新型コロナウイルスの名称が「2019-nCoV」から「SARS-CoV-2」(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)(国際ウイルス分類委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses:ICTV発表))に変更され、新型コロナウイルス感染症の疾患名が「COVID-19」(coronavirus disease 2019)に決定した(WHO発表)。重篤な急性呼吸器感染の可能性を有するCOVID-19に関する世界規模の報告が続く中で、いまだ現時点で根本的な治療法は確立されていない。
「新型冠状病毒肺炎診療方案」(試行第六版、2020年2月19日発布)(novel coronavirus pneumonia diagnosis and treatment plan, provisional 6th edition)は、中国国家衛生健康委員会から出されているSARS-CoV-2関連肺炎に関する中西結合医療のガイドラインである。本稿では中国伝統医学(Traditional Chinese Medicine:TCM)における病期分類、治療に関する章に注目し編訳及び考察を行った。本文(中文)はWEB上で全文閲覧、DL可能である。
最新の試行第六版では従来の臨床治療期分類(初期:寒湿鬱肺、中期:疫毒閉肺、重症期:疫毒閉肺、恢復期:肺脾気虚)から「軽型、普通型、重型、危重型、恢復期」の5期、9病証に改変された。一連の診療方案に関する解説では、病因・病態に関する考察として「新型冠状病毒感染的肺炎当属‘寒湿(瘟)疫’、是感受寒湿疫毒而発病」、「従病位即邪气攻撃的臓腑来看,主要是肺和脾」(試行第四版)、「本病属于中医疫病范疇、病因為感受疫戻之気、病位在肺、基本病機特点為“湿、熱、毒、瘀”」(試行第五版)の論述がある。
1.医学観察期
臨床表現1:乏力伴胃腸不適(消化管不調を伴う脱力感)
推薦中成薬:藿香生気胶嚢(カプセル)(丸・水・内服液)
臨床表現2:乏力伴発熱(発熱を伴う脱力感)
推薦中成薬:金花清感顆粒、連花清瘟胶嚢(顆粒)、疏風解毒胶嚢(顆粒)
*関連方剤(方剤名、出典、組成、効能)
〇藿香生気散《和剤局方》(霍香、蘇葉、白芷、大腹皮、厚朴、半夏、陳皮、茯苓、甘草、白朮、生姜、大棗、桔梗):解表化湿、理気和中
*中成薬の主要配合生薬(薬品名、組成、効能):
〇金花清感顆粒(金銀花、浙貝母、黄芩、牛蒡子、青蒿等):疏風宣肺、清熱解毒
〇連花清瘟胶嚢(連翹、金銀花、炙麻黄、炒苦杏仁、石膏、板藍根、綿馬貫衆、魚腥草、広藿香、大黄、紅景天、薄荷、甘草):清瘟解毒、宣肺清熱
〇疏風解毒胶嚢(虎杖、連翹、板藍根、柴胡、敗醤草、馬鞭草、芦根、甘草):疏風平熱、解毒利咽
*中成薬配合生薬の分類:
◎解表薬:<発散風寒薬>白芷、生姜、麻黄;<発散風熱薬>牛蒡子、薄荷、柴胡
◎清熱薬:<清熱瀉下薬>石膏、芦根;<清熱燥湿薬>黄芩;<清熱解毒薬>金銀花、連翹、板藍根、貫衆、魚腥草、敗醤草;<清虚熱薬>青蒿
◎瀉下薬:<攻下薬>大黄
◎利水滲湿薬:<利水消腫薬>茯苓;<利水退黄薬>虎杖
◎芳香化湿薬:霍香、厚朴、
◎理気薬:大腹皮、陳皮、
◎化痰止咳平喘薬:<温化寒痰薬>半夏;<清化熱痰薬>桔梗、浙貝母;<止咳平喘薬>杏仁
◎補虚薬:<補気薬>白朮、紅景天、大棗、甘草
