それは、ついこのあいだ、ほんの百年すこしまえの物語。
表紙の帯に記された言葉通り、この百年ばかりで私たちを取り巻く環境は大きく変わってしまった。
おそらく、それ以前の千年や二千年という長きに亘って、
日本を取り巻く自然環境は、ほとんど変わることなかったのだろう。
土地の神々と共に、人は日々のたずき(生計)を得、畏怖し奉り、
あやかしや森羅万象に宿るものたちの存在を身近に受け入れていた。
濃密な闇や生き物の気配や日常的な死が、日々の暮らしのすぐ側にある世界には、
「畏れ(おそれ)」という謙虚な感情が人の心を支配していたはず。
忘れましたよね?
一寸先も定かでない漆黒の闇。
深い森の中の生き物たちの濃厚な気配。
尋常ならざる存在に対する畏敬の念。
前作、「家守綺譚」で、京都、おそらく東山山麓の疏水べりの留守居宅に暮らす、
文士、綿貫征四郎の四季を彩る森羅万象との交流を描いた。
それは、庭の百日紅の征四郎に対する懸想であったり、
琵琶湖を渡る秋風に乗り竹生島から吉野へ渡る竜田姫一行の風渡りであったりする。
それぞれの物語に、「都忘れ」「白木蓮」「貝母」と歳時記のように季節の草木の名を表題に記す。
泉鏡花を思わせる懐かしくも繊細な日本語の質感が、
花の香しさや風のそよぎ、月の光や露の煌めきまで読み手の五感を刺激し続ける。
そして、その続編が、この「冬虫夏草」。
征四郎の側に在り、より猿や鷲や河童、はたまた土地の神々との交流を自在とする
犬のゴローが行方知れずとなる。
そのゴローの消息を尋ね、鈴鹿山中へ分け入るのが本編の内容。
今度は、里や山の人の暮らしが中心に描かれる。
まるで柳田國男の「山の人生」や宮本常一の「忘れられた日本人」を読むように。
当時の旅は、旅籠のない場所では、集落の中の民家が旅人を受け入れていたようだ。
その村々で出会う素朴な人情と民間信仰が丁寧に描かれている。
またしても征四郎は、この世ならざるものたちの想いと係ってゆく。
初産の苦しみで亡くなった少女、お菊さんの霊に託された願いを叶えるための話や
信州から嫁いだ蒟蒻屋のお婆さんの初恋の風景(草原一面にそよぐ松虫草)に、
はからずも登場してしまう征四郎…どれも切なく美しい。
でも今回のお話の胆(きも)は、表紙にも描かれたイワナの夫婦が営む山の宿かもしれない(笑)
主人公の文士、綿貫征四郎も、この怪しい話に釣られて鈴鹿山中奥深くへと誘われる。
あまり内容に触れると、読む楽しみが半減するので、この辺りで。
前作「家守綺譚」を読んでない方は、新潮文庫から出ているので、そちらからどうぞ。
(本作「冬虫夏草」の画像は、山小屋の薪の炎の側で撮ったため本来の色とは違います)
冬虫夏草 | |
梨木 香歩 | |
新潮社 |
家守綺譚 (新潮文庫) | |
梨木 香歩 | |
新潮社 |
雨上がりの寒気到来で山へ籠っていました(笑)
良かった。
まぁちゃんなら梨木香歩の物語世界に共感を抱いてくれると思いお薦めしました。
四季の移ろいと共に生きる百年前の日本の姿です。
でも、ここで描かれている世界って特別なことではないのですよ。
源氏物語、雨月物語そして文明開化の近代化以降も漱石も内田百閒も泉鏡花も、
日本の物語文学の通奏低音として森羅万象に宿る不可思議なものたちとの交流が当たり前のように描かれています。
宮崎駿や村上春樹が、これだけ日本人に愛されるのも同様だと思っています。
山に一人で入り、自然と直に向き合っていると素直に、この世界を受け入れられます。
実は、今回の山小屋の夜の一冊は、「冬虫夏草」でした(笑)
何度、読んでも良いですね。
深い闇を身近に感じる蝋燭の灯りの下では。
まぁちゃんも、何処か山峡の温泉宿で、この本を読むと、また違った感慨が湧いて来ると思います。
山の紅葉は一気に来ています。
明け方の気温は2℃でした。
アオバズクの樹の下でお話ししてくださった梨木香歩の家守綺譚、読みました。
随分前に読み終わっていたのですが、ようやく感想をブログにUPしました。
素敵でした~。
私どもは古代の玉を専門とする古美術商ですので、この耽美なる世界は大好物で酔いしれました。(^-^)
その本の世界から離れがたい・・と思わせられるような本ってなかなか出会えないので、名残惜しくじっくりじっくり読みました。
「冬虫夏草」は、まだ読みません。
楽しみに取って置きます。
ふふ・・・私はそういうタイプです。
「不思議な羅針盤」は読みました。
これについては、後日書きます。
では、では。
雪山で三日間過ごして戻ってきました。
joyさんって北海道にお住まいなのですね。
また願ってもいないロケーションで読まれましたね(笑)
