6
次の日の朝、がんちゃんは柿を新聞紙にくるんで
肩掛けのかばんにつっこんでいるようにみえた。
鞄の胴がいくつかのいびつな丸みをなぞらえて異様にふくらんでいた。
最近は学校の帰り道に進駐軍と遭遇することがなくなっていた。
がんちゃんは進駐軍に会えるまで毎日柿を鞄につめてくるのだろうか?
日にちがたったら、熟して、鞄の中でつぶれてしまって
教科書も筆箱も柿の汁でべたべたになってしまうだろう。
考えなしともいえるけど
思い立ったら即実行はがんちゃんらしいともいえる。
その行動の目的がつまらないのも、考えようによっては
わるさをするがんちゃんとなんのかわりもない。
途中から一緒にあるきだしたさっちゃんに
「がんちゃん、柿、もってきてた」
そうつげた。
「やっぱり、やるんだねえ。まあ、じゃなきゃ、黒岩さんのとこに行った意味ないもんね」
「うん」
さっちゃんのいうとおり。
そこまで努力・・努力というのとは違うと思うけど、努力しておいて
黒岩さんに面倒かけて、やっぱやめたじゃ、みているこっちがもっと腹がたつ。
毒をくらわば皿までじゃないけど
私はがんちゃんの行動を最後まで見届けるつもりになっていた。
放課後になると、がんちゃんは学校から一目散にかけだしていった。
もちろん、大きい道で進駐軍が通るのを待つためだ。
すれちがいになってはいけないと大急ぎで走っていく。
「あれくらい、熱心に勉強したら高等学校にだっていけそうなのにねえ」
さっちゃんは含み笑いでがんちゃんを見送り、
「私もみにいこう」
と、宣言した。
「あれ?さっちゃん、進駐軍のこと・・」
こわいんじゃないの?と続けようとした言葉にさっちゃんの意志がかぶさった。
「うん。だけど、まあ、のりかかった船というか」
「ああ」
納得したのはさっちゃんの言い分だけじゃなくて
こういう場合、毒をくらわばというのでなく、乗りかかった船というんだなと思ったからだ。
二人でがんちゃんを探して大きな道の横の土手の小道をめざした。
陽がかげるまで、がんちゃんは大きい道の端で進駐軍をまっていたし
私たちはおしゃべりをよそおって、土手の小道の脇の桜の木の下に座り込んで
がんちゃんをみはっていたけど、
その日、進駐軍はあらわれなかった。
そんなことが三日、続いたあと、がんちゃんはゆっくり走ってくるジープのエンジンの音とジープをおいかけてくる浮浪児の嬌声にきがついた。
とたんにがんちゃんは道の真ん中にとびだして
両手を頭の上まで上げて、おおきくふって
これまた、大きな声で叫びはじめた。
「ストップ!ストップ!」
「ジャスト・モーメント」
「ヘイ!!ストップ」
「プリーズ・ストップ」
「ストップ!!」
ジープだってがんちゃんを轢いてしまうわけにもいかないし
おまけに、英語しゃべってるから、意味がつうじたんだろう。
ジープは手を広げたがんちゃんの前で止まった。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます