JINX 猫強

 オリジナルとかパロ小説とかをやっている猫好きパワーストーン好きのブログです。
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聖闘士学園へようこそ・番外編2

2007-07-15 04:31:51 | プチ・原稿
「なにをしておると聞いている」
 一輝は腕立て伏せを続けている氷河の背中を踏みつけた。
「くッ」
 一輝に背に乗られ、氷河は呻いた。
「なんだ、氷河? もう降参か」
 氷河の背に乗ったまま一輝が口元を歪めた。
「うるさい、だが、靴ぐらいは脱いだらどうだ」
 氷河は一輝を背に乗せたまま、腕立て伏せを続けた。
「オレはお前の体力作りを手伝ってやっているのだ、贅沢をいうな」
 腕立て伏せを続けながら、氷河は口を開いた。
 腕を震わせる氷河を見て、一輝が唇の端を吊り上げた。氷河はもうかれこれ2時間以上、バカの一つ覚えのように腕立て伏せを続けている。
「誰が頼んだ」
 切の良い数で腕立て伏せはやめようと思っていたのだ。そのやめようと思っていた直前に現れたバカに背に乗られての腕立て伏せに、氷河の筋肉が悲鳴を上げている。陰険な一輝のことだからそれを見越してわざと背中に乗っているのだ。
「お前…学校なんかに入らないんじゃあなかったのか」
 沙織に高校への編入を進められたとき、一輝はガラではないからと、沙織の申し入れを突っぱねている。
「退屈なんでな」
 一輝は苦しげに腕立て伏せを続ける氷河から視線を窓外の風景に移した。
「学校も、退屈だと言っていなかったか」
「お前のいない場所なんぞ、どこだって同じだ」
 いって一輝は氷河の上に腰を下ろした。
「バカッ、やめろ」
 懐からタバコを取り出し、ライターで火を点けようとしている一輝に氷河は瞼を見開いた。
「やめろといわれて、オレがやめた事があったか?」
 一輝が嗤った。
「黙れッ」
 氷河は右腕に力を込め、左腕で一輝を跳ね除け、言葉を続けた。
「お前も学生なら校則には従え」
 氷河は一輝を睨みつけた。
「オレを従わせるものは力のみよ」
 一輝は嗤い、それでもタバコはしまった。
「力だけでは、変わらない、変えてはいけないものがある」
 もう、勝ち負けだけが全てを制するような闘いの場からは氷河は退いたのだ。
 聖衣を返還したこれからは「人」としてこの世の生を全うするのだ。
 そのために氷河はここで学ばねばならない。一輝ごときにかかわっている暇はないのだ。
「そうか、ならばオレも変えてみるか?」
 心の奥底を射抜くような一輝の視線を、氷河は弾き返した。
「私闘は、女神に禁じられている」
 やがて、氷河は視線を伏せた。
 全ての闘いにおいて唯一、氷河に土を付けた男が一輝であった。
 あの当時、一輝は自身の理性ではどうにもならないほどの憤怒を自身の内に燃え滾らせていた、それは幼い弟を死地へと追いやった城戸光政に対する憤怒と、自身の愛する少女を自身の至らなさから目の前で死なせてしまった自己に対する憎悪と憤怒であった。
 だが、憎むべき城戸光政の血を自身が受け継いでいると知ったとき、一輝の内部で駆け巡る憤怒の全てが光政の血を受け継ぐ、当時、一箇所に収容されていた少年たちに向いた。
 自身の出生の秘密さえ知らされずに、ただ聖戦と対峙するために聖闘士となった少年たちに…。
 だが、その中で一人だけ、氷河だけは自身の父親が光政だと知っていた。
 氷河にとって顔も知らぬ父親など、どうでも良い存在だった。
 まして、母の死を悼む氷河に冷たい一瞥を残し、その場を去った男など、父などと認識できるものではなかった。
 だが、事実を知っていた。その一事だけで一輝の憎悪は氷河に向いた。
 氷河は一輝にこれ以上はない屈辱を味合わされ、一輝に憎悪を向けたこともあった。
 だが、もういい。
 仮に一輝と私闘ったとして、氷河が勝てば、一輝の唯一の弟、瞬が悲しみ、一輝が勝利すれば瞬が氷河を思い心を痛める。
 どの路、ろくなことにはならない。
「また、女神か」
 一輝が嗤った。
「うるさい」
 氷河は壁にかけられている時計に視線を移し、言葉を続けた。
「それより寮会議の時間だ」
 月に一度、寮での出来事の報告を行う。
「それがどうした」
 くだらないことをいうなという一輝の表情に氷河が唇を吊り上げた。
「議長は瞬だ、遅れるなよ」
 どう、取り繕おうが、一輝は瞬には弱い。
「瞬だから、なんだ」
 全てを見透かしているような氷河に、一輝が虚勢を張った。
「さあな、だが…寮生は地元の高校で見放された悪ばかりだからな」
 議長も周囲が大人しい瞬に押し付けたものだ。
「フッ、悪だからなんだ? 瞬とて聖闘士、そんな悪ども一瞬で…」
「そうかな? 相手は瞬だ、生徒に殴られてもそうダメージを受けないのなら黙って殴られるのではないか?」
 一輝の物言いを氷河は遮った。
「な、なにをバカな…」
 そう口にしながらも一輝は氷河に背を向け歩き出す。
「いいな、お前も早く来い、寮生が揃わねば瞬が困るだろうが」
 背中越しに振り向き、のたまう一輝に氷河は目を見張った。
 目を見張ったときにはもう、その場から一輝の姿は消えうせていた。

「続く」
 
 日記なのに続いていいのかなぁ?