Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

アルピニズムと死 / 山野井泰史

2015-01-14 | 

 

生き物の最大の目的は何だろう?

それは生き残ることだと思う。

あらゆる苛酷な環境で生き物たちは、その最期の瞬間まで生命活動の途上にいる。

 

山野井泰史の履歴を俯瞰すると、正直戦慄する。

中学生の頃、鋸山の岩場での墜落に始まり、

城ヶ崎海岸の墜落するパートナーを両手で受け止めた大怪我。

パタゴニアの冬季フィッツ・ロイ垂直の岩壁。

単独無酸素で制覇した世界のビッグ・ウォール。

そして伝説のヒマラヤ、ギャチュン・カンからの奇跡の生還。

雪崩に遭い中吊りになった妻、妙子を助けるために

素手になり凍りついた岩場の手掛かりを探る壮絶な生還劇。

そのため両手足の指2本を残して全て切断。

ダメ押しは奥多摩でトレラン中に熊に襲われ瀕死の重傷。

 

「天国に一番近いクライマーと呼ばれた男は、

なぜ死ななかったのか?」

というのが、この本のキャッチ・コピーだ。

山野井自身は、山に入る前に最悪の状況を想像すると云う。

誰もが思い浮かべる登頂の喜びの瞬間ではなく、

あらゆる危機的状況を事前にシミュレーションしておくと云うのだ。

クライミングの最中にも、生還のために下山路を

常に周りを見回し頭になぞっておくらしい。

この日本山岳史上最強のクライマーは、臆病なくらい慎重である。

そして山野井自身が云うように、

彼より体力に勝り、技術的に優れたクライマーは何人もいる。

「しかし彼ほど死の危険を漂わせた者はいない。

登山とは死の危険なるものが優劣の尺度となる唯一の行為であり、

彼が傑出しているのは生き残っているからである」

チベットの地図上の空白地帯を旅した角幡唯介は新聞の書評で、こう綴っている。

そして尚、

「妥協せずに生き抜くことを選択した人生は、それをしなかった者の目には狂気にしか映らない。

山であり何であれ、生を希求すればするほど、その人は死に近づくことになる」

 

アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由 YS001 (ヤマケイ新書)
山野井 泰史
山と渓谷社

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