0292_神々の合議(017)裕也の冒険-地獄の業⑪-
--地獄の業⑪虫地獄--
「次は、虫地獄です」
(虫が言うことを聞くかな?)
鬼は、一番心配であった。
虫地獄とは、擂鉢状(すりばちじょう)に成っている土壌に、地獄黄金虫(じごくおうごんむし)と言う虫が数万匹いる。
この虫は、金色の体をした虫である。牙は鋭く肉を食いちぎり体を食べつくす。
虫を殺した罪を償(つぐな)う地獄である。
「ガヤァァアア ギャァァア グワァァ」
悲鳴があちこちで鳴り響いている。
「大丈夫ですか?
虫は、苦手でじゃないのですか?」
鬼は、心配して優しく裕也に尋(たず)ねる。
裕也は、擂鉢(すりばち)を見下ろした。
中では、罪人が生きながら虫に食われ骨になると再生し、
また虫に食われ体の崩壊を繰り返していた。
「心の準備はいいですか?」
「はい」
鬼は、申し訳なさそうに裕也の体を押した。
裕也は、擂鉢を降りて行く。
虫が、裕也の落ちる道を示すように別れ招き入れる。
裕也は、擂鉢の底に着いた。
一匹の地獄虫が進み出て、裕也の足に噛みつく。
「痛て」
(今度は、俺も終わりか?)
噛まれた裕也の足から光が飛び立つ。
そして、姿を現した。
(俺が相手だ。
我。裕也に命を新たに与えられし虫なり、
地獄虫の王に
戦いを申し込むものなり。
いざ、戦わん)
それは、黒銀に輝き光を発っゴキブリであった。
そう言えば、ゴキブリを手で殺したことがある。
ある時、布団の上にゴキブリがいた。
裕也は、慌ててティシュをとり手で優しく潰(つぶ)した。
(それかなぁ)
仏に殺されし虫は、新たに望むものに生まれ変わることが出来る。
そんなことを聞いたことがある。
俺が仏と言えるかは別だが…。
地獄虫のなかから一匹の虫が現れた。
(我が王なり。
いざ、潔(いさぎよ)し。
我、戦わん)
両者は、向かい合い目を見合った。
目を逸(そら)すことが出来ない。
時間がたつ。
先に黒銀が、動く。
黄金は、透(す)かさず突っ込む。
黒銀は、わざと左足を出した。
黄金は、その足を食いちぎった。
しかし、隙を生む。
黒銀は、後ろに回りこむ。
黄金の背中を取った。
そして、首筋に噛みつく。
「ベキ」
(もう、一齧(ひとかじ)りで死ぬぞ)
(まま参った)
黄金は、負けを認めた。
地獄虫は、裕也を襲うのを止め、方々に散った。
裕也は、擂鉢をゆっくり登る。
裕也の足の指から血が滲(にじ)んでいった。
「黒銀。よくやったね」
黒銀は、光に成り裕也の足に消えた。
痛みは、無くなった。
メモ:黄金は、地獄虫。黒銀は、裕也の足のゴキブリ。
つづく。次回(地獄の業⑫-土埋め地獄-)
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