危険生物図鑑 その5 フグ
以前近所の高齢者のサロン活動のお世話をしていたことがあります。月に二回お年寄りとお料理やお茶会をするのですが、責任者は年に数回行政側の指導を受けなければなりませんでした。
指導と言っても主に高齢者向けのリクレーションや健康体操などの紹介などでしたが、ある時保健所の職員の話を聞くことになりました。ちょうど夏の時期でしたので、食中毒の講話でした。その時は実にタイムリーな内容だと思いました。
ところがいざ蓋を開けてみれば、なんとフグの食中毒の話でした。たぶんその年に県下でフグの食中毒者が出たからでしょう。保健所職員は苦虫をかみつぶしたような顔をして、自分で釣ったフグを勝手に調理して食べてはいけないと、いきなり説教をはじめたのです。
「まったく困っているのですよ!」と語気を強めて言うのです。
そんなこと言われても困ってしまうのはこっちの方です。そんなやってもいないことで怒られるなんて。フグどころかアジやサバだって釣ったことないのに……。この人田舎の年よりってみんなそんなものだと思っているのでしょうか?
つまりカチンと来たのです。こういう場合は言い方次第ですね。
「皆様もご存知のように先般フグによる食中毒が発生いたしました……云々。そこでひとことフグに食中毒の話をさせていただきます」
くらいのことをはじめに言ってほしかったですね。
さてそれから翌年には新型コロナウイルスの感染が広まりました。対応に追われている医療関係者以下多くのエッセンシャルワーカーの方々のようすが、テレビで毎日紹介されましたね。
世の中にはなんと素晴らしい方々がいるのかと、私は感心して見ておりました。この方たちの負担を減らすためは自分ができることは自粛しかない。などと思ったりもしていました。一方で鳴りやまぬ電話に必死に対応する保健所職員の方々のようすも写しだされましたが、どうしたものかまったく同情する気がおこりませんでした。
つまりまだカチンときていたのです。考えたらたらこの文章を書いている今だってカチンと来ているのです。あれからずっとカチンときていたのです。そんなに長くカチンときているなんて、もしかしたら話を聞いただけなのに、フグの毒に当たったのかも知れませんね。