「なんだって?もっと、おおきな声でしゃべれよ。
まあ、おまえら、長かったから、愁嘆場になりゃしねえかと
心配してたんだけどさ。
ちっと、あっけなさすぎたけどさ、
まあ、良かったよな。
なあ、ハロルド。
これで、ケイトも納得してくれるんじゃねえかな?
早く帰って、ご機嫌なおしてもらえよ・・」
ボーマンのくったくないエールは今のハロルドには
あまりにも、痛かった。
「ボーマン・・・」
一言つぶやいたかと思ったらハロルドは
テーブルにつっぷして、大声で泣き始めた。
「俺は・・ばかだよう・・・」
そうそう、その通り。そこを自覚してもらわなきゃはじまんねえ。
「なにもかもなくしてから・・きがつく・おおばかだ・・」
やっと、本当のことをもらしやがったな。
ボーマンはハロルドの頭の上から声をかけた。
「いいかげん。見栄をはってないで、さらけだしちまったら・・どうだよ?」
晒すってことは、自分を見つめなおせる。
その馬鹿さ加減をこそこそかくしているうちは
見栄が大事な自分をだいて、生きてくつまんねえ人生になっちまう。
「ケイトと破綻したんだろ?
そこのところ、話しちまえ」
いかに自分がおめでたいあほうだったか、
自分につきつけるために晒す。
みっともない自分、大馬鹿な自分っていうハードルをのりこえるための
大事な作業だ。
「ば・・ばれてたんだ・・」
「いいから・・話しちまえ」
ハロルドはかんねんした。
いまさら、隠してもしかたがない、
ばかであほうな自分をさらけだそうってきめたのは、
なんだか、懺悔にちかい気持ちからだったかもしれない。
ーお前・・不思議な男だよな・・
まるで聖ボーマンだな・・・-
懺悔ですこしは、自分のおろかさが拭われる。
ボーマンにすがる思いで、ハロルドは話し始めた。
情けない。
みっともない。
みじめだ。
だけど、おもいきり、それをほったくっちまわなきゃ、
このまま、自分がつぶれる。
ハロルドはごそごそと顔をあげると、
目の前のビールをくいってあおった。
「ケイトのところにころがりこんで、
2、3日はなにもいわずにいたんだ。
まだ、離婚手続きすんでないだろうしっておもったのもあるよ。
どうせ、リサは離婚しようがすまいが、俺を待ってるだろうってのもあったよ。
俺は俺で、ケイトにプロポーズするタイミングを見計らっていた。
仕事から帰ってきていきなりってのもいやだし、
休みの日にさ、ちょっと、でかけて、
その帰りにゴージャスなレストランで乾杯をしゃれこんで、
話をしようとおもったんだ」
まあ、ここの話を聞く以上はハロルドもそれなりに
女性に対して、細やかな気配りをするもんだと思う。
「で?」
「うん。で、上等のワインを頼んで、乾杯ってさ・・。
軽く触れたグラスもクイーンって、上質な音をたてて、
俺はいまだって思って、
買っておいたリングをケイトの前におしだしたんだ」
なかなか、洒落た演出をしたわけだ。
「ケイトはなに?って、そのときに俺は気がつくべきだった。
ひどく、戸惑った顔をしていたんだ。
なのに、何?って、不思議に思っただけだと思っていたよ。
あけてみろよ、って、いったら、ケイトはゆっくり箱を開いて
リングをみつめてた」
「・・・・・」
「しばらくしたら、もらえないわって答えたんだ。
プレゼントだと思ったんじゃないかっておもってさ、
俺と一緒になってくれないか・・って、そういう・・意味だっていったら・・」
「なにも答えなかったんだな?」
「ああ・・ずっと、家にかえっても、なにもいわないから、
時期が早かったかなって?
説明不足だったかなって、
リサと別れたことも、もう、離婚書類も提出してるってはなして・・」
そこで、本気じゃない女がどういう態度を取るか、
眼にみえるようで、ボーマンもききたくはなかったし
ハロルドにはなさせるのも、むごいとは思った。
「多分、そうだろうとおもってた。って・・。
奥さんとだめになってころがりこんできたんだろうって思ってたって」
もちろん、ハロルドはそうじゃないと言うだろう。
ケイトと一緒になりたいから、先にけじめをつけてきたんだ。
って、
その言葉にケイトの顔色が喜びに変わる。
そんなに思っていてくれたの?
止まり木じゃなかったんだね?
そして、不安と迷いで受け止めきれなかったプロポーズリングを今度は
ちゃんと、ゆびにはめてくれる・・・・
だけど、ハロルドが描いた想像図は見事に砕け散った。
「冗談やめてよ・・って、箱ごとつっかえされたよ」
ボーマンの胸がずきりといたむ。
ハロルドだって、それなりに真剣に考えてたんだから。
そんな言葉がかえってくるなんておもいもしなかっただろう。
ハロルドのショックがボーマンにまで、つたわってくる。
「冗談じゃない。本気でいってるんだ・・
って、その言葉が決定打だったよ・・」
ケイトはだからこそ、本気でことわるしかなくなってしまったんだ。
「豹変っていうのかな・・ああいうの・・。
だったら、はっきりいうわ・・って、そのあとの言葉が・・・」
よほどくやしかったんだろう。
ハロルドの手が細かく震えてる。
「うぬぼれるのも、いい加減にしてね。
確かに、あんた、いい男よ。
見た目もいいし、金はなれもいいし、やさしいし、
とくに、セックスは最高。
だけど・・・。
あんたとなんか、一緒になるのはごめんよ。
だいたい、あんたみたいな男と一緒になる女がいるだけでも奇跡よね。
だから、あんたの奥さんって、よっぽど、出来た女か馬鹿か
それとも、あんたのセックスだけでつながってる・・・
あたしみたいな女か・・。
どっちにしろ、それでも籍までいれて、一緒に暮らしてくれる女を
大事にできないで、都合のいいところだけで結びついてる女のために
奥さんを捨てちゃう?
目玉も節穴?
そんな男とあたしが、いっしょになる?
そんな、おめでたい女、奥さん以外いるわけないじゃない。
ほかに変えようも無い人をほうりすててきて、おんきせがましく
あたしと一緒になりたい?
そんな、足りない脳みその男と一緒になるなんて、おっそろしくていけないわよ。
それに、あたしもそんな男にしがみついていなきゃいけないほど、
もてないわけじゃないの。
くされ縁と上手さで、ずるずる、つづけてきてたけど、
いい潮時よね。
あんたが、馬鹿な事をいいだしてくれたおかげで、
あたしも、目が覚めたわよ。
そのままだったら、ずるずる、続けていたんだなっておもうしね。
だから、そのプロポーズには、感謝するわ」
そんなふうに、頭の中に焼きついた言葉をハロルドは一言残らず、はきだしおえた。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます