Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

霊峰光芒

2013-11-24 | 風景

 

11月のドカ雪は40数年ぶりだと云う。

石鎚スキー場を造成中に、こんな大雪に会ったと白石旅館のI さんは述懐する。

ほとんど半世紀に一度の出来事が、目の前で起こっている。

こんな気象現象を、黙って見過ごすなんてことが出来るわけがない(笑)

完全冬山装備で、季節外れの雪山へと向かった。

 

 

大雪のため、石鎚スイカイライン、よさこい峠への道が閉鎖されている情報を得た。

石鎚へ入山する残された道は、ロープウェイ利用の表参道ルートか面河渓からの面河道。

土小屋ライブカメラを見ると、あの標高で50cmくらい(車が雪に埋もれていた)の積雪が予想される。

新雪は、積もった分だけ身体が沈む。

そして身体は、まだ雪山の厳しい環境に馴染んでいない。

面河道の場合、あの延々と続く雪との格闘を、考えただけで目の前が昏くなる。

やっぱり、一番安全な成就社から入山を決めた。

 

菅さんと待ち合わせて、入山。

麓は色づいた紅葉の山、そしてロープウェイで標高を上げるに従がって真っ白な銀世界が広がる。

ロープウェイで郵便屋さんと一緒になった。

昨日は、成就社で50cmを越える積雪があったとか。

ロープウェイを降りた山上は、季節を一カ月遡った12月下旬の一面の雪景色。

15年間、石鎚に通い続ける私自身、一度も見たことのない11月の風景。

まだスキー場のオープンには早く、

白い雪原に、一本の踏み固めた道が成就社まで続く。

 

白石旅館で、足回りを固め、早めの昼食。

始発のロープウェイで数人登っているようだ。

中宮成就社で安全祈願をして、さぁ出発。

下山してくる人に話を聞くと、先頭で雪と格闘している人は、夜明峠に達しているとか。

ほとんどの人が、前社ヶ森を前にして撤退している。

なるほど、吹き溜まりでは腰まで雪に埋もれてしまう。

前社ヶ森を前にして、先頭でトレースを作ってくれた青年と会った。

彼は「二の鎖下の小屋を前にして正午になったので撤退した」と云う。

「よく頑張ってくれました」

感謝の言葉で、彼の奮闘を労う。

ところが、前社ヶ森の小屋に辿り着くと、その先にトレースはない。

まっさらな雪面が、ずっと続いている。

風で踏み跡が消えたような痕跡も一切ない。

どうも二の鎖と前社ヶ森の小屋を勘違いしていたようだ。

仕様がない。

ここから先は、ヴァージン・スノウ。

積もった分だけ沈んでしまう。

腰上から胸まで沈む雪が続くだろう。

持参したスノーシューに履き替える。

始めは順調だった。

しかし吹き溜まりでは、スノーシューの浮力も効果なし。

ズブズブと膝から腰まで沈んでしまう。

蟻地獄のように、サラサラの雪が、踏み出した斜面に雪崩れ込んでくる。

ストックと膝で雪を踏み固め、亀のような歩みで斜面を昇ってゆく。

 

二の鎖元で時計は4時を廻った。

粉雪の舞う山上は、すでに薄暗くなっている。

工事用に建てられたプレハブ小屋が、冬期避難小屋として開放されると聞いていた。

菅さんと相談して、今夜は、ここに泊まろうか?

と小屋を下見。

「えっ?」

窓からドアから全て板張りされ、中に入れなくなっている。

突然の大雪で、小屋内の荷物の整理がつかなかったのか?

