冬の光

積雪期の堂ヶ森山域に入るのは久しぶりだ。
あれは随分昔…Mさんと12月の霧氷の頃に。
ここは堂ヶ森避難小屋に厳冬期の写真を掛けているAnちゃんが活躍した場所でもある。
海に近いせいか、堂ヶ森から二の森にかけての山域は、
石鎚山系でも特に雪深いように思える。
10年以上前、雪の締まる二月を待って、石鎚から尾根伝いに二の森を目指したことがある。
シャクナゲの藪尾根に苦労しながら三角点、西ノ冠岳を辿り、西冠ノコルまで来た。
そこから先が大変だった。
ズブズブ身体が雪面に沈み、ついに首まで埋もれてしまった。
進退窮まった状態で、そこから引き返した苦い思い出がある。
あの頃はスノーシューがなかった。
深雪の心強い歩行器具であるスノーシューがあれば、
この雪深い山域も大丈夫だろう?
石鎚山岳写真、最後の聖地、堂ヶ森から二の森山域の厳冬期風景に挑むために。
積雪期山小屋泊用の荷物とカメラ機材でザックの重量は22kgだった。
堂ヶ森へ保井野から入るのも久しぶり。
いつもは自転車、黒森峠越えで梅ヶ市から入っている。
今回は路線バス利用で。
この路線は一日5便と、過疎の集落へのバス便としては多い。
ところが出足からバスの乗り継ぎに失敗した。
鉄道と違って、バスは道路状況によって時刻表通りには運行されない。
さて、困った。
保井野集落への次のバス便まで4時間もある。
バスで30分なら歩いても大丈夫だろう、と判断して歩き始めた。
湯谷口から、しばらく幹線道路沿いを歩き、鞍瀬渓谷への道に入る。
ちょうど紅葉の頃を迎えた朝の渓谷沿いの道は気持ちが好い。
そんなことを言ってられるのも、しばらくの間。
二時間もアスファルトの固い路面を雪山用の重い登山靴で歩いていると草臥れて来た。
そして22kgの荷物も、次第に肩に喰い込んでくる(汗)
二百名山を人力で走破するアドベンチャーランナーのことを思うと、この程度を歩くくらいで弱音を吐いて情けない。
本当に私たちは身体運動の基本動作である歩くことに横着になってしまっているようだ(反省)
ちょうど軽乗用車がやって来たので、手を上げてみた。
すーっと横に寄ってきて車が停まる。
「どうしたの?」と尋ねられるから、
バスの乗り継ぎに失敗して歩いています。
と事情を説明して「保井野まで行きますか?」と聞いてみる。
ドライバーの男性は「乗りなさい」と快くドアを開けてくれる。
Dさんは保井野集落で山野草を栽培する人だった。
田舎の人は親切だとステレオタイプな判断はしたくない。
車中で話を聞いていると、この人は「困っている人に手を差し伸べる人」なのだろう。
自転車で登山に来ていた学生がパンクして立ち往生している時も、
山を下りた街の自転車屋さんまで学生を送っていったと云う。
こういう利他の人は、旅先で私自身も何度も出会っている。
自然に困っている人に手を差し伸べることが出来る人。
こういう人こそ私は尊敬する。
「ありがとうございました」
登山口まで送ってくれたDさんに、助けてもらった学生の分まで(同じ自転車乗りとして)
二人分の感謝の言葉を。
久しぶりの保井野からの山道は、思いの外、気持ちのいい道だ。
植林帯を抜けると落葉広葉樹の明るい森が続く。
森全体が降り積もった落葉を敷き詰め解放感がある。
林床を笹が覆おう見慣れたブナの森とは、また違った景観だ。
から池手前から薄く雪が地面を覆い、
10cmくらいの積雪が、ずっと続く。
急登が続くシャクナゲ尾根も、その上の水場から笹尾根も。
樹林帯を抜けたところで、雪面に残ったトレースの主と出会う。
初冠雪以降、この山域に入ったのは、二人だけのようだ。
雪面の足跡は堂ヶ森避難小屋までで、それから先は動物の足跡だけ。
初冠雪の石鎚から望む二の森から堂ヶ森は、真っ白だったのに、
その後降った暖かい雨のために、雪はほとんど解けてしまっていた。
二日連続のピーカンのため霧氷もつかず、
何ら劇的な気象変化もないまま、山でのんびり過ごした。
翌日、登ってきた二人の登山者も興味深い人たちだった。
トレランのNさんは、以前に瓶ヶ森で出会った一日で堂ヶ森から石鎚、笹ヶ峰、赤石を経由して赤星まで
走破する若い人を知っていた。
彼は見事、赤星までの80kmを越える山道を走り通したらしい。
Nさんに聞くとトレランの平均的ランナーは保井野を出発して堂ヶ森、二の森、石鎚を折り返して
帰って来るピストンを6 時間で走破すると云う。
まったく信じられない身体能力だ。
誰かがトレランのランナーは真正のMだと云っていたが、
う~ん、あながち否定できないかも(笑)
二日間、朝夕、一の森(クラセノ頭)二の森を往復した。
冬至に近づいた太陽は、最も南に傾くので、光の当たり方が違う。
冬の光がもたらす光の陰影を切り取ってみた。
(何せ、何も気象変化が臨めなかったので)
最後の画像は、融け始めた氷のプリズムです。
御自分の体調と相談しながら、気分転換の撮影に出掛けてください。
高知は自然環境に恵まれているので色んな撮影地があると思います。
体調が悪ければ、身近な風景の中からオリジナルの被写体を発見する歓びもあります。
この白骨樹のオブジェには期待しています。
堂ヶ森からクラセにかけての稜線は風が強いので厳冬期には、どんな風雪の造形になるか?
