和芍薬 サツキ
溱洧 溱洧(しんゐ)
溱與洧 方渙渙兮 溱と洧と 方に渙渙たり
士與女 方秉蕑兮 士と女と 方に蕑(かん)を秉る
女曰觀乎 士曰旣且 女曰く 觀(みそぎ)せんか 士曰く旣にせり
且往觀乎 洧之外 且に往きて觀せん 洧の外は
洵吁且楽 維士与女 洵(まこと)に訏(く)にして且つ楽し 維に士と女と
伊其相謔 贈之以芍藥 伊(ここ)に其れ相謔し、之に贈るに芍藥を以てす
溱與洧 瀏其清矣 溱と洧と 瀏として其れ清らなり
士與女 殷其盈兮 士と女と 殷として其れ盈てり
女曰観乎 士曰旣且 女曰く 觀せんか 士曰く旣にせり
且往観乎 洧之外 且に往きて觀せん 洧の外は
洵訏且楽 維士与女 洵に訏にして且つ楽し 維に士と女と
伊其將謔 贈之以芍薬 伊(ここ)に其れ將謔(あひぎゃく)し、之に贈るに芍薬を以てす
(鄭風│「詩経 上,244-289)
*溱洧:溱水と洧水、鄭の国を流れる河
*蕑(蕳):蘭草、フジバカマ
*芍薬:古文献の芍薬が現在のシャクヤクと同一かに関しては論議がある。
經溱洧 白居易 溱洧を經(ふ)
落日駐行騎 沈吟懐古情 落日に行騎を駐め 沈吟す懐古の情
鄭風變已盡 溱洧至今清 鄭風 變 已に盡き 溱洧今に至るまで清し
士見士與女 亦無芍藥名 士と女とを見ず 亦た芍藥の名無し
(巻第五十一│「白氏文集 九」,p74-75)
*暮れ行く河のほとり、禊をして薬草を採り男女が聚会する歌垣習俗の懐古。游子悲しむ溱洧旅情。
参考資料:
白川静訳注:東洋文庫「詩経国風」, 平凡社, 2002
石川忠久著:中国古典新書「詩経」, 興学社, 2011
石川忠久著:新釈漢文大系「詩経 上」, 明治書院, 2007
岡村繁著:新釈漢文大系「白氏文集 九」, 明治書院, 2005
久保輝幸:牡丹・芍薬の名物学的研究(2)芍薬の訓詁史, 薬史学雑誌:48(2), 116-12, 2013