梨木香歩の世界の魅力は、その風景描写です。
あの風景の只中にいるような解放感。
お家の温かい部屋で読むのも良いけど、
窓一枚の向こうに広がる風景を眺めながら読む時間は格別だったでしょう。
そうですね。
きっとこの物語は、まだ続きそうですよね。
楽しみに待っていましょう。
うまくいえませんがとてもよかったです。
梨木フアンには、いまだに^^お会いできてませんが・・。
今回読んだ場所は偶然にも、道都H大學の広大な森横にある、小さなセンターの瀟洒な和室の障子越しの雪明かりの下でした。
ちょうどすごい吹雪で、飛行機も止まるくらいの。
雰囲気としては、まるでイワナのお宿に泊まっている気分でしたよ。
怪しげなイワナのお話は最高でしたが(3兄弟や老夫婦も良かったです)お菊さんの章だけは、悲しすぎてダメでした。
赤い葉の柿寿司、一度食べてみたいです。
個人的には、けなげな河童君のお宿が、なんとなくうまくいくような気がしてほっとしました。
いつの日か出るであろう続編に期待します。
本の紹介への知人以外の反響は初めてです(笑)
とても嬉しいです。
梨木香歩のコアなファンは多い筈なのですが、
なかなか直接、お目にかかる機会がありません。
あの清冽で潔い語り口は、ありありと風景の只中にいる幸せを、
本を読む醍醐味を実感させてくれます。
本を閉じてしまうのが惜しいくらいに愛おしい時間です。
joyさん、どうか読むシチュエーションを変えてみてください。
あなたのお気に入りの場所で、あの物語に浸る時間は格別ですよ(笑)
アマゾンなら注文すると数日で手元に届きます。
ブログ記事下段の「冬虫夏草」アマゾンブックレビューから、どうぞ。
ああいうお家にすみたいですよね。
すごく読みたい。ゴローにも会いたい。
周囲には梨木さんフアン、少なし。です。
もったいないことです。
前社ヶ森より上は、トレースもなく50から1mオーバーの積雪です。
スノーシューがないと新雪なので腰上まで沈みます。
土小屋ルートは北壁下が吹き溜まりになっているので危険です。
何度も云うように、この法案は、戦前の治安維持法と同様に、現在、私たちが当たり前のように享受している
思想や言論の自由に対して為政者からの恣意的な検閲が可能になります。
これは3・11以降の国政選挙と同様に、これからの日本を決定する重要な転機だと思っています。
それとも、また私には関係ないと逃げますか?
今夜のニュースでも最も印象的だったのは、あの菅原文太氏の率直なコメントでした。
https://twitter.com/yujinfuse/status/403079622461767680/photo/1
石鎚スカイライン及び、よさこい峠方面への長沢からの道は、
積雪のため通行止めだそうです。
私は、明日、成就社から入山します。
もちろん完全冬装備です。
車のタイヤが埋もれるくらいのドカ雪です。
昼過ぎにラッセル車が入り除雪していました。
土小屋の標高で、この雪ですから、
山上は、おそらく腰高の積雪でしょう。
久万方面の明日の天気予報は雨。
まだ山は、雪が降り続けます。
これから週末にかけて山へ入る予定の方は、
完全に冬装備が必要です。
ラッセル覚悟かスノーシューが必要になるかも?
そうでしょう。明屋には入荷していなのでしょうかね?
私も新聞広告で見て、ジュンク堂書店で購入しました。
松山市内は、紀ノ國屋が撤退して暗澹とした気持ちになっていると、
より品揃えの充実したジュンク堂が出店してくれて助かっています。
確かに、ネット販売のアマゾンは便利なのですが、
本を選ぶ楽しみは、やっぱり本屋で過ごす、あの時間だと思います。
ページをめくり、最初の一行を目で追うわくわく感…
世界の扉を開くような(笑)
今回は、一昔前の土地の伝承や信仰への記述が多く、きっと民俗学に造詣の深い鬼城さんも満足される内容だと思います。
百姓モドキさん、ありがとうございます。
決して、本作は難しい内容ではありません。
美しい日本の四季と、ほんの百年前の素朴な人の暮らしに触れる豊かな時間を過ごせると思います。
それだけに、今の私たちの暮らしを振り返った時に、色んな想いに駆られます。
特に人の気配の途絶えた山深い場所で濃密な闇の時間と向かい会っていると…
今日から山へ入る予定でしたが、
今朝のライブカメラを見て、諦めました。
なんと皿ヶ嶺山麓で白くなっています。
まだ11月なのに?
これではバイクの山越えは無理だと判断しました(汗)
ただ、自然に対する畏敬の念を捨て去った人間は、地球環境を踏みつけ破壊する人間の傲慢さを持つようになる気がします。
里山の再生及び自然林の再構築は、最低限の人間の義務のように思えます。