「今?マチアスの代わり?どういうことだ!!」
「さあね。君の目で確かめればいいさ。君が今、僕を打ち抜いたら間違いなく、ジャニスはヴァンパイアにひきこまれる。マチアスの代わりどころか、僕さえいなくなるんだからね・・。キリアン、君のせいで、ジャニスがマチアスのように昏睡し、君はまた、マチアスよろしく、ジャニスも殺すんだね」
キリアンはアランの言葉が真実であるか、どうかをみきわめるかのように、口を閉ざし、耳をすませた。
ドアに耳をおしあてながら、銃口はアランを捕らえている。
キリアンはドアを離れると、アランに近寄っていった。
アランの手首を後ろ手にねじりあげると、銃を背中におしあてた。
「どうしても、エドガーと一緒に撃ちたいって?」
鼻先にまで、あがってくる笑いをこらえながら、
アランはできるだけ神妙なそぶりをつくろってはいた。
キリアンを刺激すれば、血が登った頭はアランを先に打ち抜く命令を発するかもしれない。
「時間かせぎ・・だな」
書庫の中からは、物音がきこえなかった。
アランの異変を察したエドガーが書庫の中からキリアンをうかがっているのかもしれない。
「そう?ジャニスはさぞかし羞恥をこらえてるってことじゃないだろうかね?」
今度ははっきりとくくっと笑いを口にのせた。
怪訝で、かつ、疑いにまどうキリアンの瞳がアランの笑いをとがめた。
「マチアスも声ひとつ、あげやしなかったさ」
途端、キリアンの瞳が怒りに大きくゆれ、アランの手はひどくねじあげられた。
「君のいうとおり、時間稼ぎさ。その間にジャニスがエドガーの手におちる」
手首の痛みをこらえながら、アランは皮肉な笑いをうかべつづけていた。
「キリアン。君はわざわざ、罠にはまりにきたんだ。マチアスだけで、あきらめておけばよかったものを、僕らを打ち抜こうなんて、ばかげた企てのせいで、君は罠に自らはまる結果になる」
「なんだと?」
「だって、そうじゃないか。君はロビンを逝かせ、マチアスも散らせた。恨んでいるのはむしろ僕らのほうさ。だから、君の復讐劇のせいで、ジャニスをも、てにいれられないのなら、エドガーがジャニスを無傷のまま放すわけがない。僕らから、ジャニスを奪うのが、君でなければ、僕らも諦めたかもしれない。だけど、ねえ、キリアン。
これは、千歳一隅のチャンスになってしまったんだ」
「チャンス?」
「そうさ。ジャニスはロビンとマチアスの復讐にうってつけの主人公にかわってしまったんだ。
君のせいで、ジャニスは人でないものにかわり、君は、第三の殺人を冒す。
君の青くさい正義感のせいで、ジャニスを殺し、君はその罪にもがき、
その苦しさからのがれるために、僕らのせいにする。
だけど、すべて、そうさ。すべて、君の青くさい正義感とおせっかいが原因でしかないんだ」
「いう事はそれだけか?」
「ねえ、キリアン。僕らが、人でないものだから、その存在を許せないのなら、まず、その正義を君にむけるべきじゃないか?あれから、何ヶ月たったのかおぼえちゃないけど、あいかわらず、君は心ばかりじゃなく、身体も成長しちゃいない」
キリアンの手がさらにアランの手をねじりあげていたが、
アランの背中越しにぼそぼそとキリアンの声がきこえてきていた。
「わかっているさ。だけど、僕が消失しても、第2、第3の僕やマチアスが現れるのなら、元凶をたつしかないだろう?それがすんだら、僕は自分の罪を清算するさ」
アランの手がふいに鋭く痛みをかんじると、それは、キリアンにおもいきりひっぱられたせいだとわかった。
アランを盾にキリアンは書庫のドアをあけた。
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