皆様こんにちは
山三三ツ屋染舗の三ツ屋邦孝です。
いつも当ブログをご覧いただき誠にありがとうございます。
先輩のクリーニング業者から52年前の昭和48年(1973年)発行の「クリーニングの基礎知識」
の本をお借りしました。本を読んで52年前の黄変しみ抜きの事が分かりました。
クリーニングの基礎知識
労働省認定教科書で発行元が全国クリーニング環境衛生同業組合連合会で
今から半世紀以上前の昭和48年(1973年)発行の教科書です。
以前はクリーニング師になる為に必死で勉強して、どこのクリーニング屋さんにも
あった教科書とお聞きしました。この当時の札幌市の地下鉄の乗車料金が20円で
現在は210円ですので10倍になっていますが日銀のホームページによると物価は2,4倍と
なっていても、かなり高価な本です。
着物のしみ抜きやから出発した私の職人人生ですが、昔から着物の着用後にお手入れ
されずに保管して、次に着用しようとすると掛衿のヤケ(黄ばみ)胸元の汗による
黄変しみや飲食に伴う食べこぼしによる黄変しみと着物のお手入れは黄変しみ抜きと
言っても過言ではありません。
黄変しみは油性処理、水処理、蛋白質処理を経て黄変しみ抜き(酸化漂白)を行います。
黄変しみ抜き(酸化漂白)を行うと青色→黄色→赤色の順に脱色していきます。
黄変しみを100%脱色しなくても地色よりも薄くなると色掛け(色修正・染色補正・染直し
・部分染・地直し)で補正していきますので、黄変しみ抜きに色掛け(色修正・染色補正
・染直し・部分染・地直し)は必須となります。
クリーニングでもしみが落ちないと言う事は以前の「最新汚点抜き」の本にも書かれて
いましたが低価格で大量処置が命題のクリーニング業界においては、しみ抜きしましたが
取れませんシールの添付する事がベターの判断になると思います。
それでも諦められないお客様はネット検索して、しみ抜き店に持ち込む事になります。
今回黄変しみについてクリーニング業界の教科書でどの様に記載しているかを調べて
みました。クリーニングの基礎知識の教科書には昭和48年度の知識が詰まっています。
クリーニングの基礎知識 P309
(7)黄褐色のしみの除去法
①黄褐色のしみ
衣料地に発生する黄褐色のしみの発生原因は種々様様である。しかもその除去については、
数多いしみの中でも最も難しいものの一つであると一般に考えられている。確かに付着した
ばかりの飲食物のしみや、泥のしみと異なり、付着した異物の変質、生地に加工した蛍光染料
の変質、あるいは生地を構成する繊維それ自体の変質等によるものがほとんどであるために、
単なる洗剤の溶液又は洗剤類似のしみ抜き剤をつけて叩いたり、あるいは水のような無機溶剤
や、シンナー、パークロルエチレン、石油系の溶剤といった有機溶剤をつけて叩くといった
単純な手段方法によって除去できないものがほとんどである。当然このようなしみの除去には
酸化剤、あるいは還元剤を用いる化学的方法によるのでなければならない。したがって衣類地の
ほとんどは染色加工を施したものであるので、地色をおかすおそれが多分にあるので問題は厄介な
ことになる。しかしここで酸化型や還元型の漂白剤及びこれらの漂白剤に対する一般衣料地に
加工されている染料の性質について考察してみる必要がある。というのは、何も染料のあらゆる
部属を知悉し、さらにその個々の部属に属する数多くの染料の漂白剤に対する化学作用を学べと
いう難しいことを要求するものではない。漂白剤の、染料に対するきわめて一般的な傾向を
まず知ってもらいたいということである。さらにその用法を誤りなく行うならば、このような
難しいと考えられている黄褐色のしみ除去についてもけっしって失敗の憂目をみるようなことは
ない。その用法とはどのようなことであるかといえば、用いるものは漂白剤であるので
クリーニングの基礎知識 P310
いきなり漂白剤を用いて本番に取りかかるような乱暴なことはしてならない。すなわちどの
ような場合でも、特に高級和服などにおいては、次のような手順を経てから本番にかかるように
慎重でなければならない。
(a)まず水で絞ったタオルで叩く、あるいは高級アルコール系の洗剤3%程度の水溶液をつけてか
らしみ抜きブラシで叩いてみる。ただし、そのような操作でしみが動くならば、できるだけその
方法で除けるものは除去してしまう。
(b)次に、衣料の一部で用いようとする漂白剤で、染色が耐えるかどうかを実験してみる。
場合によっては衣料の縫目を解いて失敗しても支障のない部分を作って実験を試みる。
白地の衣料ではもちろん、このような実験の必要はないので、ただちに本番にかかるのも
よいで有ろう。地色のあるものなどでは、以上のような実験を試みてから本番に取りかかる