2.1臨床治療期(確信病例)
清肺排毒湯
活用範囲:适用于軽型、普通型、重型患者,危重型患者。
基礎方剤:麻黄、炙甘草、杏仁、生石膏(先煎)、桂枝、沢瀉、猪苓、白朮、茯苓、柴胡、黄芩、姜半夏、生、紫菀、冬花、射、細辛、山薬、枳実、陳皮、藿香。
(服用方法、生薬処方量および中成薬注射液の投与量(処方に際し加減が必須)は引用を省略。以下同文。)
*清肺排毒湯が含む方意をもつ関連方剤(方剤名、出典、組成、効能):
〇麻杏甘石湯《傷寒論》(麻黄、杏仁、石膏、甘草):辛涼宣泄、清肺平喘
〇射干麻黄湯《金匱要略》(射干、麻黄、生姜、五味子、細辛、紫苑、欵冬花、大棗、半夏)
〇小柴胡湯《傷寒論》(柴胡、半夏、人参、黄芩、大棗、生姜、甘草):和解少陽
〇五苓散《傷寒論》(沢瀉、茯苓、猪苓、白朮、桂枝):利水滲湿、通陽化気
*抽出成分を考慮した煎じ方法:有効成分が溶出困難な鉱物や毒性の強い薬草は初めから加えて長時間煎じる(先煎)。芳香性・揮発性のある薬草や大黄などの瀉下作用発揮を目的とする場合は、煎じ終わる前の時期を見計らって投入する(後下)。
2.2 軽型
(1)寒湿郁肺証
臨床表現:発熱、乏力、周身酸痛、咳嗽、喀痰、胸緊憋気、納呆、悪心、嘔吐、大便粘膩不爽。舌質淡胖歯痕或淡紅、苔白厚腐膩或白膩、脉濡或滑。
(発熱、脱力感、全身の筋肉痛、咳嗽、喀痰、胸の拘束・閉塞感、食欲不振、悪心、嘔吐、粘稠な便・残便感。淡白舌、胖大あるいは淡紅舌、厚い白色腐膩苔あるいは白膩苔、濡脈あるいは滑脈)
推薦処方:生麻黄、生石膏、杏仁、羌活、葶藶子、貫衆、地竜、徐長卿、藿香、佩蘭、蒼朮、雲苓(茯苓)、生白朮、焦三仙、厚朴、焦檳榔、煨草果、生姜。
(2)湿熱蘊肺証
臨床表現:低熱或不発熱、微悪寒、乏力、頭身困重、肌肉酸痛、干咳痰少、咽痛、口干不欲多飲、或伴有胸悶脘痞、無汗或汗出不暢、或見嘔悪納呆、便溏或大便粘滞不爽。舌淡紅、苔白厚膩或薄黄、脉滑数或濡。
(微熱あるいは発熱なし、軽度の悪寒、脱力感、全身が重だるい、筋肉痛、乾性咳嗽・痰は少量、咽頭痛、口腔・咽頭の乾燥感があるが水分をほしがらない、胸腹部が痞えて苦しい、無汗或いは汗がすっきりと出ない、悪心・嘔吐・食欲不振、軟便・残便感。淡紅舌、厚白膩苔あるいは薄黄苔、渇数脈あるいは濡脈。)
推薦処方:檳榔、草果、厚朴、知母、黄芩、柴胡、赤芍、連翹、青蒿 (後下)、蒼朮、大青叶、生甘草。
*関連方剤:
〇麻杏甘石湯《傷寒論》(麻黄、杏仁、石膏、甘草):辛涼宣泄、清肺平喘
〇達原飲《温疫論》(檳榔、厚朴、草果、知母、芍薬、黄芩、甘草):開達膜原、避穢化濁
*寒湿(cold-dampness):寒邪と湿邪が結びついた病態。六淫(six pathogenic factors)は発病原因の邪気となる「風・寒・暑・湿・燥・火」の六気の季節の異常変化であり、六邪(風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪)とも呼ばれる。また六淫はあらゆる外感病(affliction by exo-pathogen;外邪が体に侵入して起こる疾病)の病邪や季節・地域により異なる気候環境因子を含んだ概念であり、病因となる外界因子を網羅した総称でもある。
