河内国喜志村覚え書き帖

大坂の東南、南河内は富田林市喜志村の歴史と文化の紹介です。
加えて、日々の思いをブログに移入しています。

その十八後編 室町 ―― 富田林寺内町巡り

2022年02月27日 | 歴史

喜六 しかし、せーやん。さっきからぷーんと、ええ匂いがするねんけど。

清八 あの白壁の大きな蔵は酒蔵や。岩瀬屋とある。ここらは石川のきれいな水を利用して、酒造りが盛んなとこや。富田林だけでも七軒ある。「富田林の酒屋の井戸は、底に黄金の水が湧く」と唄われるくらいや。

喜六 せーやん、一杯よばれよ。

清八 まだ昼の日中やないかいな。まあ、ええとこあったら飲ませたる。

喜六 なんでもええから、はよ飲ませてや。

清八 ほなここの店で飲むか?

喜六 何屋や。

清八 「佐渡藤」とあるな。味醂屋や。

喜六 悪酔いするがな。

清八 せやから黙って着いてこい!

喜六 せーやん。

清八 なんやねん。

喜六 ここの店も大きいで。

清八 黒山屋とあるな。木綿屋や。このあたりは、綿の生産も盛んなとこや。

喜六 綿かいな。わしは腹わたにしみるやつが欲しいねん。・・・せーやん。

清八 なんやねん?

喜六 むかいの、この店。小さい樽がようさんあるで。

清八  飲めるもんなら飲んでみ。

喜六 何屋や。

清八 樽屋とあるなあ。油屋や。

喜六 そんなん飲んだら、腹にしみんと燃えて、死んでしまうがな。

清八 ちょうどええがな、ここで拝んでもらえ。

喜六 ここはどこや?

清八 こうしょうじ。

喜六 どうすんねん?

清八 なんや?

喜六 今、おまえ「こうしょう」言うたがな。

清八 違うがな。興正寺というお寺や。俗に御坊ともいう。

喜六 なんや、ゴンボかいな。わいゴンボきらいや。

清八 ゴンボとちゃうがな。お寺のことを敬って御坊というねん。見てみ、この山門を。

喜六 立派な山門やな。

清八 豊臣秀吉が築城した京都の伏見城の城の門が移築されたといわれてる。それで、この通りを城之門というねん。

喜六 そんなん、知らんもん。

清八  洒落かいな。塀越しの左に見えるのが鐘楼、釣り鐘堂、右に見えるのが鼓楼、時を知らせる太鼓を打つとこや。さあ、中入って一服させてもらお。

喜六 もっとええとこで一服しよ。

清八 罰あたるで。黙って着いてこい。どないや、本殿、庫裏、客殿と立派なもんや。富田林は、この御坊を中心に発展した村や。

喜六 ほほう、ゴンボが中心なら周りは大根・人参か。

清八 まだ言うてんかいな。御坊や。戦国時代の末、大坂の本願寺に仕え、後に出家して正秀と名乗る侍が、当時大坂平野の北部を支配していた本願寺から、100貫文(銅銭10万枚)で富田の芝を買い、周辺四ヶ村の中野・新堂・毛人谷・山中田の「八人衆」の協力で、この荒れ地を開発して田畑を作り、自分の領地に【富田林】の名をつけたという。

喜六 ほうほう。

清八 ところがや、興正寺は本願寺とつながりがあることから、時の天下をねろうてた織田信長が石山本願寺を攻めた時に、富田林にも目を付けよったんや。

喜六 とんだはなしやな。

清八 また、洒落かいな。

喜六 ほんでどないしたんや?

清八 八人衆と話し合い、信長に逆ろうてつぶされたとこが、ようさんある。ここは、本願寺にもつかず、信長にも逆らうことはせん、中立の立場でいくことにしょう、

喜六 どないしょ、あないしょ、こうしょう寺か!

清八 また洒落かいな。

喜六 話はええから、一杯のませて。

清八 まだ言うてんのか。表に出。・・・…右手に進んで寺の裏に回ろ。

喜六 せーやん、また、ぷーんとエエにおいがしてきた。あそこの大きな店の前に大っきい樽がおいたあるがな。

清八 杉山長左エ門とあるな。

喜六 何屋や?

清八 水屋や!

喜六 水屋て、何売ってるねん?

清八 水を売ったはるねん。

喜六 水? せやけど、ぷーんと酒のにおいがするで。

清八 酒臭い水を売ったはるねん。

喜六 酒臭い水?

清八 石川の水は酒臭い。せやから酒造りにむくねん。ミネラルウォーターや。

喜六 ミネラルウォーター?

清八 そこの竹藪の向こうは石川や。なんあったら、行って、腹一杯飲んでこい!

喜六 そんなんいやや、石川の水に米と麹を入れて、ぷくぷくと泡の出てるのが飲みたいねん。

清八 ぶつぶつ言わんと黙って付いてこい。

喜六 待ってーな。ゴン 痛い!

清八 どないしたんや?

喜六 家の壁に当たった。

清八 まっすぐ歩けへんさかいや。

喜六 まっすぐ歩いてたのに当たったんや。

清八 なるほど、当て曲げの道というて、敵に攻められた時に、攻めにくいように、わざと道をぐいちに曲げたーるねん。

喜六 それをはよ言うといてーな。ゴン また当たた!

清八 はよこい。

喜六 待ってーな。ゴン また当たった!

清八 さーあ、ここは向田口というて東高野街道との出入り口や。

喜六 せーやん、ここにも墓があるで。

清八 墓やないがな。「町中くはへきせる、ひなはひ無用」と書かれてる。

喜六 なんやそれ?

清八 町の中では、くわえキセル、歩きたばこや。火縄火はキセルに火をつける道具や。火事にならんようにということや。

喜六 富田林は、この時代から歩きたばこ禁止しとったんやなあ。

清八 そやがな。さあ、ここから東高野街道に出るで!

喜六 待ちいな。酒飲ませたる言うたがな。うそあったんかいな。

清八 うそやあらへん。これや。

喜六 火の付いたキセルを出して、タバコかいな。

清八 煙にまいたんや。

 

コメント
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