花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

藤の花のこと│「今昔物語」と「伊勢物語」

2024-07-16 | アート・文化

四十九 藤│「四季の花」春之部・貳, 芸艸堂, 明治41年

  ムラサキノクモトゾミユルフヂノ花イカナルヤドノ
  シルシナルラム

  (紫の雲とぞみゆる藤の花 いかなる宿のしるしなるらむ)
ト.若干ノ人皆此レヲ聞テ、胸ヲ扣テ、「極ジ」ト讃メ喤ケリ。大納言(藤原公任)モ人々ノ皆、「極ジ」ト思タル気色ヲ見テナム、「今ぞ胸ハ落居ル」トゾ、殿(藤原道長)ニ申シ給ヘル。
 此ノ大納言ハ、万ノ事皆止事無カリケル中ニモ、和歌読ム事ヲ自モ自嘆シ給ひケリ、トナム語リ伝ヘタルトヤ。
(巻第二十四、公任大納言読屏風和歌語第三十三│「今昔物語」, p330-332)

  咲く花のしたにかくるる人おほみ
    ありしにまさる藤のかげかも

(あるじ在原行平のはらから(兄弟)、すなわち在原業平が詠んだ歌に対して、人々が)「などかくしもよむ」といひければ、「おほきおとど(藤原良房)の栄華のさかりにみまそかりて、藤氏のことに栄ゆるを思ひてよめる」となむいひける。みな人そしらずなりにけり。
(百一段│「伊勢物語」, p117-118)

蛇足の独言:華めき時めくもの。時移り消えゆくもの。阿り諂うもの。面従し腹背するもの。拱手し傍観するもの。花開き花落ちて人は幾たびか換る。

参考資料:
馬淵和夫, 国東文麿, 稲垣泰一校注・訳:新編日本古典文学全集「今昔物語③」, 小学館, 2008
渡辺実校注:新潮日本古典集成「伊勢物語」, 新潮社, 2004