木が倒れるぞ!
私の父は子煩悩な人でした。寝る前にはよく昔ばなしをしてくれました。それから布団の上に寝転がって遊んでもくれました。
向こう脛の上に子供を乗せてギッタンバッコンをしたり、足の裏に子供を乗せそのまま高く足を上に伸ばして、飛行機という遊びもしました。父の伸ばした足の上からは布団が遙か下に見えて、本当に空を飛んでいるようでした。
そんな布団の上での遊びの中に「木が倒れるぞ!」という遊びがありました。布団の上に仰向けに寝転がった父が突然片足をピンと上げ、太ももの付け根の辺りを斧や鋸で切る真似をするのです。
「カーンカーン(斧の音)ギコギコ(鋸の音)。木が倒れるぞ!子供は除け除け!」
横に寝ている私たち姉妹の上に足が倒れかかります。キャアキャア言いながら逃げる私たち。足は逃げる私たちを追いかけて、倒れ掛かろうとするのです。子どもの頃の楽しい思い出です。父は本当に子煩悩な人でした。そして孫煩悩な人でもありました。
父にとっての孫は、私の三人の子供たちだけです。三人の孫を父は隔て無くかわいがってくれました。そしてよく遊んでもくれました。中でもこの「木が倒れるぞ!」は横に寝ている子供たちがキャアキャア言って逃げていたのを思い出します。
そこで私も孫たちと布団に寝転んで「木が倒れるぞ!」をやってみました。ところが祖母ちゃんの足が短くて(太さはあるが)大木には見えないのか、逃げようともしません。それどころか逆に足の下に潜りこんだり、倒れる方向を変えよとしたり……。はたまた、自分の片足を立てて「カーンカーンギコギコ。木が倒れるぞ!祖母ちゃん除け除け」とやってみたり、もう滅茶無茶でした。
考えてみれば「木が(足)が倒れてきたら逃げる」というルールを教えなかったからでしょうね。それでも「木が倒れるぞ!」は子供の家に泊まりに行った時の、寝る前のルーティンになりました。布団の上で「木が倒れるぞ!」と言う度に子煩悩だった父を。否、孫煩悩だった祖父ちゃんを思い出します。
だた断念なことに父は、子供たちが小学生の時に亡くなってしまいました。そのせいか子供たちもあまり父(祖父ちゃん)のことは覚えていないようです。あんなに可愛がってくれたのに。残念です。やはり長生きはしなくては駄目ですね。
健康。健康。健康第一で行(生)きましょうね!