花紅柳緑~院長のブログ

京都府京田辺市、谷村医院の院長です。 日常診療を通じて感じたこと、四季折々の健康情報、趣味の活動を御報告いたします。

甲辰歳を迎えて│大和未生流の花

2024-01-16 | 日記・エッセイ


大和未生流の新年祝賀会、四代家元襲名披露の会が先日開催された。会の冒頭、年明けの元日に能登半島を襲った地震で犠牲となられた方々へ1分間の黙祷を捧げた。2020年初頭に国内で初めてCOVID-19感染者が確認され、昨年2023年5月に5類移行となったが、流派の新年会開催は長らく自粛されていた。2022年に一門を慈しみお導き下さった三代御家元が永眠され、同年就任された四代御家元は、この四年ぶりの新年会、襲名披露の会の御挨拶として創流からの理念を遵守、伝承する重責を熱くお語りになった。
 会場は名勝旧大乗院庭園に隣接する歴史ある奈良ホテルである。御多忙の中を御臨席いただいた東大寺・筒井寛昭御長老様、御来賓の御方からは御心の籠った御祝辞を賜り、恒例の新師範の初生け披露があり、新春を寿ぐ熟練の音楽演奏が続き、厳粛な中にも和やかで豊かな一日であった。

一騎紅塵妃子笑ふ│2024年度大学入学共通テスト「過華清宮絶句三首」

2024-01-14 | アート・文化

三十九 唐連いし ま徒り花│「四季の花」秋之部・貮, 芸艸堂, 明治41年

 過華清宮絶句三首   杜牧
  其一
長安廻望繍成堆  長安より廻望すれば繍(しゅう)堆(たい)をなす
山頂千門次第開  山頂の千門次第に開く
一騎紅塵妃子笑  一騎紅塵(こうじん)妃子笑ふ
無人知是茘枝來  人の是茘枝の来たるを知る無し
  其二
新豊緑樹起黄埃  新豊の緑樹に黄埃(こうあい)起こり
数騎漁陽探使廻  数騎の漁陽の探使廻る
霓裳一曲千峯上  霓裳(げいしょう)の一曲千峯の上
舞破中原始下來  中原を舞破して始めて下り来たる
  其三
萬國笙歌醉太平  萬国は笙歌し太平に酔ふ
倚天楼殿月分明  天に倚る楼殿に月分明(あきらか)なり。
雲中亂拍禄山舞  雲中に乱れ拍ちて禄山舞ひ
風過重巒下笑声  風は重巒(ちょうらん)を過(よぎ)りて笑声下る

試験に提示されたのは茘枝を好んだ一笑亡国の楊貴妃が詠われた其一である。続く其二・三は安禄山の動向を描写し迫り来る安史の乱を暗示する。玄宗皇帝は楊貴妃に供する為に遥か華南から茘枝を運ばせた。竹村名誉教授著『楊貴妃文学史研究』には、楊貴妃が砂塵を蹴立てて到着した早馬に満足の意を表した「一騎紅塵妃子笑」が、周の幽王が寵姫を唯笑わせんが為だけに偽りの烽火で緊急出動命令を繰り返し、遂には亡国を招来したという褒姒の故事を意識した詩的発想に基づくことが詳細に論述されている。

茘枝(レイシ)は、ムクロジ科、レイシ属の常緑高木で、学名Litchi chinensis Sonn.、果実は夏期に熟し表面鱗状の外果皮の中に乳白色、半透明の果肉と種子を蔵する。果肉を薬材とする生薬、同名の「茘枝」は薬性が甘・酸・温、帰経は肝・脾経、効能は養血健脾、行気消腫である。種子を薬材とする「茘枝核」の薬性は甘・微苦・温、帰経は肝・腎・胃経、効能は理気止痛、祛寒散滞である。 

参考資料:
竹村則行著:「楊貴妃文学史研究」, 研文出版, 2004
上海辞書出版社文学鑑賞辞典編纂中心編:「唐詩鑑賞辞典」, 上海辞書出版, 2013
南京中医薬大学編著:「中薬大辞典 下(第二版)」, 上海科学技術出版社, 2006
三橋博監修:原色牧野和漢薬草大圖鑑, 北隆館, 1988



謹賀新年│令和六年甲辰元旦

2024-01-01 | 日記・エッセイ


  元旦試筆  藤原惺窩  
我性不関間与忙  我が性は関せず 間と忙とに
山林城市又何妨  山林 城市 又た何ぞ妨げん
春来忽被風光触  春来 忽ち風光に触れらるれば
作鳥歌兮作蝶狂  鳥と作りて歌ひ 蝶と作りて狂せん  

惺窩先生文集・巻二│揖斐高編訳:「江戸漢詩撰(上)」, p30-33, 岩波書店, 2021

新年の益々の御多幸と御健勝を謹んでお祈り申し上げます。
何卒本年も宜しくお願い申し上げます。