寒湿は、六淫病邪の寒邪による外寒寒湿、および体内で生じる内生寒湿に分類される。湿邪は寒邪を伴う場合と熱邪を伴うもの(湿熱)がある。「寒湿郁肺証」に比し「湿熱蘊肺証」は湿多熱少の寒熱錯雑の病態を示している。ウイルス性気道感染症の初期症状では、悪寒、発熱などの表証とともに、肺気の宣発・粛降の失調と津液の運行失調が生じて咳嗽や喀痰などの呼吸器症状が出現する。
2.3 普通型
(1)湿毒鬱肺証
臨床表現:発熱、咳嗽痰少、或有黄痰、憋悶気促、腹脹、便秘不暢。舌質暗紅、舌体胖、苔黄膩或黄燥、脉滑数或弦滑。
(発熱、咳嗽・痰は少量あるいは黄色痰、胸の痞え・呼吸促迫、腹部膨満感、便秘傾向。暗紅舌、胖大舌、黄膩苔あるいは黄燥苔、渇数脈あるいは弦滑脈。)
推薦処方:生麻黄、苦杏仁、生石膏、生薏苡仁、茅蒼朮、広藿香、青蒿草、虎杖、馬鞭草、干芦根、葶藶子、化橘紅、生甘草。
(2)寒湿阻肺証
臨床表現:低熱、身熱不揚、或未熱、干咳、少痰、倦怠乏力、胸悶、脘痞、或嘔悪、便溏。舌質淡或淡紅、苔白或白膩、脉濡。
(微熱、熱感があるが体表には甚だしい熱を触れない、あるいは発熱なし、乾性咳嗽、痰は少量、倦怠感、胸腹部に膨満感があり痞える、悪心・嘔吐、軟便。淡白舌あるいは淡紅舌、白苔あるいは白膩苔、濡脈。)
推薦処方:蒼朮、陳皮、厚朴、藿香、草果、生麻黄、羌活、生姜、檳榔。
*関連方剤:
〇麻杏薏甘湯《金匱要略》(麻黄、杏仁、薏苡仁、甘草):発汗解表、祛風利湿
〇藿香生気散《和剤局方》(霍香、蘇葉、白芷、大腹皮、厚朴、半夏、陳皮、茯苓、甘草、白朮、生姜、大棗、桔梗):解表化湿、理気和中
*湿(dampness):湿邪は重濁粘滞(heaviness, turbidity and viscosity)の性質があり、寒邪と同様に陰邪で人体の陽気を損傷する。汚濁する性質により体内で長期にわたり蓄積、滞留すれば湿毒(toxic dampness)が生まれる。その病的過程で津液の消耗につながる化熱が生じることがあり、熱と湿の両者の性質を持った症候(湿熱、damp-heat)は水分代謝障害を伴う炎症性反応と考えられる。湿邪がからむ疾病は一般に経過が遷延し再発が多い。また消化管障害を招来しやすいことが特徴の一つである。脾気虚、脾陽虚があると運化機能失調(消化管の運動機能障害)と内湿の悪循環を生み、さらに同気相求(似たものは自然に寄り集まる)として、さらに外来の湿邪の侵襲を受け易くなるので外湿と内湿は混在することが多い。
軽・普通型を通じて見られる、低熱あるいは無熱、身熱不揚(湿邪が熱邪を覆い隠す)、微悪寒あるいは悪寒なし、頭身困重、口干不欲多飲(湿邪が鬱阻して脾気が昇らず津液が行き渡らない)、悪心・嘔吐・腹脹、便溏などの臨床症状と膩苔、濡脈は、湿邪、湿毒が枢機となる病証を示唆している。
*芳香化湿薬:辛温温燥の性質を有し、化湿運脾(脾胃の運化を促進し湿濁を除く)作用を持つ。属する生薬には霍香、佩蘭、蒼朮、厚朴、砂仁、小豆蒄、草果があり、中医学的に寒湿疫毒の感受が病因・病態と考えられる本疾患の病態で多用されている。「醒脾」は芳香化湿薬を用いて無力となった脾気を高める治法である。
2.4 重型
(1)疫毒閉肺証
臨床表現:発熱面紅、咳嗽、痰黄粘少、或痰中帯血、喘憋気促、疲乏倦怠、口干苦粘、悪心不食、大便不暢、小便短赤。舌紅、苔黄膩、脉滑数。
(発熱・ 顔面紅潮、咳嗽、黄色・粘稠痰、血痰、喘鳴・呼吸促迫、疲労倦怠感、口渇・口が苦く粘る、悪心・食欲減退、大便不調、尿量が少なく尿色が濃い。紅舌、黄膩苔、渇数脈。)
