憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

ロビンの瞳・・5(萩尾望都 ポーの一族より)

2022-12-12 13:11:44 | ロビンの瞳(ポーの一族より)

図書室の中の痴話沙汰が結論するまで、アランは出窓に座って時間がすぎるのを待つしかなかった。
もしかすると、ジャニスの行動次第では、此処もそうそうにたびだたなきゃならなくなるかもしれない。

-王様気分で、城下を眺められる最後になるかもしれないー
陽光は明るく、陰湿で暗い、駆け引きに興じている図書室の二人には、遠い世界だろうと思えた。

出窓に座ったまま、アランはあふれてくる涙をぬぐった。

ー茶番でしかないー

メリーベルを護りきれなかったエドガーは、その痛みにたえられないだけ。

つかのま、幼いロビンに慕われたあの夏が、エドガーに痛みをわすれさせただけ。

もう、ロビンは僕らを必要としていない。

容赦なくつきつけてくる現実をうけとめることで、

エドガーは再び、メリーベルを亡くした痛みごと、妹を胸に住まわせる。

メリーベルが生きていた記憶はエドガーにしかない。

わずかながら、僕がエドガーの痛みを共有した。

ロビンを懐かしい夏の風景にかえるか、

ロビンもまた、寂しいのなら・・・

一緒に行こうとしていたかもしれない。

でも、ロビンからの決断をしらされることはなかった。

僕たちを呼んだまま、ロビンは空に落ちた。

結末のない物語が、僕たちに残った。

 

メリーベルもロビンももう、とりかえすことのできないはざまにすみ、

忘れられない思いと

忘れてしまいたい苦しみを

エドガーに残した。

 

二人を胸の中にすまわせるしかない苦しさをエドガーは茶番でごまかしていく。

 

ージャニスになにが、わかるというんだー

わがままで、てのかかる存在に気をとられることで、苦しみと悲しみを意識しないでおけるなんて、わずかの間でしかない。

ーその証が僕だろう?-

 

ーエドガー。君の茶番のために、人を人でなくさせる・・なんて、まちがっているんだー

だけど、エドガーはアランのいうことなどきこうとしない。

ーせめても、運命共同体・・。罪深き咎だけでも、君と共有してやる。

それが、僕にできる唯一のこ・・・・ん?-

腕でぬぐった涙のすきまから、とび色の髪の毛がみえたきがする。

屋敷の中をうかがう少年の姿を注視したアランは、あわてて、窓をとびおり、エドガーのいる図書室にむかおうとした。

 

ーキリアンだー

銀の銃をもってるにちがいない。

マチアスの復讐のため、キリアンは二人を撃ち抜くつもりにちがいなかった。

 

アランは出来るだけ、静かに出窓から、床におりた。

耳はキリアンの侵入経路をさぐり、針一本の音さえききのがすまいとしていた。

ガチャンと、小さなガラスを割る音がきこえた。

一階の窓を割り、キリアンが家の中にはいってくる。

エドガーは、きがつかないのだろうか?

ーふっー

虜を捕える遊戯に埋没しているんだろう。

エドガーはその瞬間に決断する。

仲間に引き入れるか、獲物にするか・・。

だけど、エドガーの選択がどちらになるか、

エドガー自身、みきわめることはできないだろう。

出窓のある部屋から、書庫のある2階へ降り立ったアランは、さらにキリアンに神経を集中させながら、書庫をめざした。

ー天秤をあやつるのは、君じゃなくて、キリアンのようだー

書庫の扉にへばりついて、アランは、小さな声で、エドガーを呼んだ。

ーエドガー・・キリアン・・がー

アランの小さな声にエドガーはきがつかず、かわりにキリアンこそがきがついていた。

廊下の角から、銀の銃をかまえたキリアンのその銃口がまちがいなくアランをとらえてると判った時、アランの背におびただしい冷たい汗がふきだしていた。

銃口をアランにむけながら、キリアンが、近寄ってきた。

「奴は・・この中か」

アランの答えがアランに激痛になってかえってくることを予想しながら、アランは答えた。

「奴って?」

予想たがったのは激痛が弾痕によるものでなかったことだろう。

だが、弾痕であるのなら、激痛とともに、すでに消滅している。

思い切り腹をなぐられながら、アランは笑っていた。

「何故、笑う?」

「なんで、僕をうちぬかないんだろうってね。臆病風にふかれたのかとおもってさ」

ふふんとキリアンは鼻で笑ってみせた。

「それよりも、何故、お前がエドガーに助けをもとめないんだろうね?殴られても叫び声ひとつあげようとせず、今も妙に声をひそめている。エドガーだけ、逃がしてやろうとのおはからいかい?お前をうちぬかないから、それができるとでも?」

「むしろ、逆だろう?キリアン。僕を撃ちぬいたら、その物音で、エドガーが逃げてしまう・・」

キリアンは改めて銀の銃をアランにむけなおした。

「ご推察どおり。だけど、エドガーが、おまえをむざむざ、消滅させはすまい?」

ーつまり、キリアンは、エドガーをおびきだすための囮として、僕をとらまえたということだー

「どうだかね。僕の代わりはいくらでもいるようだし、僕と一緒に撃ち抜かれてしまうリスクをおってまで、僕を助けようとはしないだろう」

「そうやって、おまえを打ち抜かせて、そして、エドガーをにがしてやろうというその忠実な僕ぶりには、敬意を表するよ」

アランの科白はエドガーをにがすために、アランを射抜けといっているにすぎないと、キリアンはせせら笑った。

「いや、嘘じゃないよ。キリアン。君が僕を囮にするつもりで、僕をとらまえているけど、エドガーは今、マチアスの代わりをてにいれようとしてる」

マチアスの名前にキリアンのこめかみがびくりと波打った。

それも、アランの計算どおりのキリアンの反応でしかなかった。

 



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