乱鳥の書きなぐり

遅寝短眠、起床遊喰、趣味没頭、興味津々、一進二退、千鳥前進、見聞散歩、読書妄想、美術芝居、満員御礼、感謝合掌、誤字御免、

『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 6オ  近松門左衛門作        11

2019年09月29日 | 近松門左衛門



  『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 6オ  近松門左衛門作        11


 

 (でつち小者もせふしがり、早ふかへつてくだされかしと。)

 待日も西能のどり足見せさし此尓成尓けり。かご

 能鳥なる梅川尓こがれて通ふさとすゞめ。忠兵衛ハ

 とぼ/\と外能ぐめん内能くび。心ハくもでかくなハや

 十文色も出てくるハ、なむ三宝がくれるとあしを

 空に立帰り、門口尓ハ着けれ共、るす能内尓方ゝ

 能、さいそく使妙閑能ミヽ尓入ていか様能、首尾尓なつ

 たもきづかハし、誰ぞ。出よかし内證をとくと聞きて

 入りたしと、家家ながら敷居高く、内をのぞけば食(めし)

 (たき能まんめが酒屋へ行体也、きやつハ木ではなもぎ 6ウ)





 すずめ=古語辞典では「すずめ」は本文の意味に到達しないが、歌舞伎では「廊下雀」という言葉が使われる。
    「廊下雀は嫌われますよ。」と言った台詞がある。
     だが、「廊下雀」も古語辞典では出てこない。
     歌舞伎では「廊下雀」とは、花魁のいるような遊郭で、客があちこちの部屋(花魁など)を覗き探すような行動を指す。
     (乱鳥の解釈)

 ぐめん=工面

 くもで=蜘蛛手(熊手か)

 なむ三宝=南無三宝(なむさんぼう)   (ブリタニカ国際大百科事典)
      南無は namasの音写で帰命するという意。
      三宝は仏教で尊ぶ3種の宝で,仏陀,仏教の説く真理,出家修行者や信徒またはその集団をいう。
      したがって,以上の三宝に対して敬礼するという意。
      一般には,危機に遭遇したとき発する言葉として用いられる。

      ①仏仏と仏の教えと僧の三宝に帰依(キエ)することを表す語。   (漢字ペディア)
       ②大変だ。しまった。驚いたときや失敗したときに、三宝に助けを求める語。
      「南無三」ともいう。

 妙閑=この名が出てくるのは、本文中で二度目
     淡路町の段. 母 妙閑

 内證=内証文

             (6オ)      

               『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」P.284  



 (1オ)(1ウ)(2 オ)= (一丁表)(一丁裏)(二丁表)…と言う意味です。
  本文に「。」が付いている場合は「。」 付いて無い場合は「、」突表記しています。
 (「尓」「能」などのように、助詞の部分はそのまま元字で書いています)



 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 1 オ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 1 ウ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 2オ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 2ウ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 3オ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 3ウ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 4オ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 4ウ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 5オ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 5ウ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 6オ  近松門左衛門作


「冥途の飛脚」 1 オ
   梅川 冥途の飛脚 近松門左衛門作
 身をつくし難波尓さくやこの花能。里ハ
 三すぢ尓町の名も佐渡と越後
 相の手を。かよう千鳥の淡路町、亀屋
 能世つぎ忠兵衛、ことし廾能上はまだ四
 年、いぜんに大和より、敷金をもつて養子
 ぶん後家妙閑のかいほう処、あきなひ功
 者駄荷づもり江戸へも上下三度笠。

「冥途の飛脚」 1 ウ
 茶のゆはいかい素双のべに手能かど                
 とれて。酒も三川四川五川所もん羽二重も
 出ずいらず。無地の丸つばぞうがんの國 
 ざいく尓はまれ男。色能わけ志り里志りて
 暮るを待ずとぶ足能。飛脚宿能いそがし
 さ。荷をつくるやら不どくやら。手代ハ帳面
 そろばんをおゝ口とも尓どや/\と。千万両能
 やりくりも、つくしあづま能とりやりもゐながら

