ひろひろの生活日記(LIFE Of HIROHIRO)

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第Ⅱ章。「現れし古に伝わりし指輪」2話、願い、言い訳。「~失望と愛~導かれし悪魔の未都市。」0005

2021年05月17日 12時21分40秒 | 「~失望と愛~導かれし悪魔の未都市。」【R15】(自作小説)

第Ⅱ章。「現れし古に伝わりし指輪」2話、願い、言い訳。「~失望と愛~導かれし悪魔の未都市。」0005

0005_願い、言い訳

イリスは、お叔(じい)さんから受け取った鍬(くわ)を納屋の手前にしまった。
食事の用意をしなければならない。
傷負(きずお)い人の様子が気に成る。

イリスは、まだデミュクの名前を知らない。
「青い血。人ではない。きっと天使よ。
 私たちを救いに天から降りて来たのだわ。
 その途中に、魔物か、何かに襲(おそ)われたのよ。
 傷負いの天使だわ」

「天使さんにもお食事をお持ちしますわ。
 早く元気になってくださいね」
イリスは、一人告(つ)げると食事の用意をしに家に戻った。

炊事場(すいじば)には、水がめと土と石で作った竃(かまど)がある。
森が近いので竃(かまど)にくべる薪(まき)は、欠(か)くことがない。
イリスは、薪(まき)もたまに街へ売りに行き生活費の足しにする。
火をつけ、水を入れた鍋に、竹の網の籠(かご)を置き、
その中にジャガイモを入れて、蓋(ふた)をし竃(かまど)にかける。
ジャガイモの蒸(ふ)かしいもである。
暫(しばら)くして、
「出来上がった」
籠からジャガイモを取り出す。
「あちちっち」
手で、弄(もてあそ)ぶ、右左(みぎひだり)、
ジャガイモを手の上で移動させる。
熱さを我慢して、親指で押し当て擦(す)り、
皮をむき、棒(ぼう)で潰(つぶ)し粉(こ)ねてサラダ状にする。
サラダとってもポテト以外は何も入っていない。
味も、ポテトの味のみである。
味気(あじけ)ない。

次にキャロットとジャガイモの皮をむきを刻(きざ)んだ。
鍋(なべ)に水を入れ、刻んだものをぶち入れる。
そして、怪(あや)しげなすりつぶした木の実と木の皮。
刻んだ葉を入れる。
調味料らしい。
塩味(しおみ)と苦(みが)みと酸味(さんみ)が生まれる。

これでも、イリスの家庭は、まだ、贅沢(ぜいたく)な方である。

出来上がった。

主食は、ポテトサラダである。
小麦がないわけではないが、小麦は売り物である。
そして、三分の一は、税に収める。
食べるわけには、いかないのである。

ポテトを大皿に盛る。
唯一(ゆいつ)、お代(か)わりが出来る主食である。
木のスプーンで小皿に取って食べる。
キャロットとジャガイモのスープも中深皿(ちゅうふかざら)に盛った。
そして、食卓に持っていく。
それとは別に傷負いの天使さん用にポテトとスープを中皿に取り鍋の陰に隠(かく)した。
自分とお爺さんの食事をテーブルに並べる。
お叔さんは、奥のベッドに座って、何かのカードの書物を読んでいる。
「望(のぞ)みを神に素直に頼(たの)みなさい。代償(だいしょう)を支払いなさい…」
教会への寄付(きふ)の代わりに紙のカードに数行の教訓めいたものを神父(しんぷ)が書かいたものを貰(もら)ったのである。

「お爺様。お食事ができました」
イリスは、こちを注意深く見ている。
お爺さんは、目を合わさずに書物を読むふりをして熟慮(じゅくりょ)した。
イリスの様子が少しおかしいのに気付いていたからだ。
(エプロンを着けていない。どうしたのだろう?)
やっぱり、気に成る。
結局、差し障(さわ)りのないように尋(たず)ねることにした。

食卓テーブルに着く。
椅子(いす)は、テーブルを囲(かこ)って4つ在る。
古びた背もたれのある木の椅子。
お爺さんの手作りである。
イリスは、台所が見える方に座る。
お爺さんは、イリスの向かいの椅子に座った。
そこが、定位置である。
台所に背を向けている。
お爺さんは、イリスに話かけてみた。
「エプロンは、どうしたの。
 汚れたのかい。
 新しいのを作るか?」
何か良いことでも起きたように笑顔で尋ねてみた。
「そうそう。汚しやちゃって。
 でも、お爺さま。私は大丈夫です。
 心配しないで」
(言えなかった。
 何か良い理由がないか考えかけたが、
 思い浮かばなかった)
イリスは、少し戸惑(とまど)った。
(お爺様は、何かを気づいてるわ)
お爺さんは、イリスの目をじっと見つめている。

「食事が終われば、納屋の農具の手入れでもしようか」
お爺さんは、納屋に何かあるかと探った。
「あ!私がやっときます。
 ちょうどいい季節だからら一人で礼拝し、ついでにやっときます」
「そうか、じゃあ。負かすとするか」
(確かに何かを隠(かく)している。
 納屋になにかある)
だが、お爺さんは、無理に尋ねることはしない。
干渉せずに何が有ろうと暖かく見守る。
そう言う家のルールだから。
お爺さんは、イリスを尊重して、納屋には、近づかないことにした。
話は、それで終わった。
イリスの家では、食べる前に礼拝をする。
「天に地に恵(めぐ)みを感謝します」
お爺さんが唱えた。
2人は、目を閉じ神に感謝した。
そして、キャロットとジャガイモのスープを口に運ぶ、
それをおかずにポテトを食べた。
「料理がうまくなった」
お爺さんは、イリスにも感謝した。
納屋の事、エプロンの事は、それ以降尋ねなかった。
そして、食事は、終わった。