鷲の羽のような凄い造形が誕生しそうです(笑)
誰も観たことのない風景…
そこに辿り着くまで大変ですが、わくわくしています。
お楽しみに。
その時に、しずくさんと一緒に瓶ヶ森へ行くことを聞きましたよ。
シラサ山荘が予約すれば冬季も開けてくれるようになって随分便利になりましたね。
それまでの厳冬期の瓶ヶ森は、テントを担いで雪深い山をラッセルして行くしかありませんでした。
石鎚山岳写真のパイオニア、高橋毅さんは麓から14時間もかけて瓶ヶ森に辿り着いたと、
写真集の中で記しています。
初冠雪の石鎚の真っ白な風景を観ていたので、今回の堂ヶ森も期待していたのですが、
見事に裏切られましたね(笑)
あんなに雪がなくては、冬景色とは思えないですから。
また次回に期待しましょう。
確かに午後から雲が湧いて、このまま朝までガスに覆われると霧氷がつくと期待したのに、
こちらも見事に日没と共に消えてしまいました。
雲海の風景は、しずくさんたちが行った瓶ヶ森の方が良かったようですね。
まだ雪山シーズンは始まったばかりです。
風雪さんと共に、また山へ通ってみてください。
人ごみや空気の悪いところへは極力出向かないようにしてマスクは手放せません
人との会話も必要最低限としたいところですが見極めが難しく職業柄致し方なき事も有ります
夜勤明けの体は悲鳴を上げています
冬の嵐のあとは21℃なんて考えられません
今年は雲海の確率が高いのでしょうか
どなた様のブログでも時間に関係なく出没しているようです
冒頭の画像、良いですね
natureを知り尽くした人でないとこうは撮れない
何億年も年を重ねた声が聞こえるようです
冬至に近づいた太陽は、最も南に傾くので、光の当たり方が違う。冬の光がもたらす光の陰影を切り取ってみた・・・・だから昔私たちは冬の光を追い続けていたのだと再認識しました
ランスケさんが堂ケ森に行かれたことを聞いて、
どんな風景が広がっていたのか楽しみにしていました。
石鎚山の向こう側とこちら側。。。呼んだら聞こえるかな~なんて思いながら
なんだかワクワクして眺めていましたよ(^^)/
とても綺麗な夕暮れの雲海が見れたし、星も綺麗で嬉しかった!!
こんな風景を見ると、また行きたくなってしまいます。
たくさん経験を積んで楽しんで歩きたいと思います。
素晴らしい風景をありがとうございます。
山からの帰路、川内辺りの山裾を彩る雑木林の黄金色が殊の外綺麗でした。
鬼城さんのブログも日ごとに色づく里の紅葉が鮮やかですね。
寺社や古民家の縁起と絡める切り口が鬼城さんらしい(笑)
山は一足先に冬の佇まいなのですが…
昨晩の季節外れの豪雨で残っていた雪も全部融けたかもしれません。
この先も全般に気温が高めで、いつになったら本格的な雪山の佇まいになることやら?
季節感に乏しい風景だったので色々遊んでみました。
二番目の朝陽に染まる白骨樹は、星野道夫の有名な作品、「鯨骨の墓場」を意識しました(笑)
立ち枯れの白骨樹の造形は自然が創り上げた見事なオブジェですね。
重い荷物、乗り継ぎのアクシデント、それから人との交流、そして冬の光と戯れる。(失礼)
時系列で写真が流れるようです。
写真のテクもすごいの一言です。
何より文章にきらめきがある。
暖かい初冬、心が晴れます。