憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

邪宗の双神・26   白蛇抄第6話

2022-12-22 11:16:38 | 邪宗の双神   白蛇抄第6話

比佐乃がめぼしい宿を見つけて泊まれる事が適うと、
波陀羅は名残惜しくもあったが、比佐乃に別れを告げると衣居山の伽羅の元に急いだ。

伽羅の棲家を覗いてみても、伽羅の姿は見えず途方にくれて居ると、
木々が揺らめく気配がして伽羅が波陀羅の前に降り立った。
「おお・・波陀羅。何処にいっておったに・・・ああ・・早う・・は、入れ」
波陀羅の無事な姿を見ると伽羅は肩を押して中に招じ入れた。
「勢が乳が張っていかんと言うに搾ってしまえというても、
早苗が飲む分じゃにいかんというて、
堪えよるに叱りつけて宥めて大騒ぎをしておった」
留守のわけを説明しながら、
「波陀羅。囲炉裏の火を大きくしてくれるか?
鍋に昼の残り物があるにそれでよければ暖めて食おうぞ」
波陀羅への心遣いを見せる伽羅に波陀羅も頭を垂れるしかない。
部屋の隅につんである薪を取りに行く伽羅に言われた通り、
波陀羅が囲炉裏の灰に埋めてある炭の火を確かめ
火箸で引っ張りだして粗朶とから消しを継ぎ足してやった。
伽羅がそれに薪の乾いたのを拠って継ぎ入れてゆく。
「生木はいこりにくいが・・・火はようもつ。
乾いた木はいこりやすいがすぐに灰になる。
何ぞ、人の生き方の様にも思えるの」
つぶやいて、伽羅のほうから切り出して行った。
「波陀羅なんぞあったんじゃろう?言うてみや」
伽羅の言葉を待っていたわけではないが
波陀羅は伽羅に頼める筋でもない事をどうに切り出せば良いか迷っていたのである。
「あ、、ああ。どうにしたら良いか。じゃが頼みたいことがあるに頼める筋でないに」
「筋じゃろうが筋じゃなかろうが頼れる相手と思うて来てみたのではないのかや?」
「ああ・・・まあ・・・そうじゃ」
「ならば、言うてみや」
「それがの・・・比佐乃が家を出て来ておるに」
波陀羅の話しではまだ腹の子は三月にも成らぬ筈である。
腹の目立たぬ内に家離れをするにしても、
こんな所まで来なくても良さそうなものではないか、
ましてや、ここが双神の本拠地でもあれば、
わざわざ懐に飛び込むような真似なのである。
訝しげに伽羅は波陀羅を見詰めていた。
「御前が呼んだかや?」
波陀羅は、慌てて首を振った。
「一樹が双神に呼ばれたのを追いかけてきおったんじゃ。
一樹は独鈷の替わりに使われるに決っておるに、
比佐乃がいくら待っても帰ってはこん。
帰って来るのは、比佐乃が身二つになって
再びシャクテイを送れる身体になった時じゃろう」
「あざとい事をしよるものじゃのう」
「独鈷の替わりなぞいくらでもおろうに、なんで、一樹を・・・」
「で?」
なってしまった事をいうても詮無い事であらば伽羅も先を促がした。
「比佐乃は取合えず城下の宿に逗留するつもりじゃろうが、
一樹が帰ってこねば、あれは何処で産をなせばよいか。
帰る当所も無いに路頭に迷ってしまう」
「うん」
「それで、頼みなのじゃ。とにかくに産をなさせてやれる場所をどうにかしてやりたい。金もないに宿に居るのもそう長くおれまい」
「ここにでもくるかの?」
波陀羅は無念そうに首を振った。
「あれは、鬼を憎んでおる。
ここでは、我等が身を移し変えたとしても鬼が棲家という事は一目瞭然じゃ」
「何ぞ、良い案があるかや?澄明に言うてやろうか?」
「澄明になんと?」
「身二つになるまで、面倒を見てやってくれ・・・と、それで事足りる」
「そうなのか?」
「ああ」
「じゃが、どうじゃろう?
陰陽師の所などに身を寄せて、
双神がどう思い、どう動くじゃろう・・・邪魔立てしてこぬだろうか?」
「波陀羅。それも話してあるに。澄明が事じゃ。
何もかも考えてくるるに決っておる。
仮に陰陽師が所行かぬなら、何処ぞよい当てを作ってくるるわ」
「そうか・・・。それに頼るしかないか・・と、ならば、もう一つ頼みがあるに」
「もののついでじゃに、我にできる事ならなんでもしてやるわ」
波陀羅は伽羅の言葉にほっと安堵の顔を見せると
「比佐乃の産の助きをしてやってほしいのじゃ」