推薦処方:生麻黄、杏仁、生石膏、甘草、藿香 (後下)、厚朴、蒼朮、草果、法半夏、茯苓、生大黄(後下)、生黄耆、葶藶子、赤芍。
(2)気営両燔証
臨床表現:大熱煩渇、喘憋気促、譫語神昏、視物錯瞀、或発斑疹、或吐血、衄血、或四肢抽搐。舌絳少苔或無苔、脉沈細数、或浮大而数。
(高熱で強い口渇、喘鳴・呼吸促迫、うわごと・意識混濁、視力障害、皮下出血斑、吐血、鼻出血、四肢痙攣。絳舌、少苔あるいは無苔、沈細数脈あるいは浮大かつ数脈。)
推薦処方:生石膏(先煎)、知母、生地、水牛角(先煎)、赤芍、玄参、連翹、丹皮、黄連、竹叶、葶藶子、生甘草。
推薦中成薬:喜炎平注射液、血必浄注射液、熱毒寧注射液、痰熱清注射液、醒脳静注射液。
*関連方剤:
〇麻杏甘石湯《金匱要略》(麻黄、杏仁、薏苡仁、甘草):発汗解表、祛風利湿
〇宣白承気湯《温病条辨》(生石膏、生大黄、杏仁、栝楼皮):宣肺通腑
〇清瘟解毒飲《疫疹一得》(生石膏、生地黄、犀角、黄連、山梔子、桔梗、黄芩、知母、赤芍、玄参、連翹、甘草、牡丹皮、鮮竹葉):清熱解毒、凉血瀉火
〇化斑湯《温病条辨》(石膏、知母、生甘草、玄参、犀角、白粳米):清気凉血
*中薬注射剤の主要成分(薬品名、組成、効能):
〇喜炎平注射液(穿心蓮成分):清熱解毒、止咳止痢
〇血必浄注射液(紅花、赤芍、川芎、丹参、当帰):化瘀解毒
〇熱毒寧注射液(青蒿、金銀花、山梔子):清熱疏風解毒
〇醒脳静注射液(麝香、欝金、冰片、山梔子):清熱解毒、凉血活血
*疫毒(疫気、癘気、疫癘、異気、戻気)(epidemic toxin/pathogen):一般的な六淫病邪とは性質が異なる外邪で強力な伝染性・流行性を有する特殊な邪気と定義される。『黄帝内経素問遺残篇』刺法論に「五疫之至、皆相染易、無問大小、病状相似。」(五疫の疾病が至ると皆が感染し大小問わず病状が相似る)、明代の呉又可著『温疫論』に「瘟疫之為病、非風、非寒、非暑、非湿、乃天地間別有一種異気所感。」(瘟疫の発病は、風・寒・燥・湿いずれでもない天地の間に在る一種の異気を感受する為である)の記述がある。疫毒が発生し感染性(infectivity)、病原性・毒性(virulence)を発揮する重要な条件として、六淫病邪(SARS-CoV-2関連肺炎で留意すべきは湿邪、そして寒邪)あるいは特殊な形で邪毒となった六淫病邪の関与を考えねばならない。
*気営両燔(きえいりょうはん):気分の熱邪が盛んで営分に波及し、気分証と営分証が同時に存在する病態。衛気営血弁証は主として熱性の外邪を感受して発症する温病の病期・病位の捉え方であり、衛分証(温熱の邪が初めて人体を侵襲する、病位が浅く病状は軽い初期)から、気分証(邪が表から裏に侵入する、病位が深く病状が重い中~極期)、営(血)分証(病位が最も深く病状が最も重篤、津液を灼傷し脱水状態を来す、意識障害や出血症状が出現する)の四証に分けられる。
2.5 危重型(内閉解脱証)
臨床困難:呼吸困難、動輒気喘或需要机械通気、伴神昏、煩燥、汗出肢冷、舌質紫暗、苔厚膩或燥、脉浮大無根。
(呼吸困難、通常呼吸不全で人工呼吸器の導入、随伴症状として意識障害、不穏、発汗、末梢性チアノーゼ。紫暗舌、厚膩苔あるいは燥苔、浮大脈で無根。)
推薦処方:人参、黒順片(附子) (先煎)、山茱萸、送服蘇合香丸或安宮牛黄丸。
推薦中成薬:血必浄注射液、熱毒寧注射液、痰熱清注射液、醒脳静注射液、参附注射液、生脉注射液、参麦注射液。
*関連方剤:
