開業以来、器具の洗浄に活躍してくれていた洗浄機が壊れた。最初は排水が不調となり、その後モーター本体の故障で全く起動しなくなった。毎日の診療業務に影響が出るので至急の修理をお願いしたら、既に補修用性能部品の保有期間が過ぎていた為に新規導入となった。新機種は今様のスタイリッシュな外観に加えて庫内容積が大きく、消費電力や標準使用水量が反対に減って節電、節水となった。内部構造や洗浄時間、パネルの表示なども色々と異なり、当初は大いに戸惑った。ところが取扱説明書に一通り眼を通した後に、あちこちと触って動かしていたらすぐに馴染んでしまった。
様々な医療機器とともに、電子カルテやファイリングソフトが載ったPCなどもまた、作動しなければたちまち日常診療に影響が出る。器械自体の修理が利かなければ、例え慣れ親しんだ機種であっても廃棄せねばならない。また現行の機種が全く壊れていなくとも処分し、新機能が備わり性能が向上した機種に買い替える必要に迫られることもある。
長い年月を経た道具には付喪神(つくもがみ)が宿ると言う。毎年、師走の最終日には診療室の中に立ち、一年間お世話になった院内の様々な器械にも有難うと御礼を言うのが習いである。ぐるりと見渡して既に姿を消した過去の器械を懐かしく思い出すことがある。どれもこれも大切に扱って決して使い捨てにしてきたつもりはない。しかし日常業務を安全かつ確実に遂行することが第一義である限り、機能を果たせなくなった機械や器械には別れを告げなければならない。そして納期を待って費用をお納めすれば、やがて新しい「モノ」が搬入されてきて、何事も無かったかのような顔で何時しか其処に座を占めている。
最近になり、「トリセツ」という歌が若い女性に人気であることを教えてもらった。私をこの様に大切に取り扱ってねと相手の男性に要求する歌である。この歌を喜んで歌う彼女達に尋ねてみたい気がする。貴女は「ヒト」ではなく「モノ」なのですか。余程特別で特殊なものでない限り、「モノ」にはいくらでも代替品があり、次々と優れた後継機種が出てきます。そして歌詞にうたわれた如く、自分という「モノ」を本当に永久保証出来るのですか。