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Marie Antoinette (d'Autriche)
Marie Antoinette
脚本 齋藤 雅文
演出 マキノ ノゾミ
キャスト 大地 真央
山本 學
団 時朗
羽場 裕一
山本隆二
大浦 龍宇一
小川 範子
山下 容莉枝
宮本 裕子 他
1793年秋、パリ、コンシエルジュリーの監獄内。
弁護士ラガルド(山本学)が、一人の女囚のもとを訪れ、話を聞く。
この山本学は話のナレーション役をも務め、重要。
実の声とテープとを随所で使いわけ、話の進行に一役買っている。
こういった役柄に山本学のように知性的で深い役者の彼は適役といえよう。
後の名 カペー夫人と呼ばれている監獄内の女性は、革命において加害者でありまた被害者とも言える、フランスの王妃 Marie Antoinette であった。
革命ですべてを失った王妃には、全てを信じない。
愛を失い、子を失い、立った人地の供である義妹や地位や名声までをも失う。
フランス政府から指名された弁護人に対しても同様。
ただ、ラガルドの誠実な人柄に心を開き、全てを語る。
ラガルドは元王妃の裁判の弁護人。
彼女から聞いた話をきっと後世に伝えると彼女に誓う人情の持ち主。
対話を重ねるうちに王妃の本当の姿が明らかになっていくのであった。
彼は彼女の話を冷静に真っ向から受け止め、ナレーションとして淡々と進める山本学は好感が持てる。
主役である大地真央は美しかった。
さもすれば、彼女の肌はシルクとワインと砂糖菓子できているのではないかと錯覚するほどに、美しい。
リュート音楽が良く似合う。
彼女は発声がしっかりとしていて、心地よい響きが伝わってくる。
強弱や間のとり方が彼女独自のもので、好きである。
台詞が見事である。
今回二役をされたが、実に美味くこなされていた。
透き通るような美しさを持つ彼女は、品の良い焼くの方がぴったりとしていたが、大阪弁の道化師役は会場内を大いにわかせてくださった。
素晴らしい。
私がこの舞台で感心したのは、舞台のシーンごとに数多くの名画が織り込まれているということ。
舞台を観ながら探すことも楽しかった。
この舞台は写実主義の絵画がよくあっていた。
加えて先ほども書いたが、リュート音楽が心地が良い。
私個人が絵画的シーンで気に行ったベスト3としては、次のようなものがある。
1)チュイルリー宮殿の曇りきった鏡
栄光から谷底、チュイルリー宮殿の一室の鏡に映ったラガルドを見つめるMarie Antoinetteの舞台向かって左向きのドレ氏のすその絵。
及び、チュイルリー宮殿の一室の鏡に映った 陛下の各個人の後ろ姿。
チュイルリー宮殿の鏡は ヴェルサイユ宮殿の鮮明な鏡に比べて 曇り汚れている。
それゆえに映る被写体は、湾曲し、絵面をにごらせ、重厚な絵画のように映るのと同時に、彼らの現状を的確に我々に伝えてくれる。
2)プチ・トリアノンの庭
ヴェルサイユ宮殿のようにきらびやかではなく、品良くまとまったという感じの館の前に、写実主義の画家が描くような気の聞いた池。
池の前ではMarie Antoinette等が劇の練習。
子どものいたずらやかわいらしさは、印象派にも通じる部分も伺える。
この写実主義から印象派までを一枚の絵のように描ききった舞台のワンシーンは、Marie Antoinetteや或いはフランスの変動木をも感じ取らせてくれよう。 素晴らしい出来である。
3)民衆が酒場に集まって一致団結、テーブルの上二上がってのシーン
このシーンはドラクロアの『勝利へ導く自由の女神』が起用されているように思える。
民衆は立ち上がり、旗を持ち、その構図と色調はドラクロアの重厚さをかもし出している。
テーブルの上に乗ることにより、民のフランスを自分たちの手で買えていこうという決意はより一層強く感じ取れるであろう。
衣装や生きざまも当時の一般庶民を強調しつつも的確に表し、Marie Antoinetteの生活やしぐさとの比較に効果をもたらしている。
フランス革命以前のオランダの画家では合ったと思うが、ブリューゲルの農民の版画やエッチングに通じるのが印象深い。
以上の3点において、絵画的要素が濃厚で、好きであった。
忘れてはいけないのが ルイ16世役の羽場裕一。
彼は一,二幕ともに道化師役も兼ねたいわば裸の大様的存在。
腹に詰め物を入れ、とんまさを強調、台詞もわざとゆっくり……
しかしながら三幕目のこれから諸境内に行く身の上を知りながら、Marie Antoinetteに心配をかけず、ただ愛していることだけを伝えた男性心理は、素晴らしい。
Marie Antoinette に告げた最後の言葉、
「私は陛下になってたった一つだけよいことがあった。それはMarie Antoinette、あなたと出会えたことです。」
羽場裕一の表情と声色は一,二幕目とはまったく違ったものでした。
顔はくしゃくしゃにいびつさを表現しながらの感情移入。
よく観ると涙に出そうな目つきで、観ている私は課刺身で身震いをしてしまうほど。
加えてこのときのMarie Antoinetteの表情も素晴らしかった。
剥ぎ取られたものの 名誉以前の、こと人間たい人間、男対女以外の何者でもなかった。
全てを打ち明けようとしたMarie Antoinette、全てを知りつつ受け入れて愛していた男。
男の嫉妬から、二人を極限の境地へと追い込んでしまったことをMarie Antoinetteに誤り、女は男を受け入れる。
このすがすがしいまでの人間愛に心打たれた。
三幕三場のコンシェルジュリーの監獄でのシーンも印象深い。
王冠を取られ散切り頭のMarie Antoinette は上着をもぎ取られ、白い質素な衣装に実をまとう。
ラガルドとマリーの会話の後、一言、
「時刻だ」
Marie Antoinetteは後悔も無く、
「陛下のもとに行くのですから……」
と、理路整然とした態度で、処刑台に向かう。
刑務所の一室出たMarie Antoinette。
縛られ、窓の外を右から左に向かって歩む姿は Marie Antoinetteの威厳と自分の行いは、民を苦しめたことにおいてはまずかったかも知れぬが、王妃としての自信は捨ててはいない。
陛下に対する真なる愛を確信しながらの一歩、また一歩と歩む姿は美しい。
団時朗のカリオストロ役も深みがある。
彼の占い通りにフランス或いはMarie Antoinette等は大きな転換期を迎える。
花王おさむの道化役は芝居に重要。
「魔女のような人間と聞いて見張りをしていたが、私はそんな風には思えない。」
と一般市民であるにもかかわらず、Marie Antoinetteの身を案じる姿は、人として美しい。
一般市民の中で山本隆二の台詞になると、芝居がしまって見えた。
上手な役者さんの一人である。
他に芝居のうまい役者さんがいっぱいで、上質の芝居を見た満足感を抱きながら、家路にたどり着いた。
細部においての心使いが感じられ、女優、男優を問わず、皆が一丸となって舞台を作り上げるといった勢いが感じられる秀作のひとつ。
私は、
『ブラボー』
と心の中で叫んでいた。
今年見た数少ない芝居の中で考えるならば、こんなに涙した舞台は初めてかもしれない。
最後に……
パンプレット未購入の為、固有名詞などにミスがあるかもしれないことを付け加えさせていただきます。
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