〇参附湯《正体類要》(人参、附子):益気回陽救脱
〇蘇合香丸《和剤局方》(白朮、青木香、犀角、香附子、朱砂、訶子、白檀香、安息香、沈香、麝香、丁香、蓽撥、竜脳、乳香、蘇合香油):芳香開竅、行気止痛
〇安宮牛黄丸《温病条弁》(牛黄、犀角、麝香、真珠、朱砂、雄黄、黄連、黄芩、山梔子、欝金、冰片):清熱解毒、鎮惊開竅
推薦処方に含まれる山茱萸は補益肝腎、収斂固渋の作用を有する固渋薬である。
*中薬注射剤の主要成分:
〇参附注射液(紅参、黒順片):回陽救逆、益気固脱
〇生脉注射液(紅参、麦門冬、五味子):益気養陰、復脈固脱
〇参麦注射液(紅参、麦門冬):益気固脱、養陰生津
*重型と危重型は、重症呼吸困難、低酸素血症、ARDS、敗血症性ショックなどの重篤な症候を生じる時期で西洋医学との結合医療が不可欠である。中医学的には熱毒が心包に深陥して心竅を内閉した熱入心包が生じ、さらに津液を消耗して陽気が解脱の方向に進行した非常に危険な病態が「内閉外脱」である。
病毒感染或合并軽度細菌感染:喜炎平注射液、熱毒寧注射液、痰熱清注射液。
高熱伴意識障碍(高熱を伴う意識障害):醒脳静注射液。
全身炎症反応総合証或/和多臓器功能衰竭:血必浄注射液。
免疫抑制:参麦注射液。
休克(shock):参附注射液。
(本項の末尾に記されている重型、危重型の症例に対する中薬注射剤の推薦用法である。生理食塩液に混合して投与された中薬注射剤名(加減を要する投与量は省略)を掲示した。)
*全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome;SIRS):各種の侵襲により誘発される高サイトカイン血症に伴う全身性の急性炎症反応。多臓器障害(multiple organ dysfunction syndrome;MODS)に至る前段階の重篤な病態である。
*生理食塩液:生食、血漿と等張で塩化ナトリウムを0.9w/v%含有の食塩水
2.6 恢復期
(1)肺脾気虚証
臨床表現:気短、倦怠乏力、納差嘔悪、痞満、大便無力、便溏不爽。舌淡胖、苔白膩苔。
(息切れ、倦怠感・脱力感、食欲不振・悪心嘔吐、大腸の蠕動運動低下、胸脘部の痞え、軟便・残便感。淡白舌、胖大舌、白膩苔。)
推薦処方:法半夏、陳皮、党参、炙黄耆、炒白朮、茯苓、藿香、砂仁(後下)、甘草。
(2)気陰両虚証
臨床表現:乏力、气短、口干、口渇、心悸、汗多、納差、低熱或不熱、干咳少痰。舌干少津,脉細或虚无力。
(気力低下、息切れ、口内乾燥、口渇、動悸、多汗、食欲不振、微熱或いは発熱なし、乾性咳嗽・痰は少量。舌は乾燥・津液不足、細脉あるいは虚脉で無力。)
推薦処方:南北沙参、麦冬、西洋参、五味子、生石膏、淡竹叶、桑叶、芦根、丹参、生甘草。
*関連方剤:
〇香砂六君子湯《万病回春》(人参、白朮、茯苓、甘草、陳皮、半夏、香附子、縮砂):
〇沙参麦門冬湯《温病条辨》(沙参、玉竹、甘草、桑葉、扁豆、天花粉、麦門冬):清養肺胃、生津潤燥
〇竹葉石膏湯《傷寒論》(淡竹葉、石膏、甘草、粳米、麦門冬、半夏、人参):清熱生津、益気和胃
*邪熱が消退した回復期は正虚で気血津液不足であり、また余邪や余熱は完全には除かれていない。呼吸器疾患の回復期には「肺脾気虚」がみられ、消化吸収機能(脾胃の機能)を向上させて障害を受けた肺機能の回復をはかる必要がある。体に潤いをもたらす体液(津液)は加齢とともに減少傾向を示す。発汗を伴う熱性疾患で消耗・乾燥が進行すると津液不足がおこり、気虚に陰虚を兼ねた「気陰両虚」の病態が起こる。「肺脾気虚」の推薦処方構成は補気薬の人参と黄耆を含む参耆剤である。「気陰両虚」における西洋人参は、補気養陰、清熱生津の作用を示し補気とともに熱を冷ます作用がある。
「新型冠状病毒肺炎診療方案」(試行第六版、2020年2月19日発布)(novel coronavirus pneumonia diagnosis and treatment plan, provisional 6th edition)は、中国国家衛生健康委員会から出されているSARS-CoV-2関連肺炎に関する中西結合医療のガイドラインである。本稿では中国伝統医学(Traditional Chinese Medicine:TCM)における病期分類、治療に関する章に注目し編訳及び考察を行った。本文(中文)はWEB上で全文閲覧、DL可能である。
最新の試行第六版では従来の臨床治療期分類(初期:寒湿鬱肺、中期:疫毒閉肺、重症期:疫毒閉肺、恢復期:肺脾気虚)から「軽型、普通型、重型、危重型、恢復期」の5期、9病証に改変された。一連の診療方案に関する解説では、病因・病態に関する考察として「新型冠状病毒感染的肺炎当属‘寒湿(瘟)疫’、是感受寒湿疫毒而発病」、「従病位即邪气攻撃的臓腑来看,主要是肺和脾」(試行第四版)、「本病属于中医疫病范疇、病因為感受疫戻之気、病位在肺、基本病機特点為“湿、熱、毒、瘀”」(試行第五版)の論述がある。
1.医学観察期
臨床表現1:乏力伴胃腸不適(消化管不調を伴う脱力感)
推薦中成薬:藿香生気胶嚢(カプセル)(丸・水・内服液)
臨床表現2:乏力伴発熱(発熱を伴う脱力感)
推薦中成薬:金花清感顆粒、連花清瘟胶嚢(顆粒)、疏風解毒胶嚢(顆粒)
*関連方剤(方剤名、出典、組成、効能)
〇藿香生気散《和剤局方》(霍香、蘇葉、白芷、大腹皮、厚朴、半夏、陳皮、茯苓、甘草、白朮、生姜、大棗、桔梗):解表化湿、理気和中
*中成薬の主要配合生薬(薬品名、組成、効能):
〇金花清感顆粒(金銀花、浙貝母、黄芩、牛蒡子、青蒿等):疏風宣肺、清熱解毒
〇連花清瘟胶嚢(連翹、金銀花、炙麻黄、炒苦杏仁、石膏、板藍根、綿馬貫衆、魚腥草、広藿香、大黄、紅景天、薄荷、甘草):清瘟解毒、宣肺清熱
〇疏風解毒胶嚢(虎杖、連翹、板藍根、柴胡、敗醤草、馬鞭草、芦根、甘草):疏風平熱、解毒利咽
*中成薬配合生薬の分類:
◎解表薬:<発散風寒薬>白芷、生姜、麻黄;<発散風熱薬>牛蒡子、薄荷、柴胡
◎清熱薬:<清熱瀉下薬>石膏、芦根;<清熱燥湿薬>黄芩;<清熱解毒薬>金銀花、連翹、板藍根、貫衆、魚腥草、敗醤草;<清虚熱薬>青蒿
◎瀉下薬:<攻下薬>大黄
◎利水滲湿薬:<利水消腫薬>茯苓;<利水退黄薬>虎杖
◎芳香化湿薬:霍香、厚朴、
◎理気薬:大腹皮、陳皮、
◎化痰止咳平喘薬:<温化寒痰薬>半夏;<清化熱痰薬>桔梗、浙貝母;<止咳平喘薬>杏仁
◎補虚薬:<補気薬>白朮、紅景天、大棗、甘草
2.1臨床治療期(確信病例)
清肺排毒湯
活用範囲:适用于軽型、普通型、重型患者,危重型患者。
基礎方剤:麻黄、炙甘草、杏仁、生石膏(先煎)、桂枝、沢瀉、猪苓、白朮、茯苓、柴胡、黄芩、姜半夏、生、紫菀、冬花、射、細辛、山薬、枳実、陳皮、藿香。
(服用方法、生薬処方量および中成薬注射液の投与量(処方に際し加減が必須)は引用を省略。以下同文。)
