
『身毒丸 』 折口信夫 6 身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。
2024-09-01
『身毒丸 』 折口信夫 6 身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。
「折口信夫全集 第十七巻」中央公論社
1954(昭和29)年11月
「折口信夫全集 27」中央公論社
1997(平成9)年5月
田楽師は、また村々の念仏踊りにも迎へられる。
ちようど、七月に這入つて、泉州石津の郷で盆踊りがとり行はれるので、源内法師は 身毒と、制多迦童子(せいたかどうじ)とを連れて、一時あまりかゝつて百舌鳥の耳原を横切つて、石津の道場に着いた。
其夜は終夜、月が明々と照つてゐた。
念仏踊りの済んだのは、かれこれ 子の上刻である。
呆れて立つてゐる二人を急き立てゝ、そゝくさと家路に就いた。
道は薄の中を踏みわけたり、泥濘を飛び越えたりした。
三人の胸には、各別様の不安と不平とがあつた。
踊り疲れた制多迦(せいたか)は、をり/\ 聞えよがしに欠をする。
源内法師は鑢ででも磨つて除けたいばかりに、いら/\した心持ちで、先頭に立つてぼく/″\と歩く。
久かたぶりの今日の外出は、鬱し切つてゐた身毒の心持ちをのう/\させた。
けれどもそれは、ほんの暫しで、踊りの初まる前から、軽い不安が始中終彼の頭を掠めてゐた。
彼は、一丈もある長柄の花傘を手に支へて、音頭をとつた。
月の下で気狂ひの様に踊る男女の耳にも、その迦陵頻迦のやうな声が澄み徹つた。
をり/\見上げる現ない目にも、地蔵菩薩さながらの姿が映つた。
若い女は、みな現身仏の足もとに、跪きたい様に思うた。
けれども身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。
ある回想が彼の心をふと躓かせた。
彼の耳には、あり/\と火の様なことばが聞える。
彼の目には、まざ/″\と焔と燃えたつ女の奏が陽炎うた。
『身毒丸 』 折口信夫 1 信吉法師が彼(身徳)の肩を持つて、揺ぶつてゐたのである。
『身毒丸 』 折口信夫 2 此頃になつて、それは、遠い昔の夢の断れ片(はし)の様にも思はれ出した。 / 父の背
『身毒丸 』 折口信夫 3 父及び身毒の身には、先祖から持ち伝へた病気がある。 身毒も法師になつて、浄い生活を送れ」
『身毒丸 』 折口信夫 4 身毒は、細面に、女のやうな柔らかな眉で、口は少し大きいが、赤い脣から漏れる歯は、貝殻のやうに美しかつた。
『身毒丸 』 折口信夫 5 あれはわしが剃つたのだ。たつた一人、若衆で交つてゐるのも、目障りだからなう。
『身毒丸 』 折口信夫 6 身毒は、うつけた目を睜(せい)つて、遥かな大空から落ちかゝつて来るかと思はれる、自分の声に ほれ/″\としてゐた。
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Ranchoです。

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『狐猿随筆』 柳田國男 岩波書店(2011/03発売) /バッハ Bach: 無伴奏チェロ組曲 第1番 ト長/

『身毒丸 』 折口信夫 23 彼の聨想が、ふと一つの考へに行き当つた時に、跳ね起された石の下から、水が涌き出したやうに、懐しいが、しかし、せつない心地が漲つて出た。

『身毒丸 』 折口信夫 22 彼は花の上にくづれ伏して、大きい声をあげて泣いた。すると、物音がしたので、ふつと仰むくと、窓は頭の上にあつた。

『身毒丸 』 折口信夫 21 彼は耳もと迄来てゐる凄い沈黙から脱け出ようと唯むやみに音立てゝ笹の中をあるく。

『身毒丸 』 折口信夫 20 あけの日は、東が白みかけると、あちらでもこちらでも蝉が鳴き立てた。昨日の暑さで、一晩のうちに生れたのだらう、と話しあうた。

『身毒丸 』 折口信夫 19 分別男や身毒の予期した語は、その脣からは洩れないで、劬る様な語が、身毒のさゝくれ立つた心持ちを和げた。
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