0307_西の地球と神様の約束(005)裕也の冒険-祝宴-
--祝宴--
次の料理は、まだ来ない。
ひろ子は、鯛の塩焼きに手を伸ばした。
目の玉が白く光っている。
恐る恐る手を伸ばす。
「お取りしましょうか?」
百が声をかける。
「あ!自分で取ってみます」
ひろ子は取り箸(ばし)を手に持った。
不器用にぎこちない。
遠慮したのか鯛の塩焼きの背びれをつつく。
竜の背の様に海の波を切っていたのだろう。
悠然(ゆうぜん)としている。
背びれをとって皿に乗せる。
(それは、食べれないよ)筆者の声。
自分の席に戻りしゃぶりついた。
(身がない)
しゃぶる。
皆は、その様子を黙って見守っていた。
「鯛の胸の辺りを取って良いんですよ」
裕也は、思わず声をかけた。
「やっぱり、取りましょう」
百は、押し付けてはいけないと思ったが、
お皿を取り鯛の胸の部分を取ってあげた。
そして、殻壺(がらつぼ)を持ってくる。
「ガシガシ。バリバリ」
ひろ子は、背びれを嚙み潰(つぶ)して食べた。
「ふぅぅ。美味しい」
そして、皿に乗せてくれた鯛の胸の身を食べる。
笑顔がこぼれる。
「やっぱり、身の方が美味しでしょ」
裕也は、遠慮しないように声をかけた。
「うん」返事はしたが、ほっぺを膨らましていた。
阿弥陀様は、料理の影を箸で掬(すく)っている。
そして、口に運ぶ。
上品位に飲み込んだ。
皿の料理は、枯れて萎(しぼ)んだ。
裕也も不思議そう。
見ちゃいけないと思ったけど、横目で様子を見ていた。
(何でも供養ですね)
裕也は、それを心の内に終(しま)った。
次の料理が来た。
「鯛の甘酒(あまざけ)みそ漬(つ)け焼きです。
どうぞ召し上がりなさいませ」
薄い青の波の模様の少し窪(くぼ)んだ四角い陶磁器(とうじき)の器(うつわ)に盛られている。
(器がきれい)
味噌と甘酒の香りがする。
「鯛尽(たいづ)くしなのでしょうか?」
(やっぱり、お祝い事には鯛ですかね)
裕也は、人が幸せになることが嬉しかった。
一人の人の幸せは、皆に波及(はきゅう)する。
一人の不幸は、逆も真である。
「味噌と甘酒ですね。
混ぜてある木の芽のみじん切りもアクセントになっていますね」
裕也は、百に話しかける。
「きゃぁ。凄い。美味しい」
「ベキべき」
ひろ子は横に添(そ)えてある半月切りのかぶに桜の花の塩漬けをあえたものを食べている。
次の料理が出て来た。
「茶碗蒸しです。
鯛の白だしを使っています」
海老と鶏肉と蒲鉾(かまぼこ)と銀杏(ぎんなん)と三つ葉が覗(のぞ)いている。
「美味しそう」
ひろ子は、宝物を大切に取り出すように食べている。
「卵と一緒に食べるんだよ」
裕也は、要(い)らない世話を焼いた。
「卵も美味しい。
いままで、味がしなかったから、
何も食べれなかった」
そして、泣き出した。
「お嬢さん。泣くのは後回しだよ。
料理は、まだ続くよ」
百は、泣き止(や)まそうとして強く言ってしまった。
それが、逆に功をそうした。
ひろ子の涙は、止まった。
「次は、鯛の潮汁(うしおじる)よ」
百は、今度は、おもっきり優しく言った。
「わぁぁ。お吸い物だ。
澄んでる。
川の水より澄んでる」
ひろ子にとって驚きと喜びの連続である。
「最後に煮ものです」
人参、大根、ゴボウ、蓮根(レンコン)、蒟蒻(こんにゃく)さやえんどうが煮てある。
人参の赤が食欲を誘う。
裕也は、人参が好きであった。
「もうお腹が一杯です」
ひろ子が音をあげる。
「しばらく、食べれないかもしれませんよ。
頑張って食べなさい」
百が言う。
ひろ子は、一生懸命に食べた。
最後に果物(くだもの)が出た。
「本当に最後よ。
果物よ」
柿が皮をむいて綺麗(きれい)に種を取って、4つ切りにされて出てきた。
楊枝(ようじ)がついている。
阿弥陀様もお食事が終わったようである。
食事も終わり、裕也は、ひろ子の横に座った。
「ひろ子ちゃんにお願いしたいことがあります。
私のために、西の地球にシステムの会社をつくってくれませんか?」
どこからともなく、水子も現れた。
つづく。 次回(西の地球と神様の約束(006)ーひろ子の約束-)
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