「3年っていうだろ・・」
やってきたハロルドはボーマンの顔をみるなりそういう。
ボーマンはじろりとにらみすえると本音のままを口に出す。
「俺はおまえが嫌いなんだ。
なにが、一番、嫌いかっていったら、そういうジンクスを引っ張り出してきて
そいつのせいにするってとこだ。
ていのいい、言い訳で自分を慰めてるような男はくずだ」
「おいおい、ひさしぶりにたずねてきたっていうのに、いきなりそれかよ?」
ボーマンのつっけんどんはいつものこと、馴れてはいるが
あっさり、ボーマンに話そうと思っていたことを
みぬかれてしまい、ご丁寧に出鼻をくじかれると
ハロルドも話の糸口をつかめなくなる。
「で、なんだよ?そのジンクスがあたっていたって、俺にわざわざ、報告しにきただけじゃないだろう?」
そう、口ではしっちゃかめっちゃかにいわれるけど、
ボーマンはハロルドの良き友人なのだ。
「うん・・」
「なんだよ?結局、お前の常套手段かよ?
話をふっておいて、聞いてもらえそうにないと思うと
そうやって、俺の出方をまって、あげく、さも訳ありをよそおって、
俺の気をひこうって、そういうのも、嫌いだってなんどもいってるじゃねえかよ」
ボーマンのいうとおりだ。
相手の出方を待って、気をひく言葉をなげつけて、
結局、ずるずるべったりの仲を維持していく。
まさに今から話そうとする、そのままを指摘され
またも、ハロルドは継ぐ言葉をなくしてしまった。
「実はな・・・」
おもむろに口をひらくが、ボーマンの指摘がどこに入ってくるか、わからないハロルドは
言葉を選びかねてしまう。
「実はな?お前はいつも、「実」なんかねえじゃないかよ。
優柔不断つ~のか、
自分が無いっていうのか、よくわからないが
あっちに流されこっちに流され
あげく、ぬきさしならなくなって、俺のところに泣きつきに来る。
そんな人間の「実」なんかはな・・・・」
遠慮会釈無いボーマンの攻撃はハロルドにとって事実でありすぎる。
「そうだよ。俺もいい加減。
流されまくってる自分にけりをつけようと思ってさ」
言葉を途中で止めたボーマンだったけど、
今までとすこし、様子が違うハロルドの科白で、
やっと、ハロルドの話を聞く気になったようだった。
「俺さ・・・リサと別れようと思うんだ」
「はあ?」
リサは3年前にハロルドと結婚した。ハロルドの妻ということになる。
「やっぱりな・・。3年なんてジンクスをもちだしてきたときから、
そういう話じゃないかと思っていたよ。
で、それが、どういうわけで、
ながされっぱなしのお前のけりになるんだよ?」
「うん・・・。そこが・・・実はのところでさ・・・。
俺、ケイトって、女とやり直そうとおもってるんだよ」
「はあああああああ?」
ボーマンは呆れた。
結局、こいつの本質はちっとも、変わっていない。
ひとつの「事柄」がうまくいかないと、
さっさと逃げをきめる。
ただ、逃げ場所が無いと逃げることが出来ないから、
逃げ場所を確保する。
まあ、病的といってしまえばそれまでだが、
けっきょくのところ、ガキの思考でしかない。
そして、問題は、逃げ場所の選択指数だ。
ひとつのことがうまくいかなかったその部分を補うところへ逃げる。
仮にひとつの「事柄」がハロルドにとって、100のうち99をみたしていたとしても、
たった1つの不足を補おうとする。
その1つを充たしている「事柄」が逆に100のうちの50を充たすものごとでしかなくても、
ひとつの不足を100と捉えるハロルドがいる。
この結果、一時の充足感ののち、またも、充たされない50を追い求め
逃げ場所を確保する。
この繰り返しが
「流されるハロルド」だということを、
ハロルドはいっさい、認識していない。
そのハロルドがリサと結婚すると聞いたとき
一抹の不安をかんじながらも、
リサの愛情の深さを信じることにしたのが、ボーマンである。
だから、ハロルドがまたも、逃げをかましはじめたのは、いつものことで
さして、驚くことではないが
問題は「リサ」への不足を言えるハロルドであるかどうかということ。
そして、新たな「第二のリサ」こと「ケイト」が
どこまで、ハロルドを理解しているか。
「ケイト」なる人間に因果を含めてハロルドとの縁をきらせたほうが早いだろうが、
もっと、大きな問題は
ハロルドとリサの修復であり、
そのためには、ハロルドがもつ、歪をどうするかということになる。
これを正すことができないのなら、
ハロルドは誰と一緒になっても、同じことの繰り返しになる。
『まず・・は・・・』
ボーマンは遠回りを選んだ。
「そのケイトって女はどんな女なんだよ?
お前がリサと別れてもよいと思うくらいの女なんだから、
俺はおまえにとって、かけがえのない女性なんだと思うよ」
ボーマンの賛同に気を許し、ハロルドはケイトのことをしゃべり始めた。
「実はな・・・いいにくいことなんだけど・・」
どうせろくでもない内容でしかないのは、ボーマンだって判っている。
ただ、どういう風にろくでもないかは、きいてみなきゃ判らないことだ。
「なんだよ?リサと別れちまうってこと、お前の踏ん切りがついてるんだろ?
だったら、この先ケイトとやっていくためにも、なにか、話そうとしてるんじゃないのか?それだったら、言いにくいくらいで、臆してるようじゃ・・」
ボーマンの言葉を途中で、制すと、
「あ・ああ・・いや、うん。そうだな。そうだよ。判ってるよ・・」
判ったといいながら、ためらい勝ちになるハロルドである。
「ふうう・・」
ひとつ、大きなため息をつく。
「あのな・・・」
ボーマンの顔色を伺うハロルドにいくばくか、かげりが浮かぶ。
「なんだよ?」
「う・・ん・・お前がさ・・がっかりするんじゃないかと思って・・」
とっくにがっかりしてる。そういってやりたい口をなだめすかして
ボーマンはハロルドを促す。
「この先のことと、俺と。俺ががっかりするほうのことが、大事なくらいな女だっておもっちまうぜ?」
ぽりぽりっと頭をかきあげると、ハロルドの決心が固まったようである。
「あのさ、ケイトと俺・・もう、4年越しなんだ・・・」
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