ここは一体どこの島だ インドネシア方面に送られてきて 名前も知らない島を転々とさせられ
いま俺はヤシの木陰の下 息を引き取ろうとしている これが運命なのか なんと哀れな運命だ
これが戦争なのか アメリカ兵と一度も戦うこともなく いま俺は朽ち果てようとしている
食うものもなく飢え死にしそうだ その上 マラリアにかかったのか高熱が退かない
栄養失調と熱病に弱り果てた俺には 立ち上がる気力もない ああ 恵子よ 今どうしているのか
お前と結婚してからわずか2年 二人の間に生まれた百合子は元気に育っているのか
幼な子もようやく一歳になったはずだ 百合子の顔を見たい ヨチヨチと歩き始めただろうか
出征する時 生まれたばかりのお前は 母の胸に抱かれて スヤスヤと眠っていたな
軍用列車に乗って出発する時 万歳の声や 「勝ってくるぞと勇ましく」の軍歌が湧き起こると
お前はびっくりして目を覚まし 泣きじゃくっていた光景が 今でも忘れられない
ああ 恵子にも百合子にも会いたい 父さんにも母さんにも もう一度会いたい
しかし それは叶わぬ夢となった いま俺は 南海の名も知らぬ島で 朽ち果てようとしている
これが俺の人生なのか なんとはかない惨めな一生か これが27年の人生なのか
大日本帝国の軍人として 天皇陛下の赤子(せきし)として 俺は勇み立って“戦場”に来た
しかし 戦う敵は現われなかった 敵のアメリカ軍は軍艦や飛行機に乗って 通り過ぎるだけだ
決戦場に行こうにも われらの艦船は撃沈されて この島を出ることができない
そのうちに 多くの戦友が餓死したり マラリアにかかって死んでいった
俺たちは この島に取り残された 輸送船も来ない 俺たちは見捨てられたのだ
一発の銃弾を敵に撃つこともなく みんなが次々に死んでいく 自決したり発狂した者もいる
そして とうとう俺の番だ 俺は気が狂う前に死ねそうだ 自決しなくても死にそうだ
ヤシの木陰の下 もう身動きができない 明日か明後日にも死ぬだろう
南の島に夜が来た 見上げれば満天の星が輝いている なんと美しいことか
キラキラと光る星くずは いつから空に輝いているのか きっと大昔からにちがいない
俺はあの星の一つになれるだろうか そうだ 死んで魂が天に昇れば 俺は星と合体するのだ
そして 天空からこの地球を見下ろし 永遠に輝き続けるのだ
そう思うしか 俺に救いはない ああ恵子よ百合子よ 父さん母さん さよなら
俺はあの星になる せめて残された者が みんな幸せであるように祈る
なま暖かい風が頬をかすめる 遠くで波の寄せる音が聞こえる 鳥の変な声も聞こえた
どうやら このまま眠れそうだ 今夜は思いのほか過ごしやすい 眠りが永久(とわ)に続くのか
小さな虫が 俺の足下をはいずり回っている この虫は幸せなのか・・・
たぶん 俺よりは幸せだろう だって この島で生まれ この島で死んでいくのだから
しかし お前は星にはなれないだろう 俺とちがって 当たり前に生きているからだ
俺はあの星になれる 星になって この地球を 永遠に眺めることができるのだ
次の日 この日本兵は死んだ
(以上の詩は、太平洋戦争のさなか、遠い南の島で無念の死を遂げた日本兵を想って作ったものである。2007年4月11日)
この日本兵は米軍と殺し合いをしなかっただけでも幸いだったのでしょうか・・・
日本国憲法の永久平和の精神は、末永く貫いていくべきだと思います。