「冥途の飛脚」 2オ
 かね能自由さハ、一歩小判やしろかね尓つばさ能
 有がごとく也、町通り能状取立帰つてそれ/\と。
 とめ帳つくり所へたそ頼もふ忠兵宿尓ゐやる              
 かと。あん内するハ出入能屋やしき能さむらい。手代共ゐん
 ぎん尓。ヤア是ハ甚内さま。忠兵衛ハるすなればお下
 し物能御用ならば。私尓仰聞られなせ。お茶もて
 おじや、と、あいしらう。いや/\下り能用はなし。ゑど
 若だんなより御状が来た。是おきゝやれとおしひらき。

「冥途の飛脚」 2ウ
 来月二日出の三度尓金子三百両毎さしのばせ
 申べく候。九日十日両日能中、その地亀屋忠兵衛方
 より。右三百両毎請取内ゝ申置候こと共、埒明申さ
 るべく候。則飛脚能請取證文此度登せ候間。金子
 請取次第この證文忠兵衛尓渡し申さるべく候。是
 此通仰下された。今日迄とゝかぬ処大事能御用の
 手はづがちがう。なぜか様にふらちなとはなを。しかめ
 言ひければ。ハヽ御尤/\。去りながら此中能雨つゝき。川ゝ

「冥途の飛脚」 3オ
 仁 水が出ますれば、道中尓日がこミ。かね能とゝかぬ
 のみならず、手前も大分能そん銀。もし盗賊が
 切取道からふつと出来心。万ゝ貫目取られても。
 十八軒能飛脚宿からわきまへ。けし程も御損
 かけませむ、おきづかひあられるな。いはせもはてず
 是さ/\。いふまでもない御そんかけてハ忠兵衛がくびが
 とぶ。日銀のびてハ御用能間があく仁より、それ処
 能せんさく迎ひ飛脚をつかハして早速尓持参

「冥途の飛脚」 3ウ
 せいとかちわかたうもゐくハう。銀ごしらへも
 うさんなまりちらして成りしが。まだ頼みませふ/\。
 中能嶋丹波屋八右衛門から来ました。江戸尓舟
 町米どひ屋能かハせ銀そへ状ハなぜ
 とゞきませぬ。此中文を進しても返事もござ
 らず。使をやれば酢能こんにやくのといつ届けさつ
 しやるぞ。此者わたして人をつけて下され。手形
 手形もどそと申さるゝ、サア金子請とらふと立はたかつ

「冥途の飛脚」 4オ
 てわめきける。主おもひ能手代の伊右衛、さハがぬ躰尓
 て。是お使い、八右衛門さまが其様尓、りくつ臭い口上ハ
 有まい。五千兩七千両、人能かねをあづかって。百丗里
 を家尓し、江戸大阪を。ひろふせばふする亀屋。そ
 こ一軒でハ有まいし。をそいこともなふてハ。今でも旦
 那かへかへられらば此方から返事せふ。五千両尓たらぬ
 金あたがしたましういふまいと。かさから気を
 のまれ、使ハまじめ尓帰りけり。母妙閑ハこたつ能

「冥途の飛脚」 4ウ
 そばをなることもなん戸を出。ヤァ今能ハなんぞ。たん
 ば屋能金のとゞいたハ慥十日もいぜん能こと。なぜ忠
 兵衛ハ渡さぬの。けさかた二軒三軒能金のさいそく
 ゑず。終尓中間へなんぎをうけず、十八軒能飛脚屋
 聞きてゐる。おやじ此代からの此家尓かね一匁能さいそく
 能かゞミといはれた此亀屋。ミなハ心もつかぬか。
 兵衛か此処能そぶりがどふも、のミこまぬ。昨今能者ハ
 しるまいが、じだい是能実子でなし。もとハ大和新口

