花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

劫外の春│花信

2023-03-28 | アート・文化


  歳晩偶成二首 二   売茶翁
人間歳月転車輪  人間の歳月 車輪を転ず
洞裏乾坤劫外春  洞裏の乾坤 劫外の春
埋首市塵没蹤跡  首を市塵に埋めて没蹤跡
没蹤跡処不蔵身  没蹤跡の処 身を蔵さず

末木文美土, 堀川貴司注:江戸漢詩選五「僧門」, p108-111, 岩波書店, 1996

草露│花信

2023-03-21 | アート・文化


  出獄帰国の間、雑感五十七解 第三十五   吉田松陰
人生如草露  人生 草露の如く
辛艱何足虞  辛艱 何ぞ虞(おそ)るるに足らん
勿顧一朝苦  一朝の苦を顧(おも)いて
遂空千歳図  遂に千歳の図を空しうする勿れ

坂田新注:江戸漢詩選四「志士」,p190, 岩波書店, 1995

深林にありて│花信

2023-03-20 | アート・文化


且芝蘭生於深林。不以無人而不芳。君子修道立徳、不為窮困改節。
且つ芝蘭は深林に生ず。人無きを以て芳しからずんばあらず。君子は道を修めて徳を立て、窮困の為に節を改めず。

在益 第二十│宇野精一著:新釈漢文大系「孔子家語」, p276, 明治書院, 1951


きみかげさう│「草花百種 一」, 山田芸艸堂, 明治34年


春光│花信

2023-03-18 | アート・文化


  帰寺作   大典顕常
春光幾処問名山  春光 幾処か 名山を問う
杓錫帰来独掩関  杓錫 帰り来たつて独り関を掩う
万樹花随行雨尽  万樹の花は行雨に随つて尽きん
一床人対檠短閒  一床の人は対檠に対して閒なり

末木文美土, 堀川貴司注:江戸漢詩選五「僧門」, p279, 岩波書店, 1996

<蛇足の独り言>屋内の東海桜が陽気の高まりを受け白一色の雪樹となった。替わりに馬酔木を用いて若葉が芽吹く時節に思いを馳せ、「吾亦蹈春行」(2023/3/13)の一杯を翠緑の風景に遷した。郭熙の山水画論集『林泉高致』に「真の山水の烟嵐は四時同じからず。春山は澹冶にして笑うが如く、夏山は蒼翠にして滴るが如く、秋山は明浄にして粧うが如く、冬山は惨淡として眠るが如く。」とある。人体は小宇宙、一杯一瓶の生け花も小宇宙である。 

雪樹│花信

2023-03-17 | アート・文化


  春日遊東叡山宴花樹下、三友詠歌視余、余又賦詩酬之   内田桃仙      
  春日、東叡山に遊び、花樹の下に宴す。三友、歌を詠じて余に視す。
  余も又た詩を賦して之に酬ゆ        
忽聴春過強出家  忽ち春の過ぐるを聴いて強いて家を出ず
観遊此日思無邪  観遊 此の日 思ひ邪(よこしま)無し
盛筵寛展歌声颺  盛筵 寛く展べて 歌声颺(あが)り
酒幔軽颺舞袖斜  酒幔 軽く 颺つて 舞袖斜めなり
各述雅風唫雪樹  各の雅風を述べて雪樹を唫(ぎん)じ
共倚美景酔煙霞  共に美景に倚りて煙霞に酔ふ
依稀三友紫清小  依稀たり 三友 紫清小
艶艶詠詞芳似花  艶艶たる詠詞 花似(より)も芳し

揖斐高編訳:「江戸漢詩選 上」, p233-235, 岩波書店, 2021

貝母(バイモ)│アミガサユリ・バイモユリ

2023-03-16 | 漢方の世界

六 春龍膽・筆桔梗・文字ずり草・貝母・白蒲公英│「四季の花」春之部・壱, 芸艸堂, 明治41年

貝母(バイモ)は、ユリ科、バイモ属の多年草、アミガサユリ(編笠百合)、別名バイモユリ(貝母百合)、学名Fritillaria verticillata Willd. var. thunbergii Bakerの鱗茎から得られる、化痰止咳平喘薬に分類される生薬である。中国では浙貝母(セツバイモ)、川貝母(センバイモ)に区別され、日本市場品は浙貝母である。浙貝母の薬性は苦、寒、川貝母の薬性は苦、甘、微寒、両貝母ともに帰経は肺・心経である。両貝母の効能は同じく清熱化痰、散結消腫であるが、浙貝母は開泄の力が大で清熱・開鬱・散結の働きが強く、川貝母は潤性で潤肺止咳の作用に優れる。配合される方剤に清肺湯(効能は清肺養陰、理気化痰)、滋陰至宝湯(効能は滋陰清熱、疏肝健脾)などがある。なお2023年3月現在、COVID-19における需要増加の為、医療用漢方製剤の多くが出荷制限され安定供給が滞っている状況である。
 編笠百合/貝母百合の花期は3~4月、花弁は淡緑色で、内側に名の由来となる網目模様を持つ、鐘状の下垂する花を茎頂に数個つける。「貝母の花」は春の季語である。



吾も亦た春を蹈みて行かん│花信

2023-03-13 | アート・文化


  早春発村   原采蘋
抛却人間事  人間の事を抛却(ほうきゃく)して
心頭無所営  心頭 営む所無し
浪遊占餘適  浪遊 余適を占め
独往不期程  独往 程を期さず
咄咄書空雁  咄咄として空に書する雁
嚶嚶出谷鶯  嚶嚶として谷を出づる鶯
留連応有限  留連 応に限り有るべし
吾亦蹈春行  吾も亦た春を蹈みて行かん

「江戸漢詩選 下」, p310-313 / 「原采蘋 詩と生涯」, p367-368

参考資料:
小谷喜久江著:「原采蘋 詩と生涯---孝と自我の狭間で」, 笠間書院, 2017
揖斐高編訳:「江戸漢詩選 下」, p310-313, 岩波書店, 2021


柳あをめる

2023-03-12 | 日記・エッセイ


お別れ会に参列するために京都市内に出た。三条大橋端の枝垂れ柳ははや芽吹いて春風に揺れている。みわたせば柳桜をこきまぜた都となる日も近い。

井のはたの桜あふなし酒の酔 秋色│日本花図絵

2023-03-11 | アート・文化

井のはたの桜あふなし酒乃酔 秋色│尾形月耕「日本花圖繪」明治丗年

秋色桜ハ清水堂の御供所構のうち、井のかたはらにあり。
花ハ一種にして虎尾と称するもの者是なり。
中頃江府の商戸何某の女秋色といへるもの、花のころこゝに来り、  
井戸はたの 櫻あふなし 酒の酔
といえる秀句ありしより名づくるとなん

木のもとに 汁も鱠も さくらかな  芭蕉


東叡山寛永寺 其二「清水観音堂 秋色桜」│「江戸名所図会」下巻, p64-65

参考資料:
鈴木棠三, 朝倉治彦校注:「新版 江戸名所図会 下巻」, 角川書店, 1975
今栄蔵校注:新潮日本古典集成「芭蕉句集」, 新潮社, 2006