第Ⅱ章。「現れし古に伝わりし指輪」3話、快復の証。「~失望と愛~導かれし悪魔の未都市。」0006
0006_快復(かいふく)の証(あかし)
イリスとデミュクに朝が来る。
(はっとした)
傷負(きずお)い天使は、安らかに寝ていた。
(お爺様(じいさま)が起きる前に)
イリスは、手入れした農具を家の出入り口に置きに行った。
お爺さんは、既に起きていた。
(こんな早く?いや、ずっと納屋に居たのか?)
お爺さんは、心で思ったが顔に出さない。
「おはよう。イリス」
「お爺様。おはようございます」
お爺さんは、起きて昨夜の残りのポテトを食べた。
そして、農具を取って出かけた。
「イリス。行ってくる」
1日目。2人には、何も起こらなかった。
イリスも朝食を取り、農作業をしに畑に出る。
(待った。畑に出る前に一目)
イリスは、納屋を訪(たず)ねる。
「顔色が良いわ」
(お腹(なか)は、空かないの?)
気にはなったが農作業をすることにした。
畑は、近い。直ぐ傍(そば)の場所である。
イリスは、『昼に何(なに)かを食べさせてあげなければ』、
そればっかりが頭に浮かんでは消えていく。
それでも農作業を熱心にした。
(お日様が眩(まぶ)しい)
(お腹が空いたわ)
手をかざし太陽の位置を見る。
(お昼ぅ(ひるぅ)。お昼ぅ)
「天使さんの顔を見る前に」と一こと言うと森に消えた。
イリスが森から出てきた。
擦(す)り傷だらけである。
手に赤い何かを持っている。
果物(くだもの)の実(み)らしい。
キュウイか?むしろアケビに似ている。
納屋に向かう。そっと覗(のぞ)く。
「寝ている」
(水分の多い果物なら食べれるかも?)
納屋に入り傷負い人の横に座る。
森で採ってきた果物を目が覚めたら見える傍(かたわ)らに置く。
一つを自分で食べてみた。
(苦くはないわね。甘い。
血の味には遠いように思える。
でも、水分の補給にはなるわね。
きっと)
デミュクのお腹に巻いているエプロンを取った。
傷跡を見る。
「あら。塞(ふさ)がってきてる。
さすが神様ね。
え!天使?
呼び方は、どうでもいい」
包帯(ほうたい)を白い布切(ぬのき)れに替える。
布を見つけ出したのである。
と言うより、本当は、自分のシーツ端を見えないように切った。
「起きなさい。でもこのまま見ていたい」
イリスは、名残惜(なごりお)しいが農作業に戻ることにした。
暫(しばら)くして、
(何か甘い香りがする)
デミュクは、薄く目を開けた。
赤い皮の果物(くだもの)が見える。
3房(ふさ)ある。
手を伸ばしとる。
2つに割る。
赤と白の果肉と黒い種がある。
汁(しる)が溢(あふ)れ滴(したた)る。
口を近づけ啜(すす)った。
赤い色がデミュクの食欲を妙(みょう)にそそる。
皮を押さえて皮に沿(そ)い口を這(は)わせ実だけを吸い取る。
種がプチプチとした触感(しょっかん)を生む。
デミュクは、果実の甘味(かんみ)と感触(かんしょく)を楽しんだ。
そして、皮を元の果物のあった場所に置き、再び眠りについた。
日が暮れかけてきた。
「あ!もうこんな時間。
夕食の支度(したく)をしなくてはいけない」
イリスは、家に急いで戻った。
そして、家事用の水を汲(く)みに行く。
今度は、家に戻ると汲んだ水を瓶(かめ)にいれ夕食を準備する。
昨日、用意したものの残りである。
棚にしまったポテトを出す。
蒸しなおす。
(これをまず始末しなきゃ)
スープを温めなおし付け足す。
そうこうしてるとお爺さんが帰ってくる。
「お爺様。お帰りなさい」
急いで出迎(でむか)えに出る。
「今、帰った」
お爺さんは、イリスの顔を見て安心した。
(何も起こらなかったようだ)
「農作業は、どうでした?」
イリスもお爺さんがいつも通りなので安心した。
「雑草が凄(すご)く生えている」
お爺さんの顔は曇(くも)る。
「家の畑もです」
イリスは、手を出して農具を受け取った。
(ひとまず安心)
「手入れもしときます」
「また、お祈りかい?」
お爺さんは、敢(あ)えて聞いてみた。
「ええ、この土地にもお爺様にも神様の加護がありますように祈っています」
(まあ。何も言うまい。
そのうち。話してくれるだろう)
お爺さんは、今日もイリスへの信頼を優先することにしていた。
夕食をテーブルに並べた。
いつもの様に感謝の祈りを捧(ささ)げた後、食べた。
「奇麗(きれい)に全部食べてくださいよ」
「分かってるよ。
元気を出さないとな」
お爺さんとイリスは、残さずに食べた。
(明日は、今日の昼に食べた果物をスープに入れてみよう)
食器をたんたんと片づけた。
お爺さんは、ベットに座りカードの書物を読んでいる。
イリスは、食器を洗い終わるといそいそと納屋に出かけた。
「あら、果物を食べたのね。
顔色もいいですね。
いつになると起きるのですか?」
イリスは、また森へ果物を取りに行った。
暫(しばら)くして果物を持って帰ってくる。
傍(かとわ)らに果物をそっと置いた。
イリスは、また祈る。
(昼の果実の匂いがする)
匂(にお)いに目が覚める。
デミュクは、薄目を開け、イリスが祈っているのを見て安心した。
しかし、目を閉じ寝ているふりをした。
(何を話して良いか分からない)
イリスは、一生懸命祈っている。
耳を澄(す)まして聞くと今日あったことを報告しているようである。
デミュクもいつしか寝ていた。
イリスも傍(かたわ)らに寝ている。
疲れていたかもしれない。
真夜中である。
デミュクは、目を覚ました。
耳を澄ませる。
熟睡(じゅくすい)しているか確認する。
デミュクは、目を開け起きだした。
(可愛らしい寝顔)
(本当に夢で見た妖精のようだ)
見ているだけでデミュクの心は暖かくなった。
(人の禁(きん)を破るのだ)
(誰だ?)
自分の心の声とは別に心に声がする。
(我々は、排泄(はいせつ)しない。
神(悪魔)だからな。
人か神か確かめるのだ)
悪魔の主(しゅ)の要求である。
デミュクは、誰の声か理解した。
(何を疑うことが有る?
確かめるまでもない人間だ)
自分の意志を強く気を入れ、こころに念じる。
(普通の人間だ)
(じゃあ。夢は?幻想か?
予知ではないのか?)
主(しゅ)のイメージに飲み込まれていく。
デミュクは、確かめた。
人の味だ。
(やっぱり、只(ただ)の人間なのだ)
デミュクの悪魔の力か?イメージで空間を超えれる。
(夢での妖精には、胸に石があった)
胸を探(さぐ)った。
今度は、実際に手で触(さわ)った。
服の上からである。
「硬い」
硬い感触が指に伝わる。
つづく。 次回(愛とは誘惑か?)
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