「冥途の飛脚」 5オ
 村勝木孫右衛門と云大百姓能ひとり子母ご
 ぜハお死尓やって継母がゝり能技くれ尓。悪性狂
 ひも出来るぞと、てゝごせ能思案で是能世とり尓
 もらひしが。せたいまハり商売ごと何尓おろかハな
 けれ共。此比ハそハ/\と何も手尓付かぬ見た、ゐけん
 能しさいとあれど、養子能母もまま母も。同前と
 思はふかせハ/\いふよりいはぬ身を。はぢいらせふと
 おもふて、目をねふつても聞所、見所ハみてゐる、いつ

「冥途の飛脚」 5ウ  
 能ま尓やら大気尓なり述べ能はな紙二枚三枚手尓あ
 たり次第。かさねながら、はなかミやる。過ぎゆかれしおや
 じ能咄尓。はな紙びんびと仕ふ者ハくせ者じやと
 いはれたが。忠兵衛が内を出さま尓のべ三折づゝ入て
 出て何程はなをかむやらもどり尓ハ一枚も残らぬ。
 身が達者な能わかいのとて。あの様尓はな噛んでハ。
 どこぞで病も出ませふとよまいごとして入ければ。
 でつち小者もせふしがり、早ふかへつてくだされかしと。

「冥途の飛脚」 6オ
 待日も西能のどり足見せさし此尓成尓けり。かご
 能鳥なる梅川尓こがれて通ふさとすゞめ。忠兵衛ハ
 とぼ/\と外能ぐめん内能くび。心ハくもでかくなハや
 十文色も出てくるハ、なむ三宝がくれるとあしを
 空に立帰り、門口尓ハ着けれ共、るす能内尓方ゝ
 能、さいそく使妙閑能ミヽ尓入ていか様能、首尾尓なつ
 たもきづかハし、誰ぞ。出よかし内證をとくと聞きて
 入りたしと、家家ながら敷居高く、内をのぞけば食(めし)

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『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 5ウ  近松門左衛門作     10

2019年09月29日 | 近松門左衛門



  『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 5ウ  近松門左衛門作    10


 

 (おもふて、目をねふつても聞所、見所ハみてゐる、いつ)

 能ま尓やら大気尓なり述べ能はな紙二枚三枚手尓あ

 たり次第。かさねながら、はなかミやる。過ぎゆかれしおや

 じ能咄尓。はな紙びんびとつかふ者ハくせ者じやと

 いはれたが。忠兵衛が内を出さま尓のべ三折づゝ入て

 出て何程はなをかむやらもどり尓ハ一枚も残らぬ。

 身が達者な能わかいのとて。あの様尓はな噛んでハ。

 どこぞで病も出ませふとよまいごとして入ければ。

 でつち小者もせふしがり、早ふかへつてくだされかしと。

 (待日も西能のどり足見せさし此尓成尓けり。かご 6オ)

 

 せふし=笑止

 早ふかへつてくだされかしと。(早う帰って下されかし)
 かし=終助詞《接続》文の言い切りの形に付く。  (学研全訳古語辞典)
 ①〔強く念を押す〕…ね。…よ。
 出典枕草子 大進生昌が家に
 「あけむとならば、ただ入りねかし」
  [訳] (女性の部屋に)入ろうというのなら、さっさと入ってしまえよ。
 ②〔自分に言い聞かせる〕…よ。
 出典枕草子 清涼殿の丑寅のすみの
 「これは知りたることぞかし」
  [訳] これ(=『古今和歌集』の歌)は覚えているはずのことなのだよ。
 参考係助詞「か」に副助詞「し」が付いたもの。
 語の歴史(1)中古以降の会話文に用いられ、和歌に用いられた例は極めて少ない。(2)中世後期になると、「命令形+かし」「ぞ+かし」の例が多い。 


             (5ウ)      

               『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」P.284  




 (1オ)(1ウ)(2 オ)= (一丁表)(一丁裏)(二丁表)…と言う意味です。
  本文に「。」が付いている場合は「。」 付いて無い場合は「、」突表記しています。
 (「尓」「能」などのように、助詞の部分はそのまま元字で書いています)



