頭の中で怒号する声に政勝が意識を取戻した時、政勝は自分のしている事に頭を叩かれたよりもひどい痛みを感じた。政勝の胸の中に身体を預けている一穂のその口を啜り、あらぬ事か政勝の手は一穂のまだ幼い陽の物を弄っていたのである。一穂の方はそれを望んでいたかのように、うっとりと政勝に身体の重み全てを預けて政勝にされるままにいたようなのである。『わしは!?な、何を?』政勝の驚愕に気が付きもせず一穂は魂ここに在ら . . . 本文を読む
「それで?」白銅に促がされると、「ああ・・。此度の黒い影。双神じゃろう」「双神?」「わしの推量もあるが、一人は一穂に付いておってもう一人はあの女鬼を食い尽くして新たな生贄を求めて隙を窺っている」「双神というのは?」「この世界の者では無いそうな。仏界にも、神界にも、言わんや。天空界にもあのような者はおらなんだ。と、なると何処ぞから突然生じてきた者か。流れついたか」「な、ならば?喩えて言えば、それはた . . . 本文を読む
伽羅から聞かされた事で澄明に見えて来た物があった。それで直、澄明は残りの二人を集めた。伽羅により波陀羅という女鬼からもたらされた話しをする。と、「双神はおそらく、政勝を使って一穂様とかのとのシャクテイを得ようとしているのだと思われます」「シャクテイ?」不知火は聞き返してきた。が、善嬉は腕を組んだまま黙って澄明の続きを待っていた。「性の根源力・・・気・・と、言って良いかと」思い当たる言葉もなく澄明は . . . 本文を読む
その頃、政勝は自分の取った奇妙な行動が、澄明に言われた一穂の後ろの黒い影に関係があるらしいと、気が付いており、そうでなくとも、白銅と供に首をかしげていた社に一穂が引き寄せられていった事やらとにもかくにも澄明に合って話しをせねばならぬと、帰宅の刻が来るのをじりじりした思いで待っていた。そこに善嬉が廊下を通りすぎて行くのが見えた物だから政勝は慌てて善嬉を追いかけて行った。「待たれよ・・」声を懸けると善 . . . 本文を読む
一方、不知火である。波陀羅の子がいる山科まで足を伸ばす事になるとは夢にも思っていなかった不知火であるが、こうなったら仕方がないのと旅仕度を整えると早速出かけて行った。だが、半日も歩かぬ内に不知火は引き返そうか、そのまま、山科まで行こうか、迷う事になった。と、いうのも、向こうから歩んできた年の頃、二十ぐらいの女子が大きく息をついて傍らの大きな石に持たれかかったのだが、それがかなり辛そうに見えて傍まで . . . 本文を読む
波陀羅は、気配を殺し道沿いにある大きな松の後ろに隠れるとしばらく佇んで、長浜の陰陽師の一人である不知火をやり過ごしていた。前をゆっくりと歩く比佐乃の様子を窺いながら、かつ、比佐乃をつけている事に気取られない様に気を配りながら歩いていた。比佐乃が傍らの石にへたり込んだ時波陀羅も余程声を懸けて力を貸してやろうとしたが、不知火の姿に気が付いて慌てて隠れたのである。波陀羅は伽羅の元を出る時、やはり双神に逢 . . . 本文を読む
夕刻の日の暮れの早さに飽きれながら政勝は退城の時刻となると、辺りを見廻しつつ帰宅の仕度を整えていた。と、櫻井が「早番ですか?冬は早番の方が良い。朝は暗い内から出るのは辛いがやがて明るうなりますが、夕刻はちょっとすぐるともう暗くなる」ここしばらくの遅番に愚痴る様であったが、声を潜めて尋ねて来た。「なんぞ?ありましたか?」「何ぞって?なんじゃ?」「いや・・・九十九善嬉が一穂様に張り付いておられる」「あ . . . 本文を読む
