軽い気持ちで言ったその一言で親友と呼ばれるようになったら。
自分だったらどうするのだろう。
目の前にある今と過去。
作中に出てくる事件はあのことだと連想させられるから、過去だとは簡単に割り切れるものではない。
ジャーナリズムとはなんだろう。
最近劣化著しいと思っているが、受けてである傍観者としての自分はどうなのか。
関わった人たちそれぞれの罪という問題提起もある、肉厚の作品だった。
薬丸 岳 「友罪」
待ってました、待望の第三弾!
と言いたいところだが、昨年「まほろ駅前多田便利軒」の映画から魅了された多田と押しかけ居候行天コンビの物語は、すでに週刊文春で第三弾の連載が終わっていたのだった。
それはともかく、今回もゆるーい新年から始まった。
冒頭からすぽんとその春霞のような空気に浸ってしまうのが、この作品の不思議な魅力だ。
常識人多田と相変わらずマイペースな行天との三年目の正月にルルとハイシーが乱入、マッチ売りの少女談義中に、電話が鳴った。
「山城町の岡だ!」
うわははは。
やっぱりきました、正月恒例、岡さんからの依頼が。
「怖いもんなんかあるのか?」
「あるよ。記憶」
行天の過去の切なさにじわっと涙し、ある時は、くすくす、ははは、わはははと大爆笑、分厚いと思っていたのを一気に、そして終わるのが残念な気持ちで読了。
読んだらきっとはまる多田便利軒。間違いない!
「まあ、どうにかなるって」
待望第四弾・・・バージョンアップで、はないかな。
「まほろ駅前狂騒曲」 三浦 しをん
なんとも贅沢な企画だ。
作家自身が選んだ人気作家に、自身の好きなモチーフでの小説をお願いしたという新作短編集。
初めに読んだのは、近藤史恵リクエスト「ペットのアンソロジー」
同じモチーフでも、書き手が変わればもこんなにも切り口が違うのだ。
愉快な作品、そうそうと、ついうなづいてしまう作品。
柄刀一さんの作品では、涙腺うるうるから・・・
ペットを飼ったことのある人だったら、大泣き間違いありません。
続くは、大崎梢リクエスト「本屋さんのアンソロジー」
文筆業を生業とした方達だから、当然のことながら本屋さん・本への思い入れには力がはいっている。
謎として登場した本、石持浅海「君がいなくても平気」、他の作品も読んでみたいと宮下奈都「誰かが足りない」など、出合いから波及していくのが競作本の醍醐味だ。
ロバ君にもまた会ってみたい。
そして、今読んでいる坂木司リクエスト「和菓子のアンソロジー」
和菓子にまつわる話だから、かなり異色な作品がある。
「チチとクズの国」は爆笑もの。
「和菓子のアン」を読んだ時、日頃あまり縁のない和菓子を食べたくなったものでしたが、台風が去りぐっと涼しくなってきた今日この頃、熱く渋めの緑茶に餡子の入ったお菓子が浮かぶ。
ちなみに、つぶ餡派。
季節によって名前の変わるおはぎは秋の呼び名で、春には牡丹餅、夏には夜船。
日本語は美しく繊細だ。
ケーブルテレビで「まほろ駅前多田便利軒」を観た。
まじめな人柄の多田と、同級生だっただけの理由である日突然転がり込んだ行天二人のコンビが便利屋家業で出くわす人々とのあれこれ。
これがなんというか奇妙で変に心地よく、最後のシーンと共に心に余韻の残る映画だった。
まほろという言葉にどこかで出合ったぞ、もしかしてと思っていたら、エンディングテロップに三浦しをんさんの名が。やっぱり。
そういえば「船を編む」も、世間からちょっとずれていて同じ匂いを持つ主人公だった。
ミステリーもいいけど、たまにはこんなあくせくしてない話がいいな、と三浦さんの本を物色していたら「まほろ駅前番外地」が出ていた。
嬉しいことに続編があったのだ。
しかも、前回登場した個性的な面々のその後がある。
星や頑固親父に、ユラコーも。
先に映画で観たせいか、読みながら眼前には二人が映像として浮かぶ。面白い。
パート2の映画にならないかなあと思っていたら、これテレビ化されていたのだ。
知らなかった。
しかも来月ケーブルテレビで一挙放送。
刃物を持ったストーカーに追われているのにだらんとさげた両手をぶらぶらさせて逃げていた行天は、金剛力士像の吽を目指しているらしい。
酒に加えて固形物も食うようになり、かさむ食費に日々頭を悩ませる多田。
飄々とした奥に潜む狂気を垣間見てしまっては、この疫病神の居候を見捨てるわけにはいかないだろうな。
二人の関係は続く。
さらなる続編待望す。
「まほろ駅前番外地」 三浦 しをん
あの社会現象とまでなった「1Q84」以来の村上春樹新作と聞けば、熱烈な村上ファンでなくとも興味がかきたてられる。
しかもタイトルが、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」
内容について一切知らされてなかったので、自分の中では福島原発事故が関係しているのではないかと思っていた。
読み始めたときから感じていたものは、京大で講演をした話の中の「新しい試み」というものだろうか。
灰田の存在、灰田の語る祖父が体験した緑川とのエピソード、ここが一番印象的だ。
緑川による倫理観は、あの地下鉄サリン事件を起こしたエリート達がなぜ狂信的犯罪者に変貌したのかということを思い起こす。
抽象的な生物で表現されるものが不可思議ではあるけれど現実的なものとして表現されているので、マニアではない私としてはいつもより入り込みやすかったのだが、同じくマニアでないY氏は「おもしろいけど、1Q84のほうが面白かった」
さて、熱烈村上ファンの評価は?
「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」 村上 春樹