モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

プレ・モダンローズの系譜 ⑥現代のバラ、ハイブリッド・ティーへの進化

2009-01-08 09:34:44 | バラ

ティーローズからハイブリッド・ティー・ローズへ
現代のバラの主流は、ハイブリッド・ティー・ローズ(略称:HT)だが、
このHTは、ハイブリッド・パーペチュアル・ローズ(HP)とティー・ローズの交雑で生まれた。

ハイブリッド・パーペチュアル・ローズは、このシリーズの⑤でふれたが、ノアゼット系のバラ、ブルボン系のバラなどが1810年代後半に登場したその土台の上で成立し、ラフェイ(Jean Laffay)が1837年に作出した「プリンセス・エレネ(Princesse Helene)」が最初の品種とされている。
一方、ティー・ローズは、翌年の1838年に作出された「アダム(Adam)」が最初の品種として登場した。

ほぼ同時期にハイブリッド・ティー・ローズにつながる重要な系統がフランスで誕生した。この根底には、中国原産のバラが深くかかわっているのでこれを確認していくことにする。

ティー・ローズ誕生に関わった中国原産のバラ
1700年代の中頃以降から中国原産のバラがヨーロッパに伝わり、マルメゾン庭園での人工交雑以降の1810年代頃からあらゆるバラと交雑され、そこから重要な系統が誕生した。ノアゼット系、ブルボン系、ティー・ローズ系などである。

(1)1809年にイングランドに中国原産のバラが伝わる。
このバラを導入したヒューム卿の名前を取り、ヒュームズ・ブラッシュ・ティー・センティド・チャイナ(Hume's Blush Tea-scented China)と呼ばれた。
このバラは、中国原産のコウシンバラと中国雲南省原産のローサ・ギガンティア(Rosa gigantea)との自然交雑で誕生したといわれている。
ローサ・ギガンティアは、中国名で香水月季と呼ばれ、大輪で花弁のふちが強くそりかえるという特徴があり、現代のバラの花形にこれを伝えた。

(2)1824年にはイエローローズの基本種が入る。
英名では、パークス・イエロー・ティー・センティド・チャイナ(Parks' Yellow Tea-scented China) 、中国名では黄色香月季と呼ばれたバラがイングランドに伝わる。このバラは、イギリス王立園芸協会のパークス(John Damper (Danpia)Parks)が中国・広東省の育苗商からヒュームのバラと同じ系統で花色が黄色のバラを入手しロンドン園芸協会に送った。翌年にはパリに送られる。

(3)最初のティー・ローズ「アダム」の誕生
最初の品種は、1838年にフランスのアダム(Michel Adam)によってつくられた。ヒュームのバラとブルボン系の品種との交雑で作られたといわれ、大輪、柔らかい桃のような花で、強いティーの香りがする。

(写真)最初のティー・ローズ「アダム」

(出典)  http://www.bulbnrose.org/Roses/Rose_Pictures/A/adam.html

最初のティ・ローズ「アダム(Adam)」が発表されてから以後、1838年フォスター作の「デボニエンシス(devoniensis)」、1843年ブーゲル作の「ニフェトス(Niphetos)」、1853年に代表種であるルーセル作の「ジェネラル・ジャックミノ(General Jacqueminot)」が発表された。

また、ティー・ローズは雨が多くジメジメした涼しいイギリスの気候は適さず、1800年代の中頃にはフランスのリビエラが栽培の中心となった。

(4)ハイブリッド・ティー・ローズ「ラ・フランス(La France)」の誕生
1867年、ついに最初の四季咲きハイブリッド・ティー『ラ・フランス('La France)』が作られた。作出者は、フランスのギョー(Jean-Baptiste Guillot 1840-1893)

(写真)最初のハイブリッド・ティー・ローズ「ラ・フランス」

(参考) Hybrid Tea Rose ‘La France’
http://www.rosegathering.com/lafrance.html

花は明るいピンク色で裏側が濃いピンク、剣弁で高芯咲き、花径は9-10cm、花弁数が45+15枚と多く、香りはオールドローズのダマスク香とティーローズ系の両方を持ち四季咲きの大輪。
交雑種は、ハイブリッド・パーペチュアル系の「マダム・ビクトール・ベルディエ(Mme Victor Verdier)」とティー・ローズ系の「マダム・ブラビー(Mum Braby)」といわれている。

しかし実際は、リヨンにある育種園の苗木の中からギョーにより発見されたようで、人工的な交雑ではなく自然交配だったようだ。だから、両親がよくわからない。

しかも初期の頃は、ハイブリッド・パーペチュアル・ローズと考えられていたが、
イギリスの農民でバラの育種家・研究者でもあったベネット(Henry Benett 1823-1890)が、「ラ・フランス(La France)」を新しいバラの系統として評価し、ハイブリッド・ティーの名を与え「ラ・フランス(La France)」をその第一号としたことにより新しい系統となった。

園芸品種の中では、バラの系図が最も明確にされているが、これはベネットのおかげであり、新品種作出の交雑種・作出者・作出地などが明確でなかったものを、各品種ごとに明らかにし、一覧表に記載する方法を考案した人で、その後の系統分類の基礎を築いた人でもある。
彼は、1879年に10の異なったバラの系統を示し、この時にハイブリッド・ティーという系統も提示した。フランスでは比較的早くハイブリッド・ティーが認知されたが、全英バラ協会がこれを認めたのは1893年で「ラ・フランス」誕生から26年後だった。頑固な英国人気質は今はじまったことではなさそうだ。

また、境界線を引くことは意外と難しく、1859年にリヨンのFrançois Lacharmeが作出した「ビクター・ベルディエ(Victor Verdier)」は、両親が「Jules Margottin」(ハイブリッド・パーペチュアル)と「Safrano」(ティー・ローズ)であり、最初のハイブリッド・ティー・ローズであってもよかったが,そうは認められずハイブリッド・パーペチュアルとなった。
しかし、最初のハイブリッド・ティー「ラ・フランス」には、「ビクター・ベルティエ」の遺伝子があった。

現在主流のバラハイブリッド・ティー(HT)は、このようにして誕生し、“選び抜かれた雑種の極み”とでもいえだろう。
“純血よりも美しくて強い” これがハイブリッドで実現したことで、混血を見くびってはいけないという教訓を我々に教えてくれる。
国粋主義者は滅び行く宿命を抱えているのだろう。

HT=HP系×ティー・ローズ系
HP=ノアゼット系、ブルボン系、ポートランド系などの交雑
ティー・ローズ=コウシンバラ(Hume's Blush Tea-scented China)×ローサ・ギガンティア

(プレ・モダンローズの系譜==完==)

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