生き物の最大の目的は何だろう?
それは生き残ることだと思う。
あらゆる苛酷な環境で生き物たちは、その最期の瞬間まで生命活動の途上にいる。
山野井泰史の履歴を俯瞰すると、正直戦慄する。
中学生の頃、鋸山の岩場での墜落に始まり、
城ヶ崎海岸の墜落するパートナーを両手で受け止めた大怪我。
パタゴニアの冬季フィッツ・ロイ垂直の岩壁。
単独無酸素で制覇した世界のビッグ・ウォール。
そして伝説のヒマラヤ、ギャチュン・カンからの奇跡の生還。
雪崩に遭い中吊りになった妻、妙子を助けるために
素手になり凍りついた岩場の手掛かりを探る壮絶な生還劇。
そのため両手足の指2本を残して全て切断。
ダメ押しは奥多摩でトレラン中に熊に襲われ瀕死の重傷。
「天国に一番近いクライマーと呼ばれた男は、
なぜ死ななかったのか?」
というのが、この本のキャッチ・コピーだ。
山野井自身は、山に入る前に最悪の状況を想像すると云う。
誰もが思い浮かべる登頂の喜びの瞬間ではなく、
あらゆる危機的状況を事前にシミュレーションしておくと云うのだ。
クライミングの最中にも、生還のために下山路を
常に周りを見回し頭になぞっておくらしい。
この日本山岳史上最強のクライマーは、臆病なくらい慎重である。
そして山野井自身が云うように、
彼より体力に勝り、技術的に優れたクライマーは何人もいる。
「しかし彼ほど死の危険を漂わせた者はいない。
登山とは死の危険なるものが優劣の尺度となる唯一の行為であり、
彼が傑出しているのは生き残っているからである」
チベットの地図上の空白地帯を旅した角幡唯介は新聞の書評で、こう綴っている。
そして尚、
「妥協せずに生き抜くことを選択した人生は、それをしなかった者の目には狂気にしか映らない。
山であり何であれ、生を希求すればするほど、その人は死に近づくことになる」
アルピニズムと死 僕が登り続けてこられた理由 YS001 (ヤマケイ新書) | |
山野井 泰史 | |
山と渓谷社 |
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