現れない彼が読んでいた本を探しジャニスは、ページをめくった。
彼が何をよんでいたかという興味もあった。
彼が感じただろう感覚を共有したかった。
彼を没頭させるだけの内容がジャニスを虜にした。
いつのまにか、物語にひきこまれ、ジャニスの腕は中世の甲冑の騎士につかまれた。
「この前の本はもうよみおえたの?」
あっ。ジャニスは息をのむ。
中世の騎士は青い瞳でジャニスをのぞきこんでいた。
「ご・・ごめん。君は・・まだ、途中だったよね」
あわてて、本を閉じ、転校生にさしだすしかなくなったジャニスに、彼は笑いかけた。
「エドガーでいいよ」
それは、君といったことにたいしての返事でしかない。
「あ・・あの、ご免。これ・・」
本をもう一度、エドガーにさしだす。
「かまわないよ。僕は本を読みに来ていたわけじゃないから」
じゃあ、エドガーはなにをしに、ここにきていたんだろう?
ジャニスの不思議な顔にエドガーがもう一度わらいかけた。
「君に逢いに・・・」
「え?」
「だから、君が読んでいた本も覚えてる」
はからずも、ジャニスの思いそのままを鏡にうつしたエドガーの言葉にジャニスがうろたえた。
ジャニスのうろたえぶりが見事すぎたのだろうか?
エドガーはくすくすと、笑い出した。
「嘘だよ。従兄弟から離れたかったんだ。一日中一緒にいるから、たまには、ひとりでいたかったんだ」
じゃあ、なおさら、この本をかえさなきゃとジャニスは想った。
「ごめん。あの、これ・・だから・・その・・」
再び押し出された本にエドガーは首を振った。
「家にもあるんだ。それが、一番おもしろいから、ここでもよんだだけ。
それに、僕のものじゃないんだから・・」
従兄弟とすんでるっていってた。と、ジャニスはかんがえなおしていた。
それに一日中って、いってた。
と、いうことは、この学校にも一緒にいるってことになるのだろうか?
「従兄弟は本が嫌いみたいでね。多分、僕が話しかけられても応えなくなるせいだと思う。
家の本棚の鍵をかくしてしまったこともあった・・・」
ジャニスの目が大きく開いた。
「本棚の鍵?」
「うん」
こともなげに答えているエドガーだったが、ジャニスの瞳が輝いている。
「すごいや。本棚に鍵?本棚に鍵があるなんて、市立図書館の持ち出し禁止の本が入った本棚くらいだ。いったい、どんな本が、何冊?」
嬉々と語りかけるジャニスにエドガーは尋ねてみた。
「10000以上あるとおもう。読みに来る?」
あ、と迷った声が漏れたが即座にジャニス自身がその声をけしさった。
「いく。ぜったい、いく。かまわないのかい?
あの・・・従兄弟の人・・怒らない?」
いぶかしげな顔がジャニスの前にある。
「あ、だって、君が本を読んでいると怒るんだろ?僕が君を尋ねたら・・その・・
本みたいに・・あの・・」
「返事をしなくなって、従兄弟がまた、怒るって?」
エドガーがジャニスの髪をくちゃりとなぜた。
「心配性だね・・君のいいところだけど」
チャイムがなり、エドガーがジャニスにバイと手で合図して、
「待ってるよ」と、言い残すと図書室を先にでていった。
残されたジャニスの胸が妙にたかなっているのは、新しい本にあえる期待のせいだといいきかせると、ジャニスも席をたった。
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