それにしても、これでは約束が違う。

愛媛県は、四国の他県と比べて避難小屋整備に消極的だ。

おそらく県内に公営の避難小屋は一軒もないはず。

諦めて、さらに山上を目指す。

弥山到着は、とっぷり日の暮れた6時過ぎ。

成就社から、七時間近くを要した。

雪まみれの装備を解き、冬期避難小屋へ。

今夜は、菅さん持参の鍋料理で、お腹の中からポカポカ温まる。

寒いと云っても、まだ11月。

小屋内の気温はプラスの2℃だった。

 

強い西風が吹き荒れていた。

珍しく弥山山上にも雪が積もっている。

(冬期は季節風が吹き荒れるので、ほとんど弥山に雪は積もらない)

翌朝、山上はガスに覆われているが上空に青空が覗く。

また長い待ち時間を覚悟していた。

夜明け前の気温は氷点下4℃。

インナーにダウンを着て冬山装備をしていると、この気温で温かいと感じる。

そうなのだ。

何度も繰り返すように、まだ11月なのだから。

日の出の時刻になって、さっきまでの押し寄せていた高い雲が急に潮位を下げた。

雲間から、眩い光芒が射す。

世界が一気に緋色の輝きに包まれる。

湧き上がりうねり、薄紗のようなヴェールが霊峰天狗岳を呑み込み消えてゆく。

緋色は次第にオレンジ色の輝かしい光芒に包まれ、

天狗岳尖端の宝塔や樹影をシルエットにして

神々しいまでの祝福の光景が出来(しゅったい)していた。

思わず手を合わせたくなるような神々の舞い降りた朝だった。

 

 


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22 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
神のご褒美 (misa)
2013-11-24 20:09:15
管さんと入山を決めたとメールを頂き有る意味ほっとしました
まだ足の具合も万全ではないと聞いており先日も勝手知ったる・・・で転倒でしたよね
病院にて「大雲海」のメールをもらった時は安心と同時に下山を心配しました
瓶林への道を閉ざされmisaにしたらご一緒したのが最初で最後(今年の年賀はこれで決まり)
先日の散策で秋ぐみを2㌔ほど収穫しました
今日Jyamuに仕上げましたので柚子Jyamuといっしょに後日Cool便でお届けします
ホッホさんにもよろしくお伝えくださいね
今日は室戸へ可愛い森の住人に逢いに行ってきました
風邪が直りきらないまま連続夜勤です
返信する
ターナーの光芒? (ランスケ)
2013-11-24 21:39:46
misaさん、ありがとうございます。
先週の初冠雪に続いて初物好きのランスケです(笑)

誰も踏んでいない、まっさらの雪面に足を踏み出して行くのは、
嬉しいようで、何時終わるか判らない不安な行程です。
その甲斐あって、心震える素晴らしい朝が待っていました。
こんな光景を観てしまうから、雪山の魔力から抜けられません。
秋の紅葉が、いくら絢爛豪華でも、雪山の神々しい時間を体験すると色褪せてしまいます。
さて11月から、これです。
この後、今シーズンの冬は、どんなことになるやら?

今週も半ばから、また真冬並みの寒気がやって来ます。
おそらく高い山では、再び雪が降りそうです。
どうも私の予想通り、瓶ヶ森林道は道路閉鎖前に雪に閉ざされそう。
misaさんの言う通り、あれが最後の瓶ヶ森となりました。
後は、様子を見て、東の川からの入山となりそうです。

今回、結構ハードな雪掻きとなりました。
なんとか足は、支障もなく保ってくれました。
12月中、様子を見て、瓶ヶ森へ行けるか判断します。
あっ、天狗尾根を辿って墓場尾根へ行きましたが、ガスで視界が利きませんでした。
冬の墓場尾根も今シーズンの課題です。

冒頭の画像は、今日のNHK日曜美術館で放送されたターナーを、かなり意識しています(汗)
以前にも書いたように、ピントのシャープな風景写真よりも、こんな淡い滲んだような作風に惹かれます。

ジャムありがとうございます。
ホッホさんと共に楽しみにしています。
寒暖の差が激しい季節です。
お身体、お大事に。
返信する
神々しい (山野貴公子)
2013-11-24 22:22:17
まさに神々しい。
天狗を超えて雲が滝のごとく西の川に降り注ぐ。
このショットのために御無理をなさらないように!!
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凄すぎます (風雪流雲)
2013-11-25 09:06:56
おはようございます。
下山されている時にお会いしました風雪ながら暮らしです。石鎚山頂で二泊されて撮影されたとのことですがお写真拝見した後、余りにも凄すぎて言葉が出てきませんでした。浮かんできた言葉が、「壮絶」、「執念」、「挑戦」などです。美さを超越しています。大変にお疲れだと思います。ゆっくり休んで鋭気を養ってください。お疲れ様でした。
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土小屋ライブカメラ下山 (ランスケ)
2013-11-25 09:12:55
おはようございます。
貴公子さん、ホッホさんとお盆の頃にお邪魔した奈良郷の近在では、
すっかりアオサギ君が非道な悪人として指名手配の様子(笑)
アオサギ君も生態系の連鎖を支える立派な一員です。
どうか、お手柔らかに。
この地球上で、最も強欲で非道な存在は、間違いなく我々人という生物種なのですから。