 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 1 オ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 1 ウ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 2オ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 2ウ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 3オ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 3ウ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 4オ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 4ウ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 5オ  近松門左衛門作
 『近松全集第七巻』「冥途の飛脚」 5ウ  近松門左衛門作


「冥途の飛脚」 1 オ
   梅川 冥途の飛脚 近松門左衛門作
 身をつくし難波尓さくやこの花能。里ハ
 三すぢ尓町の名も佐渡と越後
 相の手を。かよう千鳥の淡路町、亀屋
 能世つぎ忠兵衛、ことし廾能上はまだ四
 年、いぜんに大和より、敷金をもつて養子
 ぶん後家妙閑のかいほう処、あきなひ功
 者駄荷づもり江戸へも上下三度笠。

「冥途の飛脚」 1 ウ
 茶のゆはいかい素双のべに手能かど                
 とれて。酒も三川四川五川所もん羽二重も
 出ずいらず。無地の丸つばぞうがんの國 
 ざいく尓はまれ男。色能わけ志り里志りて
 暮るを待ずとぶ足能。飛脚宿能いそがし
 さ。荷をつくるやら不どくやら。手代ハ帳面
 そろばんをおゝ口とも尓どや/\と。千万両能
 やりくりも、つくしあづま能とりやりもゐながら

「冥途の飛脚」 2オ
 かね能自由さハ、一歩小判やしろかね尓つばさ能
 有がごとく也、町通り能状取立帰つてそれ/\と。
 とめ帳つくり所へたそ頼もふ忠兵宿尓ゐやる              
 かと。あん内するハ出入能屋やしき能さむらい。手代共ゐん
 ぎん尓。ヤア是ハ甚内さま。忠兵衛ハるすなればお下
 し物能御用ならば。私尓仰聞られなせ。お茶もて
 おじや、と、あいしらう。いや/\下り能用はなし。ゑど
 若だんなより御状が来た。是おきゝやれとおしひらき。

「冥途の飛脚」 2ウ
 来月二日出の三度尓金子三百両毎さしのばせ
 申べく候。九日十日両日能中、その地亀屋忠兵衛方
 より。右三百両毎請取内ゝ申置候こと共、埒明申さ
 るべく候。則飛脚能請取證文此度登せ候間。金子
 請取次第この證文忠兵衛尓渡し申さるべく候。是
 此通仰下された。今日迄とゝかぬ処大事能御用の
 手はづがちがう。なぜか様にふらちなとはなを。しかめ
 言ひければ。ハヽ御尤/\。去りながら此中能雨つゝき。川ゝ

「冥途の飛脚」 3オ
 仁 水が出ますれば、道中尓日がこミ。かね能とゝかぬ
 のみならず、手前も大分能そん銀。もし盗賊が
 切取道からふつと出来心。万ゝ貫目取られても。
 十八軒能飛脚宿からわきまへ。けし程も御損
 かけませむ、おきづかひあられるな。いはせもはてず
 是さ/\。いふまでもない御そんかけてハ忠兵衛がくびが
 とぶ。日銀のびてハ御用能間があく仁より、それ処
 能せんさく迎ひ飛脚をつかハして早速尓持参

「冥途の飛脚」 3ウ
 せいとかちわかたうもゐくハう。銀ごしらへも
 うさんなまりちらして成りしが。まだ頼みませふ/\。
 中能嶋丹波屋八右衛門から来ました。江戸尓舟
 町米どひ屋能かハせ銀そへ状ハなぜ
 とゞきませぬ。此中文を進しても返事もござ
 らず。使をやれば酢能こんにやくのといつ届けさつ
 しやるぞ。此者わたして人をつけて下され。手形
 手形もどそと申さるゝ、サア金子請とらふと立はたかつ

「冥途の飛脚」 4オ
 てわめきける。主おもひ能手代の伊右衛、さハがぬ躰尓
 て。是お使い、八右衛門さまが其様尓、りくつ臭い口上ハ
 有まい。五千兩七千両、人能かねをあづかって。百丗里
 を家尓し、江戸大阪を。ひろふせばふする亀屋。そ
 こ一軒でハ有まいし。をそいこともなふてハ。今でも旦
 那かへかへられらば此方から返事せふ。五千両尓たらぬ
 金あたがしたましういふまいと。かさから気を
 のまれ、使ハまじめ尓帰りけり。母妙閑ハこたつ能

「冥途の飛脚」 4ウ
 そばをなることもなん戸を出。ヤァ今能ハなんぞ。たん
 ば屋能金のとゞいたハ慥十日もいぜん能こと。なぜ忠
 兵衛ハ渡さぬの。けさかた二軒三軒能金のさいそく
 ゑず。終尓中間へなんぎをうけず、十八軒能飛脚屋
 聞きてゐる。おやじ此代からの此家尓かね一匁能さいそく
 能かゞミといはれた此亀屋。ミなハ心もつかぬか。
 兵衛か此処能そぶりがどふも、のミこまぬ。昨今能者ハ
 しるまいが、じだい是能実子でなし。もとハ大和新口

「冥途の飛脚」 5オ
 村勝木孫右衛門と云大百姓能ひとり子母ご
 ぜハお死尓やって継母がゝり能技くれ尓。悪性狂
 ひも出来るぞと、てゝごせ能思案で是能世とり尓
 もらひしが。せたいまハり商売ごと何尓おろかハな
 けれ共。此比ハそハ/\と何も手尓付かぬ見た、ゐけん
 能しさいとあれど、養子能母もまま母も。同前と
 思はふかせハ/\いふよりいはぬ身を。はぢいらせふと
 おもふて、目をねふつても聞所、見所ハみてゐる、いつ

「冥途の飛脚」 5ウ  
 能ま尓やら大気尓なり述べ能はな紙二枚三枚手尓あ
 たり次第。かさねながら、はなかミやる。過ぎゆかれしおや
 じ能咄尓。はな紙びんびと仕ふ者ハくせ者じやと
 いはれたが。忠兵衛が内を出さま尓のべ三折づゝ入て
 出て何程はなをかむやらもどり尓ハ一枚も残らぬ。
 身が達者な能わかいのとて。あの様尓はな噛んでハ。
 どこぞで病も出ませふとよまいごとして入ければ。
 でつち小者もせふしがり、早ふかへつてくだされかしと。

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映画『さくらん』4,8★ 監督:蜷川実花 生花デザイン:東信 照明:熊谷秀夫 美術:岩城南海子 装飾:相田敏晴 土屋アンナ 安藤政信 市川左團次 椎名桔平 石橋蓮司 他

2019年09月29日 | 乱鳥徒然 Rancho's room.

 映画『さくらん』4,8★ 監督:蜷川実花 生花デザイン:東信 照明:熊谷秀夫 美術:岩城南海子 装飾:相田敏晴 土屋アンナ 安藤政信 市川左團次 椎名桔平 石橋蓮司 小栗旬他


 なんども見た映画『さくらん』をみる。

 『Diner ダイナー』5★ 『人間失格 太宰治と3人の女たち』5,8★(満点以上)にいたく感動した後にみる蜷川実花作品である『さくらん』は、また新鮮なものに感じた。

『さくらん』は印象深い、江戸時代の遊郭の風習を吟味して創られた素晴らしい作品であり好きだが、蜷川実花監督は、ここにきてさらにグレーフォアップをされたいい意味での怪物のようなアーティスチオである。


 世間では蜷川実花監督において突拍子もない色使いであるといったことをおっしゃる方もいらっしゃる。
 人それぞれの感想があって良いのだとおもすし、私の感想は私の感じたことであって、感傷において正解や間違いはないのである。
 だが、一つ言えることは、蜷川実花監督の色彩は、サイケデリックといった一言では片付けられないし、また、基本を押さえておられる彼女のチキ量に拍手を送りたい。

