政府が発送電分離への電力事業改革への骨子を発表したところだったので、
非常にタイムリーな内容の読書体験となった。
ドイツで出版されてベストセラーになった「ブラック・アウト」(停電)上下(角川文庫)は、
EU電力自由化によるヨーロッパ中に張り巡らされた送電網を狙ったサイバーテロによる、
電気、通信、上下水道等のインフラが完全に麻痺した過酷な状況を描いた
ハリウッド映画さながらのスリリングなサスペンス小説。
次世代送電網と期待されるスマートグリット(賢い電力網)の意外な脆弱性が露呈される。
埋め込まれたウィルスによるドミノ倒しのような社会全般に次々と及ぼす波及効果は、
読んでいて空恐ろしい。
最も私たちは、それを3・11による津波や原発事故そして計画停電で、
今ある快適な生活が非常に脆い基盤の上に成り立っていることを実感している。
そしてこのようなサイバーテロは中国が発信元と推測される一連のアメリカへのサイバー攻撃や
イスラエルのイランに向けたサイバーテロそして何時の間にか自分のバソコンが遠隔操作により
乗っ取られていた事件などを通して知見している。
さて、それでも電気、通信、上下水道のインフラが停まることで生じる状況を
詳細に描かれた本書は、読んでいてかなり辛い。
東日本大震災によるメディアの報道を毎日見聞きしてきて判っているようなつもりになっていたが、
やっぱり西日本に暮らす私たちは、何処か他人事だったのだろう。
流通が止まり食料が底を突き、飲み水に事欠き、排泄物が周囲に堆積し、医療が機能停止になり、
通信情報が遮断される。そして秩序が崩壊したことで、人の心は壊れ、暴力や略奪行為が蔓延する。
これは石井光太が「津波の墓標」で書いていた状況そのものだ。
震災後に痛感したことだったが、私たちは自立した生き方を目指さなければならないのかもしれない。
個人や小さなコミュニティ単位で電気や食料を自給できるような最低のインフラの確保。
そして水も井戸を掘るとかして自給できるように。
おそらくTPPはアメリカの圧力に抗しきれずなし崩しに導入されそうだ。
そうなると食の安全は自分たちで守ってゆくしかない。
チェルノブイリとフクシマを目撃し体験したドイツの人々の危機意識は、当事国である日本より遥かに高い。
ブラックアウト 上 (角川文庫) | |
猪股 和夫,竹之内 悦子 | |
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ブラックアウト 下 (角川文庫) | |
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