*清肺排毒湯が含む方意をもつ関連方剤(方剤名、出典、組成、効能):
〇麻杏甘石湯《傷寒論》(麻黄、杏仁、石膏、甘草):辛涼宣泄、清肺平喘
〇射干麻黄湯《金匱要略》(射干、麻黄、生姜、五味子、細辛、紫苑、欵冬花、大棗、半夏)
〇小柴胡湯《傷寒論》(柴胡、半夏、人参、黄芩、大棗、生姜、甘草):和解少陽
〇五苓散《傷寒論》(沢瀉、茯苓、猪苓、白朮、桂枝):利水滲湿、通陽化気
*抽出成分を考慮した煎じ方法:有効成分が溶出困難な鉱物や毒性の強い薬草は初めから加えて長時間煎じる(先煎)。芳香性・揮発性のある薬草や大黄などの瀉下作用発揮を目的とする場合は、煎じ終わる前の時期を見計らって投入する(後下)。
2.2 軽型
(1)寒湿郁肺証
臨床表現:発熱、乏力、周身酸痛、咳嗽、喀痰、胸緊憋気、納呆、悪心、嘔吐、大便粘膩不爽。舌質淡胖歯痕或淡紅、苔白厚腐膩或白膩、脉濡或滑。
(発熱、脱力感、全身の筋肉痛、咳嗽、喀痰、胸の拘束・閉塞感、食欲不振、悪心、嘔吐、粘稠な便・残便感。淡白舌、胖大あるいは淡紅舌、厚い白色腐膩苔あるいは白膩苔、濡脈あるいは滑脈)
推薦処方:生麻黄、生石膏、杏仁、羌活、葶藶子、貫衆、地竜、徐長卿、藿香、佩蘭、蒼朮、雲苓(茯苓)、生白朮、焦三仙、厚朴、焦檳榔、煨草果、生姜。
(2)湿熱蘊肺証
臨床表現:低熱或不発熱、微悪寒、乏力、頭身困重、肌肉酸痛、干咳痰少、咽痛、口干不欲多飲、或伴有胸悶脘痞、無汗或汗出不暢、或見嘔悪納呆、便溏或大便粘滞不爽。舌淡紅、苔白厚膩或薄黄、脉滑数或濡。
(微熱あるいは発熱なし、軽度の悪寒、脱力感、全身が重だるい、筋肉痛、乾性咳嗽・痰は少量、咽頭痛、口腔・咽頭の乾燥感があるが水分をほしがらない、胸腹部が痞えて苦しい、無汗或いは汗がすっきりと出ない、悪心・嘔吐・食欲不振、軟便・残便感。淡紅舌、厚白膩苔あるいは薄黄苔、渇数脈あるいは濡脈。)
推薦処方:檳榔、草果、厚朴、知母、黄芩、柴胡、赤芍、連翹、青蒿 (後下)、蒼朮、大青叶、生甘草。
*関連方剤:
〇麻杏甘石湯《傷寒論》(麻黄、杏仁、石膏、甘草):辛涼宣泄、清肺平喘
〇達原飲《温疫論》(檳榔、厚朴、草果、知母、芍薬、黄芩、甘草):開達膜原、避穢化濁
*寒湿(cold-dampness):寒邪と湿邪が結びついた病態。六淫(six pathogenic factors)は発病原因の邪気となる「風・寒・暑・湿・燥・火」の六気の季節の異常変化であり、六邪(風邪、寒邪、暑邪、湿邪、燥邪、火邪)とも呼ばれる。また六淫はあらゆる外感病(affliction by exo-pathogen;外邪が体に侵入して起こる疾病)の病邪や季節・地域により異なる気候環境因子を含んだ概念であり、病因となる外界因子を網羅した総称でもある。
寒湿は、六淫病邪の寒邪による外寒寒湿、および体内で生じる内生寒湿に分類される。湿邪は寒邪を伴う場合と熱邪を伴うもの(湿熱)がある。「寒湿郁肺証」に比し「湿熱蘊肺証」は湿多熱少の寒熱錯雑の病態を示している。ウイルス性気道感染症の初期症状では、悪寒、発熱などの表証とともに、肺気の宣発・粛降の失調と津液の運行失調が生じて咳嗽や喀痰などの呼吸器症状が出現する。
2.3 普通型
(1)湿毒鬱肺証
臨床表現:発熱、咳嗽痰少、或有黄痰、憋悶気促、腹脹、便秘不暢。舌質暗紅、舌体胖、苔黄膩或黄燥、脉滑数或弦滑。
(発熱、咳嗽・痰は少量あるいは黄色痰、胸の痞え・呼吸促迫、腹部膨満感、便秘傾向。暗紅舌、胖大舌、黄膩苔あるいは黄燥苔、渇数脈あるいは弦滑脈。)
