草むしりしながら

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猫と蔵にまつわる話2つ

2018-08-21 16:26:06 | 猫自慢
猫と話した朝 
 ハナコは腹から脚に掛けて真っ白で、背中ら長い尻尾に掛けては、少し緑がかった灰色と黒の縞模様のある美しい猫である。時折光の加減で縞模様が銀色に光って見えるのは、飼い主の欲目だろうか。
 そんなハナコがいないと気づいたのは、夕食の支度中だった。いつもは好物の煮干しをねだって、足元にまつわりついてくるのに。心辺りを探したが見つからない。時々はそんなこともあるので、特に心配はしなかった。
 ところが朝になっても帰って来ない。慌てて捜したが見つからない。蔵の前に時折見かける猫がいる。こちらは煮しめのような色をした縞模様だ。
 「ハナ知らん?」思わず声をかけてみたら、漆喰の引き戸の前で「ニャーニャー」と泣き出した。重い戸を引いた途端に、ほこりだらけのハナコが飛び出してきた。抱き上げて頬ずりすると、ゴロゴロと喉を鳴らす音と土ぼこりのにおいがした。
 それにしても猫と話した不思議でハッピーな朝だった。
 
2010.4月新聞投稿
 
猫を怒らせた日
 床下の芋釜の掃除をしているところを、猫のハナコにみられると少し厄介だ。とにかく好奇心旺盛で、私が何か始めるとすぐにやって来て邪魔をする。だから今日は邪魔されないように、蔵の中に閉じ込めている。
 芋釜とはサツマイモの貯蔵庫のことで、大人の背丈ほどの深さで、畳一枚半ほどの広さの穴だ。もみ殻を入れて冬の間芋を貯蔵しておく。毎年サツマイモの収穫前にもみ殻の入れ替えをする。けっこう大変な作業であるが、ここで貯蔵した芋の美味しさに比べれば、たいしたことではない。けれども時間のかかる作業でもある。
 中に芋を入れるころには寒さも増してくる。その頃には猫にこたつを出してやらねば……。猫のことを思い出した時には、もう薄暗くなっていた。大慌てで蔵の戸を開けると飛び出してきたのだが、そのまま走って庭石の上に飛び乗り、そっぽを向いて毛繕いを始めた。
 かなり怒っているようだ。今夜は好物の煮干しを一匹多くやって、ご機嫌を取らなければ。

2012.10月新聞投稿