ほんわか亭日記

ダンスとエッセイが好きな主婦のおしゃべり横町です♪

「豫園(よえん)の写真」

2011-07-18 | エッセイ
2011年7月18日(月)


エッセイサークルのS氏から、故郷の桃を送っていただいた。
エッセイ誌に載せるS氏の手書き原稿をいつもPCで打ってあげているんだけれど、
気を使ってくださって、お礼にくださるんだ。
新鮮で大きな桃、早速、仏壇にお供えしたよ。(^^)

さて、今日は、お盆も終わったところだし、ダンナと上海に旅行に行ったときの
思い出のエッセイを・・・

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「豫園(よえん)の写真」

 平成十四年夏、夫と二人、夫の退職記念の中国旅行に出かけた。長江をクルーズ
しながら流域にある三国志ゆかりの地を巡り、中国の自然にゆったりとした気分を味わった。
 帰国前日は、上海観光。その目玉として、豫園(よえん)という四百年前の明代の庭園
へのバスツアーがあった。バスの窓から眺めた豫園の一帯は、明代からの建物や、明代風
の作りの商店が軒を連ね、まさに「ザ・中国!」という雰囲気の町並みであった。駐車場で
観光バスを降りると、中国人の若い女性ガイドさんは、後ろも見ずに、観光客でごったがえ
す広場をさっさと進み、ツアー客は、彼女の背中を見失うまいと、足早について行った。
 足が悪い夫と、列の最後尾を進む途中、露天の店に使い捨てカメラが並べられているのに
気付いた。昨日、カメラのフィルムを使いきり、せっかくのこの町並みを写せないと焦っていた私は、
「ちょっと買ってくる。先に行っていて」
と、列を飛び出した。
 顔に「カメラが欲しい」と、書いてある私は、ねぎをしょったカモ。若い店員が、使い捨て
カメラを取りあげ、「百五十元」。それは高過ぎると首を振ると、もう一人の中年の男性店員が、
「百二十元」と言いつつ、目の前に差し出す。それ以上、値切る時間も度胸もなく、代金を払って、
顔を上げると、周りは、中国人観光客ばかり。夫をはじめ同じツアーの人は、影も形も見あたら
なかった。
 言葉も通じない、行き先もしかとは分からない場所で、迷子になったかと、立ちすくんだ。
その様子に気付いた若いほうの店員が、左手の方向を指差す。頷いて、人混みの中を、とりあえず
そちらに歩き出すと、すぐに、先ほどの中年の店員さんが追いかけてきて、身振りで案内して
くれるという。
 ――助かった。ありがたい。さっき、あれ以上値切って心証を悪くしないで良かった。
 広い池にかかる橋の途中まで来ると、店員さんは立ち止まって、池の向こう岸にある門を
指さした。まだ、遥か遠い。自信無さそうな私を見て、彼は、その門まで送ってくれた。
 門の側に立っている夫の姿が見えた時は、ほっとした。店員さんに、
「謝謝(シエシエ)」
 とお礼を言ってから、しきりに道の反対側を見ている夫の側に駆け寄り、
「何してるの、お父さん。こっちよ」
 と、肩を叩くと、夫はたいそう驚いた。ガイドさんが、池にかかる橋の混雑を避け、町の
くねくねとした路地を抜けて来たので、夫たちは橋とは反対方向から門に着いたのだそうだ。
途中、遅れまいとしつつも、心配で後ろを振りかえり、振りかえり歩いて来た夫は、日本人の
ツアコンの人に、
「家内が迷子になりました」
と、言い出す矢先だったという。
 かくて、無事に夫と再会した私は、買って来た使い捨てカメラを構え、豫園の庭で、書斎で、
さらに、龍の瓦の前で、夫の写真を何枚も撮り、満足だった。 
 だが、ホテルの部屋に戻り、ビールで寛ぐや、夫の説教が始った。
「何て無鉄砲なんだ!迷子になって、もう会えないかと思ったぞ!売り飛ばされたら、どうするんだ!
長江に浮いてたりして!」
 まだまだ続く夫の説教を聞きながら、私は、ビールと一緒に少しの反省と
「おかげで写真がとれたじゃない」
 という反論を飲みこんだ。
 帰国してから、娘に事の次第を話すと、
「そりゃあ、『何してるの、お父さん』の一言だね、お父さんの心配を怒りに変えたのは。
もっとしおらしく、おろおろしていたら、怒られなかったのに」
 と言われた。
 何を言うか。しおらしいだけで、三十年も夫婦をやってこられた訳がない。何かが起きるや、
対応にバタバタと走り回る主婦がいてこそ、なんとかなってきたのだ。
 あれから、二年。今、夫は、豫園(よえん)の庭に立ち、小首を傾げながらこちらを見ている。
仏壇の前の写真立ての中から。

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いや~、思い返せば、夫婦喧嘩もあれこれやったな~・・。(^^;)
まあ、とにかく、お供えした桃、そちらで召し上がってください・・・。
コメント
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