 一見多くの色を多用されていらっしゃるように思うかもしれないが、必ず画面のどこかからポイントの色が流れ、重要な方向に目が行くように構図を整えられている。
『さくらん』の場合は例えば例一例を挙げるならば、毛氈の赤は花魁の衣装を通って壁に流れ、画面(視線)が作品を移動させるといった名画との共通点が多い。
 そして、多くの色合いを使われているかと思うと、必ず、モノトーンに近い場を描き、モノトーンに見えるが実は色彩豊かであるといった高度なテクニックを使われていらっしゃる。
 この「色」という世界観は絶対音感の色判といってもようであろう蜷川実花監督の世界観を繰り広げ、好きな方は大変好きであると言える。

 また、蜷川実花監督は映画を製作されるにあたって、細やかにその当時の風習などを取り入れられていらっしゃる
 例えば、一見全く大切ではないように見える小栗旬さんの役どころ(魚屋)は、当時は鰹の初売りなどをし、人気があった。
 威勢の良い言葉は江戸そのもので、嫌いな客にはたとえ頭とて売らないという勢いのある職業であったという研究者もいらっしゃるくらいである。
 歌舞伎『髪結新三』に出てくる初鰹売りは、まさしく威勢の良い江戸風情の一つである。
 その魚がにこりと笑い、花魁が微笑み返す、なんとも小気味の良い場面であった。

 映画には歌舞伎役者の左団次さんがご出演されていた。
 この役は左団次さんに適役であり、すんなりと見られる。
 適役というより、まさにそのもののような錯覚に陥るお役柄であったことにおいて拍手を送りたい。
 左団次さんを起用されたことにより、歌舞伎の世界へと誘い、道行の場面が一層強調される。
 蜷川実花監督、あっぱれじゃ!と心底私は内心はしゃぐ。

 最後の場面は、道行。 
 映画『さくらん』は、あっけらかんとして暗さを見せない、明るい心中物である。
 心中場面こそ漆出されてはいないのだが、禿が泣きながら行った次の言葉がそれを暗示させる。
「怖い夢をみた。姉さんが遠くに行って死んでしまう夢を見た。」
 心中物をこのような形で描き出せることができると知ったら、近松門左衛門はどのような顔をすののであろうかと思うと、興味深い。
 そういう私も今まさに『近松全集』「冥途の飛脚」を読んでいる真っ最中である。
『さくらん』では心中の場面までは到達しない。最後まで完全には描かれてなく余韻を残す形。これは心中物とは呼ばない方がようのであろうか。
 吉原を足抜けし、あっけらかんと咲き誇る桜の元へ旅立つ二人の姿で、映画は終わる。


 余談ですが、映画中の生花は最高に気を高め、場を盛り上げている。






 スタッフ
監督:蜷川実花
原作:安野モヨコ
脚本:タナダユキ
音楽:椎名林檎
照明:熊谷秀夫
美術:岩城南海子
装飾:相田敏晴
スタイリスト:伊賀大介、杉山優子
生花デザイン:東信 https://www.pinterest.jp/phalaenopsist/東信/
 (東信 https://azumamakoto.com/about/より)
 AMKK
 AMKK(東信、花樹研究所)とは、フラワーアーティスト東信(あずま まこと)の花・植物を題材とした実験的なクリエイションを展開していく集団であり、その活動は、花・植物のみが有しているもっとも神秘的な形を見つけ、それを芸術的レベルに変換し表現する事で、植物の存在価値を高める事に一貫している。 (東信 https://azumamakoto.com/about/より)

 東 信(あずま まこと)
 1976年生まれ。フラワーアーティスト
 2002年より、注文に合わせてデッザンを起こし、花材を仕入れ、花束をつくるオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を銀座に構える(現在は南青山所在)。2005年頃から、こうした花屋としての活動に加え、植物による表現の可能性を追求し、彫刻作品ともいえる造形表現=Botanical Sculptureを開始し、海外から注目を集めはじめる。ニューヨークでの個展を皮切りに、パリやデュッセルドルフなどで実験的な作品を数多く発表するほか、2009年より実験的植物集団「東信、花樹研究所 (AMKK)
」を立ち上げ、ミラノ、ベルギー、上海、メキシコの美術館やアートギャラリー、パブリックスペースで作品発表を重ねる。近年では自然界では存在し得ないような地球上のさまざまなシチュエーションで花を活けるプロジェクトを精力的に展開。独自の視点から植物の美を追求し続けている。