40数年前の11月のドカ雪、
ひょっとして貴公子さんが山ヤとして活躍されていた頃と重なるのでは?
今朝は、温かい雨です。
土小屋付近の雪が融けているのでないかと、ライブカメラを見ると、
日曜の画像で止まっていました。
そう云えば、24日でロッジを閉めるので、ライブカメラも下山すると聞いていました。
これからは、成就社のライブカメラが、石鎚の雪情報となります。

この雨で山上の雪が締まり、週半ば以降の寒気で再び雪が積もれば、表層雪崩の心配が?
立山、真砂岳の悲劇が生々しいだけに、次回の山行は慎重になります。

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避難小屋の長い夜 (ランスケ)
2013-11-25 09:29:38
流雲さん、お疲れ様でした。

大きな荷物を担いで登ってこられる流雲さんと前社ヶ森手前でお会いして、
なんだか、ホッとしました。
このチャンスに山の写真ヤさんが一人も登って来ないので、ガッカリしていたところでした。
さすがに、秋から良い写真をモノにしている流雲さんです。
その情熱と集中力は、きっと素晴らしい写真に結実しますよ。

山頂の避難小屋で過ごす一人の夜は、寂しかったと思います(笑)
私も何度も体験していますからね。
どうか、これに懲りないでください。
あの長い孤独な夜を過ごさないと、神々しい雪山の朝は訪れませんから。
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Unknown (鬼城)
2013-11-25 10:01:02
お二人のラッセル、ご苦労様でした。ご褒美は天狗の姿、石鎚の姿ではないでしょうか?山は瞬間瞬間でその表情を変え、その姿を見事にとらえていますね。思い通りではないでしょうか?11月、思わぬ積雪でしたね。
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信頼できる友人 (ランスケ)
2013-11-25 12:16:39
山へ行っている間に、怒涛の更新ですね(笑)
先程まで、じっくり山口方面への旅、鬼城さんらしい紀行文を楽しませてもらいました。
さて、これから萩や津和野でしょうか?

菅さんとは、あの骨折した石鎚以来の山行です。
あの時、菅さんがいなかったらと思うと、冷や汗が出てきます。
私にとって、最も信頼している山を通じた友人です(感謝)
危険と隣り合わせの雪山では、行動を共に出来る信頼のおけるパートナーの存在は貴重ですね。

秋の愛大小屋で愛大山岳会の皆さんと過ごした夜にも、山ヤさんたちの絆を強く感じました。
それは鬼城さんや貴公子さんを見ていてもね(笑)

幸先の良い雪山シーズンのスタートです。
あまり欲張らないように、自重しながら今シーズンも雪山を楽しみます。
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山のターナー (ホッホ)
2013-11-25 12:25:27
ランスケさんの思いの分だけ積雪しました。

美しいとか、奇麗という表現ではなく限りなく神秘的です。

misaさんの手作り柚子ジャム楽しみです。
ありがとう
返信する
ターナーの山水 (ランスケ)
2013-11-25 12:51:58
おっ、ホッホさん、元気で仕事してますか?
これから年末の繁忙期、体調管理に気を付けてね。

日曜美術館のターナーは良かったですね。
ゲストの松岡正剛の解説が素晴らしかった。
あの「花鳥風月の科学」等の著作、山水の風景論には、随分影響を受けました。
改めて、ターナーの風景画の持つ多様な視点や西洋人には珍しい湿潤な皮膚感覚に共感を覚えました。

私も冬の山水世界へ雪山深く分け入ってみます。
老荘のようにね(笑)
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