憂生’s/白蛇

あれやこれやと・・・

ロビンの瞳・・2(萩尾望都 ポーの一族より)

2022-12-12 13:12:34 | ロビンの瞳(ポーの一族より)

現れない彼が読んでいた本を探しジャニスは、ページをめくった。

彼が何をよんでいたかという興味もあった。

彼が感じただろう感覚を共有したかった。

彼を没頭させるだけの内容がジャニスを虜にした。

いつのまにか、物語にひきこまれ、ジャニスの腕は中世の甲冑の騎士につかまれた。

「この前の本はもうよみおえたの?」

あっ。ジャニスは息をのむ。

中世の騎士は青い瞳でジャニスをのぞきこんでいた。

「ご・・ごめん。君は・・まだ、途中だったよね」

あわてて、本を閉じ、転校生にさしだすしかなくなったジャニスに、彼は笑いかけた。

「エドガーでいいよ」

それは、君といったことにたいしての返事でしかない。

「あ・・あの、ご免。これ・・」

本をもう一度、エドガーにさしだす。

「かまわないよ。僕は本を読みに来ていたわけじゃないから」

じゃあ、エドガーはなにをしに、ここにきていたんだろう?

ジャニスの不思議な顔にエドガーがもう一度わらいかけた。

「君に逢いに・・・」

「え?」

「だから、君が読んでいた本も覚えてる」

はからずも、ジャニスの思いそのままを鏡にうつしたエドガーの言葉にジャニスがうろたえた。

ジャニスのうろたえぶりが見事すぎたのだろうか?

エドガーはくすくすと、笑い出した。

「嘘だよ。従兄弟から離れたかったんだ。一日中一緒にいるから、たまには、ひとりでいたかったんだ」

じゃあ、なおさら、この本をかえさなきゃとジャニスは想った。

「ごめん。あの、これ・・だから・・その・・」

再び押し出された本にエドガーは首を振った。

「家にもあるんだ。それが、一番おもしろいから、ここでもよんだだけ。

それに、僕のものじゃないんだから・・」

従兄弟とすんでるっていってた。と、ジャニスはかんがえなおしていた。

それに一日中って、いってた。

と、いうことは、この学校にも一緒にいるってことになるのだろうか?

「従兄弟は本が嫌いみたいでね。多分、僕が話しかけられても応えなくなるせいだと思う。

家の本棚の鍵をかくしてしまったこともあった・・・」

ジャニスの目が大きく開いた。

「本棚の鍵?」

「うん」

こともなげに答えているエドガーだったが、ジャニスの瞳が輝いている。

「すごいや。本棚に鍵?本棚に鍵があるなんて、市立図書館の持ち出し禁止の本が入った本棚くらいだ。いったい、どんな本が、何冊?」

嬉々と語りかけるジャニスにエドガーは尋ねてみた。

「10000以上あるとおもう。読みに来る?」

あ、と迷った声が漏れたが即座にジャニス自身がその声をけしさった。

「いく。ぜったい、いく。かまわないのかい?

あの・・・従兄弟の人・・怒らない?」

いぶかしげな顔がジャニスの前にある。

「あ、だって、君が本を読んでいると怒るんだろ?僕が君を尋ねたら・・その・・

本みたいに・・あの・・」

「返事をしなくなって、従兄弟がまた、怒るって?」

エドガーがジャニスの髪をくちゃりとなぜた。

「心配性だね・・君のいいところだけど」

チャイムがなり、エドガーがジャニスにバイと手で合図して、

「待ってるよ」と、言い残すと図書室を先にでていった。

残されたジャニスの胸が妙にたかなっているのは、新しい本にあえる期待のせいだといいきかせると、ジャニスも席をたった。



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