ようにすれるならば、万に一つも失敗のおそれはないはずである。次にこのような黄褐色の
しみは一般に、化学的な方法を必要とするものの代表的なものであり、用いられるものは
漂白剤が主である。したがってそれらの染料に対する一般的傾向および用法を知る必要がある。
②漂白剤の種類
a 還元漂白剤
一般に染料をおかす確率が高いものであり、その用途もしみ抜きの主役的役割にあるものでは
ないただし、次に述べる亜鉛末などはその例外であり、その水溶液は酸性であるが、通常用い
られるものは次のようなものである。すなわち
a ブランキット(次亜硫酸ソーダ)或はハイドロサルファイト(Na2S2O4)
b 酸性亜硫酸ソーダ(NaHSO3)
c 亜鉛末と酸
酸性亜硫酸ソーダ(NaHSO3)はまた重亜硫酸ソーダあるいは亜硫酸水素ナトリウムとも
いわれる還元系漂白剤であるが、その漂白作用はブランキットに比較するとはるかに弱い。
したがってブランキッドによりおかされて変褐色するような染料でも、酸性亜硫酸ソーダには
おかされない場合がきわめて多く、この事実はしみ抜き処理操作に有効に利用できる。
(b) 酸化漂白剤
衣料地に生じる黄褐色のしみを除去するための主役的をなす漂白剤であり、還元漂白剤に比較
すると、染料をおかすことも比較的少ないために、地色のある衣料地にもしみ抜き剤として
十分使用できる場合が多く、次のようなものが通常用いられる。
a 過マンガン酸カリウム (KMnO4)
b 過硼酸ソーダ (NaBO3・4H2O)
c 過酸化水素水 (H2O2aq)
等である。植物性繊維の白生地(木綿の白地、レーヨン、アセテート)では塩素系の漂白剤の
利用も可能である。すなわち
d 次亜塩素酸ソーダ溶液( NaOlaq)
e 亜塩素酸ソーダと酸(NaO2Cl)
クリーニングの基礎知識 P311
亜塩素酸ソーダ溶液は、ナイロンやアクリルニトリル系の白地に用いると効果的に利用でき
るが、これらの酸化系漂白剤は、過酸化水素水を除いては、アルカリ性である。
これら酸化漂白剤を用いて黄褐色のしみを除く方法について順次、詳細に述べることとする。
さてすでに述べたように、強い漂白剤を用いてしみ抜きをおこなおうとものであるので、
生地や染色のためにできる限り漂白剤の作用時間を短縮させるために、水または
高級アルコール系の洗剤を用いて、あるいはドライクリーニング用の洗剤を用いて、
汚れを除去できる限りあらかじめ除去し、次いでこれから使用しょうとする酸化剤で
染色物の耐性実験を試み、安心して使用できることを確認してから本番にかかるように
することが必要である。
③各種漂白剤の用法
(a) 過マンガン酸カリ
過マンガン酸カリは現在クリーニングやしみ抜き作業でほとんど使用していない為に
省略します。
(b) 過硼酸ソーダ
以前は京都で黄変しみ抜きに良く使用されていましたが、反応温度60℃以上の為に
しみ抜き作業中にいきなり染色が抜ける為にとても使いずらい漂白剤です、反応速度が
20℃からの過炭酸ナトリウムが登場してから徐々に使われなくなりました為に硼酸ソーダも
省略します。
クリーニングの基礎知識 P313
(c) 過酸化水素水
過酸化水素水をしみ抜き処理に用いる場合と、衣料の全体を過酸化水素水の中につけこんで
用いる場合とでは、原理的には全く同様であるが、処理操作は全く異なる。常温でただ、
しみの部分につけただけでは、不完全であるし、鏝で加熱しながら使用するのも不適当
である。つまり、過酸化水素水のを中性で使用した場合、それが常温であると緩慢すぎるので、
有効に分解して作用しないうちに乾燥してしまうので効果的な用法とはいえないし、加熱して
使うと、分解が迅速すぎて漂白作用が半端になってしまう。すなわち3%程度に希釈した
過酸化水素水に無水炭酸ソーダ(ソーダ灰)を加えてトロトロにやわらかく溶いてしみの部分に
塗布して十分乾燥するまで放置しておく。ソーダ灰のかわりに消石灰でもよい。
過酸化水素水にソーダ灰や消石灰のようにアルカリ塩等を加えるのは、過酸化水素溶液は
中性においては分解漂白が順調に進まないが、溶液がアルカリ側のある場合には、その分解が
順調に進行して漂白作用も手順よく進行するからである。さて塗布した過酸化水素水と
アルカリ剤の混合物物が完全に乾燥したら、生地裏面に指先で叩いて乾燥物をきれいに落とす。
生地の間に残留物がするものも、なるべくきれいに落とす。次に水で絞ったタオルで入念に叩き
拭いして、残留物が生地に残らないように後処理を行う。分解促進剤として混合ソーダ灰などの
作用で、しみが除去されても、しみ抜き剤の付着していた部分が淡黄色に変色していることが
ある。このような場合にこれを除くために20倍に希釈した稀酢酸を塗布すればほとんど淡黄色は