お爺さんは、直ぐベッドに横になった。
「納屋で祈ってきます」
イリスの心は、納屋に向かっていた。
「そうか」
お爺さんは、そっけなく言った。
「一人で祈りたいから、
 そうします」
イリスは、念を押した。
こっそり鍋の後ろに隠していた食事を持って納屋に行った。
納屋の戸を開ける。
傷負い人は、寝ている。
顔が目に入った。
少し苦しいるように見える。
無理に起こすわけにはいかない。

イリスは、公言した通り、傍(かたわ)らで農具の手入れをしだした。
手入れが終わると祈る。
イリスは、何を祈っているのだろうか。
じっと夜空を見ている。
星が輝(かがや)いていた。
(天使さんがの傷が無事に回復しますように。
 食事を食べてくれますように。
 お願い。
 生きて、元気になってください)
イリスは、知らないうちに傍(かたわ)らで寝ていた。
「うぅぅ」
デミュクの目が少し開(ひら)く。
空腹からだろうか。
イリスは、気付き、すかさず声をかける。
「大したものではないですが、お食事を用意しました」
(やっぱり、女(おんな)がいる)
デミュクは、動こうとしたが体が動かせない。
観念して、その女性に縋(すが)ることにした。
イリスは、ポテトを傷負い人の口に運ぶ。
だが、デミュクは、口を噤(つぐ)む。
「わるい。俺は、普通の食物(たべもの)を食べないのだよ」
振り絞(しぼ)るような声。
「じゃ。何なら食べれるの?」
イリスは、問い尋(たず)ねる。
「ち。血。動物の血。を飲む。
 だが、無理だろ」
「あなたは、神の使いでしょうか?
 天使は、食物を取らないのですね」
イリスは、解釈(かいしゃく)した。
それが誤りであろうと関係ない。
「俺は、不浄(ふじょう)のものだ」
「なぜ?そんなことを言うです?
 流れる血の色が人間のものとは違うからですか。
 それこそ、天使の証(あかし)でしょ」
デミュクは、その言葉に躊躇(ちゅうちょ)するが正直に話す。
それで、見捨てられれば、それも運命とあきらめがつく。
「俺は、悪魔だ」
「え!でも、神様の使いでしょ」
イリスは、食い下がる。
「やさしい目、顔だもの。
 そうでしょ。
 じゃ。違うなら、なぜここに来たのですか?
 私の祈りが通じたのでしょ」
デミュクには。本当のことは言えない。
(悪魔司祭(しさい)に追い出された?
 悪魔に殺されかけて、
 追手に追われている?
 今度は、神の使いをする?
 俺が?)
デミュクは、自信の陥(おちい)った立場が可笑(おか)しくなった。
少し笑顔(えがお)になる。
今は止血されているが、多くの血を流した。
体力が限界に近い。
(何か栄養を取らなければ、
 他に何で栄養をとれるのか?
 肉の果実(かじつ)があればなぁ)
デミュクは、意識がまた薄れかける。
目を閉じて集中して意識が留(とど)まるように耐えていた。
(顔色が悪い?)
(血は、青色)
(だから、顔が青いの?)
(違う、これは、栄養が不足している)
(このままでは、衰弱(すいじゃく)して死をむかえる)
(私は、そう感じるの)
イリスは、意を決した。
「血なら飲めるのね」
そう言うと、家に行き、木のカップと包丁を台所から持ってきた。

包丁を左手でぎゅっと握る。

血が滴る。
カップで受け止めた。
カップ一杯の血。
少しクラっとした。
左手の切った後の血を右の人差し指に付けてデミュクの口を触(ふれ)る。

デミュクは、目を開(あ)けた。
(うぅぅぅ)
カップを口に持っていく、頭を少し手で抱(かか)えあげ、口に当てる。
そして、口へ注ぐ。
血がデミュクの喉(のど)をごくごくと通っていく。

(なざ、血が青いのに顔色は赤いの?)

「『血の契り』である」
天から胸に声が響いた。
(俺は、契約を受け入れたのか?)
デミュクの魂(たましい)の影の躯(むくろ)は、宝石となりイリスの胸についた。
「ガカチ」
デミュクには、少しイリスの胸が光るのを覚えた。
そして、再び眠りにつく。
(俺は、彼女と契約したのか?…)

イリスは、何も気づいていない。
神に感謝した。
(私とお爺様を助けるために、
 これは、
 神様が遣(つか)わしたものよ)
デミュクの顔に力が蘇(よみがえ)った。
イリスは、安心した。
左手の止血をし、また、祈りを続け、
いつしか、また、傍(かたわ)らで寝ていた。

家では、お爺さんも寝ていた。
(何かをほっとけないのだろう。
 イリスは、神の巫女(みこ)、救いの巫女なのだから)
お爺さんは、自身に言い聞かせて眠りについた。

つづく。 次回(回復の証)次こそ、デミュクは、回復し、イリスと交わるのか…。愛の始まりか…、契約の始まりか…。


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