空が白む前に波陀羅は宿屋の二階の小窓より身を擦り抜けさせると外に飛出して行った。路銀なぞ元より持っていないのを承知の上で比佐乃の後を追って宿屋に上がり込んだのであるから波陀羅にとっては致し方ない行動だったのである。朝になって比佐乃が起きて出立する頃になると、宿屋のおかみが尋ねて来た。「娘さんは昨日・・・隣の部屋に泊まった女子を最後に見たのは何時頃でしたか?」「あ、私は食事を戴いてから、すぐに臥せこ . . . 本文を読む
その顔を見ると胸の中から堰きあがってくる物がある。それを押さえた波陀羅であった。これは一樹を好いておる。人に後ろ指を刺されるような己らの睦み合いの中から、一樹への情を育み、一樹の子を得る事を本望と思う妻の心になっておる。それが判ると尚更に比佐乃の境遇が憐れであり、この地に来て初めて呼ばれたであろう、ご新造さんと言う言葉一つに喜びを見出している比佐乃がいじらしくもあった。「ご新造さん?なら、あ、ああ . . . 本文を読む
比佐乃と派陀羅。その二人が椎の木の辺りを通り過ぎると、隠れていた白銅と善嬉は二人が行き越したと伸び上がって確か二人の背を見送った。「酷い様じゃの」と、善嬉が言う。「やはり、澄明の言う様に社は現われませなんだな」「おかしいのお。不知火の言霊が来てしばらくしたら、一穂様に付いておった影が消えてしもうたからこれはてっきり、双神合い並びて、あの女子を迎えに出るかと思うたのにのお」善嬉は何度も首を傾げていた . . . 本文を読む
比佐乃がめぼしい宿を見つけて泊まれる事が適うと、波陀羅は名残惜しくもあったが、比佐乃に別れを告げると衣居山の伽羅の元に急いだ。
伽羅の棲家を覗いてみても、伽羅の姿は見えず途方にくれて居ると、木々が揺らめく気配がして伽羅が波陀羅の前に降り立った。「おお・・波陀羅。何処にいっておったに・・・ああ・・早う・・は、入れ」波陀羅の無事な姿を見ると伽羅は肩を押して中に招じ入れた。「勢が乳が張っていかんと言う . . . 本文を読む
双神の社の中では、旅の疲れに身体を投げ出し寝入っている一樹の姿があった。その横でその寝顔を覗きこんでいたなみづちがであったが、いなづちを振り返った。「いなづち・・・もう・・堪らぬに。なんとかしてくれねば」なみづちにぐずぐずと文句を言われるまでもない。いなづちとて焦っているのである。「いなづちは良いわの。波陀羅がシャクテイを送りつけてきおるに・・・我には何もない」「そうは言うても、快楽の高みだけのシ . . . 本文を読む
同じ頃、不知火は陰陽師藤原永常を尋ねていた。「長浜!?長浜からいらせられた?」「その通りです」「な・・・何がありました!?見れば、貴方も陰陽師?」「ご推察の通りです」まじまじと不知火を穴の開くほど見詰めていたが、やがて「玄武・・・・を護られておる?」と尋ねて来た。「不知火と言います。賀刈陽道という陰陽師に纏わる事を知りたく思いましてな」やっと不知火が切り出せば永常は途端に顔を曇らせた。「御話しを伺 . . . 本文を読む
宿に居続けている比佐乃も途方に暮れている。次の朝にもう一度、森羅山の社に行こうと思って宿の者に尋ねると「森羅山には社は無い」足下に返事が返って来るだけでなく、うろのある椎の木の事は確かに聞いた事があるがそんな事より森羅山に入る事自体がとんでもない事だ。お止めなさいと宿の亭主からおかみ、はてには番頭、手代まで顔を並べて言うのである。「なんともありませなんだ」比佐乃が昨日、夕刻遅くに森羅山の中に入って . . . 本文を読む
澄明は、神楽着の部屋で伽羅を前にして座っていた。朝早く人目を避けてやって来た伽羅に聞かされた内容に澄明は瞳を伏せていた。「あれが、双神に逢う為に何をするか判っておいでですよね?」涙が零れそうなのを堪える伽羅の顔はくしゃくしゃになっていた。「すまぬ。伽羅」澄明が己の力の無い事を伽羅に詫びているのである。「いんやあ。御前様のせいでないに。我も我のせいではなかろうに、どうにも哀しゅうて。これをみてくれや . . . 本文を読む