「何を言いおる。お前がゆけば良かろう?」
「いや・・・出来ぬ訳がある」
「なんぞ?」
だが、伽羅の問いに波陀羅は答え様としない。
「言わぬなら・・・何もかも知らぬぞ」
伽羅の脅かしにあうとさすがに波陀羅も観念した。
「言うが・・・引き受けてくるるな?」
「波陀羅、それは卑怯ぞ。
御前のいい草だと、
わけを聞けば我が断わりたくなるような理由だという事ではないか」
「・・・・」
「言わぬのか?」
「どうすれば良い。言えば断わられるのか?言わぬとも断わられるのか?
ならば・・・良い。我が御前に甘えたがいけなんだ」
伽羅はため息を付いた。
「波陀羅。厭なやり口じゃの。
御前は我の性分を知っておってからに、そういう事を言う」
「なれど・・・・」
蕭然とする波陀羅に伽羅も折れるしかなかった。
「判った。約束するに・・・理由を話せ」
「止めぬな?」
「止めたらやめるのか!?やめる気のような事で我を代わりにする気か?」
伽羅の激になりかねない興奮は
何処かでそんな安易な波陀羅の訳であって欲しいという思いが
伽羅の中から前のめりになって出て来ていたせいである。
「伽羅、すまぬ。我は双神が所に行って一樹と比佐乃の身の保証を立てたいに。
あれらを元に戻せるのも、あれらをああした双神ならばできるだろう・・・」
「出きるのか!?確かにできるのか?」
伽羅の声が涙に詰まってきていた。
その声は伽羅が何に不安に感じているのか、
波陀羅が何を覚悟しているのかを知っていた。
「伽羅。御前のいう澄明でもそれはできまい?
判らぬ事じゃが、双神にそれができるかも知れぬならそれにかけてみるしかないに。
それをどうにもしてやれず、いくら傍におってやっても我には辛いだけじゃに」
「波陀羅・・・・」
「伽羅。なんの礼もできん。澄明にも・・・同じじゃ」
「波陀羅。そんなものいらん。
我は御前が幸せであってくれれば、
にこやかに笑ろうてくれておりさえすれば良かったに。
邪鬼のした事が御前をここまで不幸にしたかと思うと
我はどう・・・詫びたらよい・・・」
「伽羅。忘れてくれ。の!?忘れてくれ。
我とて同じじゃ。御前にどう詫ぶればよいに・・・」
顔を伏せていた伽羅であったが気を取り直すかのように
「波陀羅。なんにせよ、今は腹が減った。
食う物を食わぬとが尚気が暗うなる。そこの鍋を暖めようぞ」
伽羅に言われて波陀羅も傍らの敷き藁の上に置いてある鍋を掴むと
五徳の上に置いた。
「伽羅・・・。御前が邪鬼丸に愛されておったのはそのような所じゃの」
「なんじゃあ?」
「いや、いつかの。伽羅は陽気な性の所が良いというておったに、ほんに・・・」
「阿呆、陽気でおらねば、不遇の方から寄って来るんじゃに。
の?波陀羅・・・そうは思わぬか?」
「ならば、我は元々は不幸な女子でなかったやもしれぬの。
比ぶて御前のほうがそんなに陽気な女子じゃに・・・。
この程度の幸ぶりではおかしいの?」
「あははは。お前の言う様に、元々我の方が余程不幸な女子じゃったかもしれん」
二人が肩を軽く揺すりながら笑う頃には
早くも火の勢いに鍋の中から美味そうな匂いと伴に湯気が湧き上がって来ていた。黙々と二人が椀に注いでは鍋の中の物を食べ終わる頃には、
囲炉裏の火と身体の中の供物の温みとですっかり身体も温まっていた。
「伽羅。馳走にまでなって、礼を言うだけしかないに。もう・・・行くわ」
「え?」
「達者でな」
「は、、波陀羅。まて。せめて、朝までここで身体を休めて・・・波陀羅」
波陀羅は振り返るとにこりと笑って見せた。
「御前にそうにまで大事に思うてもろうて我は幸せじゃに。
なれど、このままいたら、御前は我が寝入るのを待って澄明が所に駆け込もう?
それでは困るに・・・」
伽羅の目論見はあっさりと見抜かれておったのである。
「御前がそれ程に信を置いておる澄明なら、比佐乃の事、よう見てくれよう」
伽羅に止められるのが辛かったのか、
そう言い残すと波陀羅は伽羅の温かな棲家から
夜寒の空の下に一気に飛び退って行った。
「止められなんだ・・・・澄明が、怒るじゃろうの」
深いため息を付く伽羅には
澄明の怒る顔より悲し気な顔が頭に浮かんで来てならなかった。



最新の画像もっと見る

コメントを投稿