陽ざしがかげるとあたりがそろそろ冷たく感じる秋のおわり、私は瞳子と婚約した。
はじめて出会ったときから数えて
半年がたっていた。
教授の目論見どおり、
瞳子は私に好意をいだき、
私もまた、瞳子に惹かれた。
教授が娘を託すにふさわしいと
私を選んでくれたその厚意にこたえるためにも、
また、私の中にほのかにともりだした愛を育てるためにも、
私は瞳子に誠意を尽くすことで、
瞳子の心を私にかたむけさせるに勤めた。
「はじめて、会ったときから、素敵な人だとおもっていたのよ」
瞳子の告白は、まぎれもない私への恋情。
自分が漏らした言葉の意味合いに
気がついた瞳子は戸惑いとはじらいをみせ、
私は瞳子の思いを確信した。
「一緒になろう」
瞳子の返事が小さな嗚咽に変わった。
「ずっと・・好きだったの・・」
それでも、優しい男は誰にでも優しい。
それだけにすぎないと、瞳子は自分の恋が
砕けることをおそれ、
そっと、自分の胸の中にふせていた。
「夢みたい・・・」
つぶやいた・・言葉が私の胸の中にうもれた。
私はその時はじめて、瞳子をだきしめた。
はじめての異性からの接触に瞳子は軽いおそれをかんじていたにちがいない。
それでも、瞳子は自分の恋心に従った。
私の胸に体をあずけて瞳を閉じた。
瞳子の恋心が、おそれに勝とうとする。
そのいじらしさが私に
瞳子にきちんと責任をもてる位置にたつまで、
瞳子と結ばれたがる自分をおさえる決心をさせた。
極上の安心と確かな結実。
すなわち、結婚という言葉が適切であるが、
これを瞳子にわたさずにおいて、
瞳子に小さな不安ひとつとて、
感じさせたくないと、この時に私は思った。
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