モノトーンでのときめき

ときめかなくなって久しいことに気づいた私は、ときめきの探検を始める。

その18:フェルメールと手紙、その1 主役一人の絵

2012-05-06 15:34:19 | フェルメール
東京渋谷の文化村ミュージアムで開催された『フェルメールからのラブレター展』は、今から2ヶ月前になるが2012年3月14日に終了した。

2月の初め頃展覧会に行ったが、なかなか書けないで今日に至ってしまった。
それは、今にして思うとラブレター展という企画がつまらなかったからなのだろう。
どの絵を見ても“手紙”だらけで、大好きなフェルメールの絵すらときめきを感じないものになってしまった。
この悪印象の残像が消えた今、“フェルメールと手紙”というテーマで書いてみようと思えるようになった。

フェルメールと“手紙”
フェルメール(Johannes Vermeer, 1632 -1675)は、彼の作といわれている36作品のうち“手紙”を主題とした絵を6作品描いている。生涯の作品数が少ない割には、手紙を主題とした作品数はかなり多いなという感じがする。この時代17世紀の“手紙”については最後にまとめることにして、フェルメール作の6作品を年代順に以下に掲載する。
この6作品のうち3作品、 「手紙を読む青衣の女」 「手紙を書く女」 「手紙を書く婦人と召使」 が『フェルメールからのラブレター展』に展示されていた。「手紙を読む青衣の女」は日本初の展示だった。

1.窓辺で手紙を読む女  Girl reading a Letter at an Open Window


・制作年代:1657年頃
・技法:カンヴァス、油彩
・サイズ:83×64.5cm
・所蔵:アルテ・マイスター絵画館(ドイツ、ドレスデンにある美術館でドレスデン美術館を構成する12の美術館のうちの一つ。)
(出典)1st-art-gallery.com

この「窓辺で手紙を読む女」の絵をX線写真で検査すると、壁にはキューピットの絵が描かれ、こぼれた果物の手前にワイングラスが描かれていたというが塗りつぶされており、不倫相手からの手紙を読む女性を描いているという。手紙を通じて窓の外の世界を見ているのだろう。

【来 歴】
1742年にポーランド国王Friedrich August von Wettin (1696 –1763)が、当時はレンブラントの作品としてこの絵を購入したという。この絵を所蔵するアルテ・マイスター絵画館のコレクションは、この国王が集めたものが出発点となっている。
フェルメールよりはレンブラントのほうが有名であり絵が高く売れるのでレンブラント作となったのだろうが、レンブラントらしさはない。

1826年にはフェルメールと同時代のデルフトの風俗画家ピーテル・デ・ホーホ(Pieter de Hooch、1629-1684)の作とされ二度目の誤診がされた。レンブラントよりはピーテル・デ・ホーホの絵に近いと思うが、それでも違うところがある。フェルメールの絵は写真そのものと見間違うほどの写実性があるが、写真にはない物語性という構図でのフィクションとそれらが作り出すなんともいえない気品がある。

ピーテル・デ・ホーホの有名な『配膳室にいる女と子供』(アムステルダム国立美術館, 1658頃)と比較していただくと違いが良くわかる。

(出典)ウイキペディア

この絵がフェルメールの作と認められるようになったのは、1860年の頃でありフェルメールを再評価し現在のフェルメールブームを作り出したフランスのジャーナリストで美術評論家のトレ・ビュルガー(Théophile Thoré-Bürger 1807 –1869)による。

第二次世界大戦の時にドレスデンは爆撃され赤軍が侵攻したが、この時に絵画が略奪されソ連に持っていかれた。スターリンの死後の1955年に元の持ち主に返還することが決定した。この頃は、鉄のカーテンの内側にある東ドイツであったから戻ったのだろうが、ヒットラーもフェルメールのファンだったが、もしかしたらスターリンもフェルメールファンだったのかもしれない。

2.手紙を読む青衣の女  Woman in Blue Reading a Letter

・制作年代:1663〜1664年頃
・技法:カンヴァス、油彩
・サイズ:46.6×39.1cm
・所蔵:アムステルダム国立美術館
(出典) 1st-art-gallery.com

日本で始めて公開されたこの絵は、妊婦が旅行中の夫からの手紙を読んでいるという風に受け取られる。壁には薄汚れて読み取れないがネーデルランドの地図が掛けられ、テーブルには読み終えた手紙と真珠の宝石箱が置かれ恋しい人を暗示しているという。

しかしこの女性の顔をアップで見ると、口を半開きにし手を強く握り締めている立ち姿は、恍惚感というか緊張感があり、妊婦服に見えるこのブルーの服は、オランダ語でbeddejakと呼ばれるベットでも着れるカジュアルで高級な服となると解釈が異なってくる。
さらにX線で検査するとこのブルーの服が描かれる前は毛皮の服となると、妊婦が恋しい不在の夫からの手紙を読んでいるということではなく、朝起きたばかりの若い女性が朝陽の下で恋人からの手紙を期待と希望で陶酔状態で読んでいる。ということになりそうだ。
細部のアップは展覧会ではわからない或いは気づかないが、デジタル画像での楽しみ方だとはじめて気づいた。

それにしてもこの絵は汚れていたが、来歴を見てなるほどと思った。
わかっているだけでも10回以上も所有者が変わり、そのうちの誰かの保存状態が悪かったのだろう。
最後は、1847年、アムステルダムの銀行家アードリアン・ファン・デル・ホープ(Adriaan van der Hoop 1778-1854)に渡り、彼の死後にアムステルダム市に寄贈し、1885年以降レイクスミュージアム(Rijksmuseum、国立美術館)に貸し出されているという。


3.手紙を書く女  A Lady Writing a Letter

・制作年代:1665年頃
・技法:カンヴァス、油彩
・サイズ:45×39.9cm
・所蔵:ワシントン、ナショナル・ギャラリー
(出典) 1st-art-gallery.com

手紙は書かれなければ読まれないが、フェルメールはこの他にもう1点手紙を書く絵を描いている。
この絵は、手紙を書いている最中にイベントが発生し、振り向いて何が起きているかを確認しようと凝視している姿を描いている。

三つ編みされたシニョンとリボンのヘアスタイルは17世紀中頃に人気があったファッションのようで、モデルはフェルメールの妻Catharina Bolnesではないかといわれている。

【来  歴】
1696年5月16日アムステルダムのオークションでフェルメールの絵画21点が競売に掛けられた。売り手は、フェルメールのスポンサーとして知られるPieter Claesz. van Ruijven (1624 -1674)の娘婿Jacob Abrahamsz Dissius(1653-1695)で彼の死後1年後にフェルメールの作品21点が競売された。

Pieter Claesz. van Ruijvenは、1657年にフェルメールに200ギルダーを貸したことが記録に残っている。フェルメールの死亡(1675年12月15日43歳)の前年1674年に彼は死亡しているので、彼が遺産として残したフェルメールの絵画はこれ以前に入手していることになる。

21の作品は合計で1503ギルダーで競売されたようだが、このうち現在のフェルメール作と一致するのは以下の15作品で6作品は未確認か疑わしい絵のようだ。

・A Girl Asleep (眠る女)
・Officer and Laughing Girl(兵士と笑う女)
・The Little Street (小路)
・Woman Holding a Balance (天秤を持つ女)
・The Milkmaid (牛乳を注ぐ女)
・View of Delft (デルフトの眺望)
・The Lacemaker (レースを編む女)
・Woman with a Pearl Necklace (真珠の首飾りの女)
A Lady Writing a Letter (手紙を書く女)
・Lady Standing at a Virginal (ヴァージナルの前に立つ女)
・The Girl with the Wine Glass (ワイングラスを持つ女)
・Girl Interrupted at her Music or The Concert (中断された音楽の稽古)
・The Guitar Player (ギターを弾く女)
Mistress and Maid (婦人と召使)
・The Music Lesson (音楽の稽古)

20世紀にはいるとアメリカの大富豪が名画のコレクターとして登場する。
アメリカの大財閥を形成したジョン・ピアポント・モルガン(John Pierpont Morgan, 1837-1913)も1907年にこの絵画を取得し、父の死後息子が1940年まで保持した。
その後、1946年にはアメリカの砂糖財閥ハブマイヤー家のHorace Havemeyer (1886–1956)が購入し、彼の死後息子たちが1962年にワシントンのナショナルギャラリーに寄贈して今日に至る。

フェルメールが描いた年代順に6作品を見たが、この三作品に共通しているのは、描かれているのは主役一人だということだ。残り三作品は脇役としての召使が登場するので、これは意図して描いたのかもわからない。私的で閉ざされた手紙からオープンになった手紙を描こうとしたのだろうか?

(続 く)

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4 コメント

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フェルメール (草薙)
2012-05-07 19:46:44
こんばんは、草薙です。
フェルメール展は期間があったのに遂に行きませんでした。
この画家の絵は(とても的確に言い表せませんが、敢えて素人の感想を申しますと)、写真のように緻密でありながら明らかに絵画と判りますし、どちらかと言えばあまり明るくない沈んだ調子で、やや古びて静穏な中にも独特な存在感があるといった印象を持っており、何故かミレーのような雰囲気も感じております。こう書いている内に何だかウチに戻って画集を眺めたくなりました。一杯引っ掛けてから忘れずに探してみようと思います。
続きをとても楽しみにしております。
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草薙さん (キャスパー)
2012-05-09 16:59:25
コメントありがとうございます。
今年はフェルメール6作品が日本で公開されるようで楽しみに待っています。返事が遅れましたが、常温のお酒が美味しい時期で連休を通じ飲みまくっていたので連日二日酔い状態です。
さて今日は軽めにしないと!
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ご無沙汰してます (Kazuko)
2012-05-19 19:52:52
ご無沙汰してます。お元気ですか?

ベルギーのビデオを見ていたら、タペストリー屋さんで見事なフェルメールの作品があったので、思い出してブログを拝見しに来ました。
そうしたら、フェルメールの記事が・・(*^o^*)

楽しく拝見しました。美術鑑賞って本当に面白いですね。
美術鑑賞の楽しさを教わってます。

また続き楽しみにしていますね

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カズさん (キャスパー)
2012-05-26 14:55:35
ご無沙汰してます。
最近お酒を飲むのに忙しく、PC離れをしてます。そろそろブログに復帰しようと考えているところですが・・・・さてどうなるのでしょう?
続きはそろそろアップします。急がないと『真珠の耳飾りの少女』が上野に来るので、現実に遅れることになりそうです。
遅れて返事すみません。
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