除去されるものである。ただし、アセテート地がおかされる危険があるので、稀酢酸なりとも
使用することは避けて、重亜硫酸ソーダの水溶液を使用する方が安全であるのみならず、
復元も完全に行われる。
(d) 次亜塩素酸ソーダ
次亜塩素酸ソーダを使用できるのは、白地の植物性繊維地(セルロース系繊維地)、
ポリエステル繊維地などで、その他の天然繊維地、合成繊維地では黄褐色に変色するので
使用してはならない。セルロース系、ポリエステル繊維地、それ自体は次亜塩素酸ソーダの
使用も差し支えものであるが、合成樹脂加工を施してあるものでは、樹脂の種類によっては、
その塩化物ができるので黄褐色に変化することがある。その王褐変したものの復元には、
還元剤(ブランキット)を用いて強く漂白する以外に方法はない。さて次亜塩素酸ソーダを
用いてのしみ抜き作業であるが、王褐色のしみ抜きのみならず、その他、いろいろなしみの
除去剤としてきわめて効果的な化合物であるが、その品質については十分に吟味する必要がある。
次亜塩素酸ソーダ溶液の使用により、木綿地がおかされ脆化し、生地をボロボロにしてしまう
事故がしばしば発生している。次亜塩素酸ソーダ溶液の選択には、次のような注意するとよい。
a 有効塩素濃度が6%といわれているものに良質のものが多い。有効塩素濃度が10%あるいは
12%などといわれているものにはほとんど良質のものは皆無に近く、不純物が多く、次に
述べる遊離の苛性アルカリの含有量が多いのみならず、実際に測定してみると、公称されて
いる有効塩素量よりはるかに実量の低下しているのが実状である。純度が悪いので安定性が
なく、われわれの手 入るまでに分解してしまう率が高いからである。
b 遊離苛性ソーダ(アルカリ)の含有量が0.2%以下のものでなければならない。有効塩素量の
多いものは、この残留アルカリの量を多くすることによってわずかにその分解の防止剤、
つまり安定剤として用いられているものである。純度が高ければ残留苛性アルカリの量は
少なくともかなりその安定性が改善されるものである。
この次亜塩素酸ソーダのしみ抜き剤としての用法であるが、しみの部分に霧吹きまたは
濡れタオル軽く水分を含ませる。次に5倍ないし6倍に希釈した(1~1.2%)次亜塩素酸溶液を
割りばしなどでつけてやる。早いときは即刻、遅くとも数分以内でしみは消えてしまうはずで
ある。しみが消えたならばチオ硫酸ソーダの飽和溶液を軽くつけて(脱塩素剤Na2S2O3
市販薬はNa2S2O3 5H2O)から後処理するとよい。すなわち清潔な下敷を置き、霧吹きで
水を吹きかけて、乾いオルなどでよく叩き拭きをするとよい。下敷きをそのつど交換しなが
ら、少なくとも4回以上この後処理を行なう必要がある。白木綿地についているしみを
除くには、特殊なしみを除いては過マンガン酸カリや過硼酸ソーダを使用するよりも、
次亜塩素酸ソーダ溶液を使用する方が、はるかに便利であり、効果的でもある。
しかしその使用できる生地の範囲が制限されるのは、性質上止むえない。
私自身の修業時代の昭和55年当時は泉州生洗い本舗では酸化漂白剤として
京クリン(商品名)+過酸化水素水を使用して熱のの掛け方も弱かった為に黄変しみが
なかなか抜けずらくて難儀していました。
しみ抜きについて色々と調べていて以前に師匠に黄変抜きの薬剤に付いて聞いた事がありました。
着物についての黄変抜きで一番最初は過マンガン酸カリで行っていたと、次は過酸化水素水を
炭酸マグネシウムで溶かした物を使用して天日干しや紫外線ランプを当てていたとききました。
この方法はしみは良く抜けたけれども、地色がリアス式海岸の様にガタガタに脱色してその後の
色掛けがとてもむずかしかったとお聞きしました。次の過酸化水素水+京クリン(商品名)と
聞いています。その後に高名なしみ抜きの先生が過炭酸ナトリウム+過酸化水素水を使用する
ようになり、漂白効果がかなり効果が有った為に、私もこの方法で黄変しみ抜きを行っていま
した。
現在の黄変しみ抜き剤は過酸化水素水を入れて使用するしみ抜き剤で全ての生地に対して脆化
しにくく、地色が抜けにくくて、漂白力の強い薬剤を使用しています。以前の過炭酸ナトリウム
よりも高性能で、脱色も少ない為にとても重宝しています。
今日繊維業界やアパレルメーカーは新しい繊維や加工法が開発されるために我々の業界も
使用薬剤やしみ抜き方法も常にアップデートして行かなければ技術の退化していき時代に
取り残されるどころか業界そのものが絶滅していく実感をひしひしと感じています。
着物と洋服のお手入れは
厚生労働大臣認定一級染色補正技能士のいる
山三 三ツ屋染舗にご用命下さい。
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