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小雪(11月23日)は、二十四節気の第20番目の節気である。気温はさらに降下して雪が降り始める時節とされるが、昨今は暖冬でいささか季節感がずれる。ともかくいまだ大雪が降るには至らない時期であるから小雪と称する。しかしながら日照時間はさらに短くなり、陰鬱な天空の下に陰盛陽衰の形象が日一日と増えてゆく。草花は色褪せ萎んで枯れて、すっかり葉を落とした木々の梢を寒風が吹き渡り、街路を行き交う人々の服装も灰色や黒色の単調な色合いが多くなる。そこには春の欣々向栄の趨勢も、夏の烈日の繁栄も、秋の萬物結実の安息もない。ともすれば人の心は、不安や不眠、いらいら感、やるせない悲観的な感情や、抑鬱的な気分、厭世的な思いに容易にはまり込んでゆく。従ってこの時節は、寒冷暴露を避けて保温に努めるとともに、いかにして精神を安定させるかということが大切である。
『黄帝内経素問』上古天眞論篇には、「夫上古聖人之教下也, 皆謂之虚邪賊風, 避之有時, 恬惔虚無, 眞気従之, 精神内守, 病安従来」と記されている。その意味は、虚をもたらす邪(病原因子)や季節外れの風を避けるとともに、無心にして物事に捉われず、心を安らかに落ち着かせれば、おのずから真気(元気、生命活動の原動力)は充実する、精を消耗せず神(精神や意識などの生命活動)を妄動させずに、内に揺るぎなく保持すれば、其処に病気などが入り込む余地はないということである。「恬惔虚無(てんたんきょむ)」は、『荘子』に「虚無恬惔」あるいは「恬惔寂漠, 虚無無為」と登場する言葉であり、物に執着せず心安らかで、作為がなく自然であることを表している。
風雨や暑熱、寒暑などの外邪から身を守ること、時宜にかなった食を選ぶこと、過労を避けて規律正しく起居を整えること、身体の鍛錬を行うこと等々、これらが養生において守るべき大事なことには間違いはない。しかしこれらの工夫に終始するだけが養生のすべてではない。養生においては「太上養神,其次養形」であり、形(肉体)を整えることにのみ汲々として中身がなければ、まさに「仏作って魂入れず」なのである。
夜を寒み 朝戸を開き 出でみれば 庭もまだらに み雪降りたる 万葉集 巻第十