 椎木 俊介(しいのき しゅんすけ)
 1976年生まれ。ボタニカル・フォトグラファー
 2002年より、東信とともにオートクチュールの花屋「JARDINS des FLEURS」を構える。東が植物による造形表現をはじめると時期を同じくして、カメラを手にし、刻々と朽ちゆき、姿かたちを変容させていってしまう生命のありようを写真に留める活動に傾倒していく。
 日々、植物に触れ、その生死に向き合ってきたからこそ、導き出すことのできる花や植物のみが生来的に有する自然界特有の色彩や生命力、神秘性を鋭く切り取っていく。


キャスト
きよ葉(日暮):土屋アンナ・幼少期:小池彩夢
倉之助:椎名桔平
惣次郎:成宮寛貴
高尾:木村佳乃
粧ひ:菅野美穂
光信:永瀬正敏
若菊:美波
大工:山本浩司
坂口:遠藤憲一
しげじ:山口愛
お染:倉内沙莉
お蘭:小泉今日子
楼主:石橋蓮司
女将:夏木マリ
ご隠居:市川左團次(特別出演)
清次:安藤政信
桃花:蜷川みほ
揚羽:兵頭有紀
琴音:もたい陽子
空蝉:松下恵
昼顔:月船さらら
夕凪:藤森麻由
舞鶴:中村ゆり
つつじ:海老沢神菜
雪路:近野成美
白玉:杉林沙織
にほひ:吉田里琴
とめき:齋藤飛鳥
みやこ:矢口蒼依
遣手:星野晶子
吉造:野村貴志
小春:飯沢もも
明石:真中莉子
浮船:彩輝ゆう
若狭屋:影山英俊
粧ひの客:津田寛治
きよ葉の客:長塚圭史
床紅葉の客:SABU
日暮の客:丸山智己
花屋:小栗旬
俺達:会田誠、安藤武徳、庵野秀明、忌野清志郎、大森南朋、小川洋之、小山登美夫、ゴリ(ガレッジセール)、古厩智之、村松利史
客:天田暦、飯塚俊太郎、井川哲也、大迫茂生、椎名泰三、芝崎昇、渋川清彦、清水伸、杉本凌士、清家栄一、田島俊弥、山田強


『さくらん』 安野モヨコの漫画作品。映画化され、2007年2月24日に公開。
 江戸・吉原で育ったきよ葉が、花魁になるまでの葛藤や苦涯、事件などの人生模様が描かれている。
 キャッチコピーは「てめぇの人生、てめぇで咲かす」

 物語の主人公。禿のときの名前は「とめき」、引込のときは「おりん」、新造のときは「きよ葉」、第二部(花魁)での名は「日暮(ひぐらし)」。本名は不明。

 あらすじ
 吉原の玉菊屋に連れてこられた8歳の少女はきよ葉と名付けられ、高級花魁で気の強い粧ひに面倒を見られることに。
 何度も脱走を試みるきよ葉だが粧ひや玉菊屋の清次などに導かれ花魁になることを決意する。
 17歳になったきよ葉は持って生まれた美貌と気性の強さで一躍売れっ子となる。
 やがて、きよ葉は、お客として来た青年・惣次郎と恋に落ちるが…。


 遊女屋
 玉菊屋(たまぎくや)
 吉原の遊女屋で主人公のきよ葉らが在籍する店。粧ひを初めとする人気花魁を次々輩出している。
 松葉屋(まつばや)
 お染が在籍していた店。







 写真は、長浜子供歌舞伎
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 
コメント (2)
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