推薦処方:生麻黄、苦杏仁、生石膏、生薏苡仁、茅蒼朮、広藿香、青蒿草、虎杖、馬鞭草、干芦根、葶藶子、化橘紅、生甘草。
(2)寒湿阻肺証
臨床表現:低熱、身熱不揚、或未熱、干咳、少痰、倦怠乏力、胸悶、脘痞、或嘔悪、便溏。舌質淡或淡紅、苔白或白膩、脉濡。
(微熱、熱感があるが体表には甚だしい熱を触れない、あるいは発熱なし、乾性咳嗽、痰は少量、倦怠感、胸腹部に膨満感があり痞える、悪心・嘔吐、軟便。淡白舌あるいは淡紅舌、白苔あるいは白膩苔、濡脈。)
推薦処方:蒼朮、陳皮、厚朴、藿香、草果、生麻黄、羌活、生姜、檳榔。
*関連方剤:
〇麻杏薏甘湯《金匱要略》(麻黄、杏仁、薏苡仁、甘草):発汗解表、祛風利湿
〇藿香生気散《和剤局方》(霍香、蘇葉、白芷、大腹皮、厚朴、半夏、陳皮、茯苓、甘草、白朮、生姜、大棗、桔梗):解表化湿、理気和中
*湿(dampness):湿邪は重濁粘滞(heaviness, turbidity and viscosity)の性質があり、寒邪と同様に陰邪で人体の陽気を損傷する。汚濁する性質により体内で長期にわたり蓄積、滞留すれば湿毒(toxic dampness)が生まれる。その病的過程で津液の消耗につながる化熱が生じることがあり、熱と湿の両者の性質を持った症候(湿熱、damp-heat)は水分代謝障害を伴う炎症性反応と考えられる。湿邪がからむ疾病は一般に経過が遷延し再発が多い。また消化管障害を招来しやすいことが特徴の一つである。脾気虚、脾陽虚があると運化機能失調(消化管の運動機能障害)と内湿の悪循環を生み、さらに同気相求(似たものは自然に寄り集まる)として、さらに外来の湿邪の侵襲を受け易くなるので外湿と内湿は混在することが多い。
軽・普通型を通じて見られる、低熱あるいは無熱、身熱不揚(湿邪が熱邪を覆い隠す)、微悪寒あるいは悪寒なし、頭身困重、口干不欲多飲(湿邪が鬱阻して脾気が昇らず津液が行き渡らない)、悪心・嘔吐・腹脹、便溏などの臨床症状と膩苔、濡脈は、湿邪、湿毒が枢機となる病証を示唆している。
*芳香化湿薬:辛温温燥の性質を有し、化湿運脾(脾胃の運化を促進し湿濁を除く)作用を持つ。属する生薬には霍香、佩蘭、蒼朮、厚朴、砂仁、小豆蒄、草果があり、中医学的に寒湿疫毒の感受が病因・病態と考えられる本疾患の病態で多用されている。「醒脾」は芳香化湿薬を用いて無力となった脾気を高める治法である。
2.4 重型
(1)疫毒閉肺証
臨床表現:発熱面紅、咳嗽、痰黄粘少、或痰中帯血、喘憋気促、疲乏倦怠、口干苦粘、悪心不食、大便不暢、小便短赤。舌紅、苔黄膩、脉滑数。
(発熱・ 顔面紅潮、咳嗽、黄色・粘稠痰、血痰、喘鳴・呼吸促迫、疲労倦怠感、口渇・口が苦く粘る、悪心・食欲減退、大便不調、尿量が少なく尿色が濃い。紅舌、黄膩苔、渇数脈。)
推薦処方:生麻黄、杏仁、生石膏、甘草、藿香 (後下)、厚朴、蒼朮、草果、法半夏、茯苓、生大黄(後下)、生黄耆、葶藶子、赤芍。
(2)気営両燔証
臨床表現:大熱煩渇、喘憋気促、譫語神昏、視物錯瞀、或発斑疹、或吐血、衄血、或四肢抽搐。舌絳少苔或無苔、脉沈細数、或浮大而数。
(高熱で強い口渇、喘鳴・呼吸促迫、うわごと・意識混濁、視力障害、皮下出血斑、吐血、鼻出血、四肢痙攣。絳舌、少苔あるいは無苔、沈細数脈あるいは浮大かつ数脈。)
推薦処方:生石膏(先煎)、知母、生地、水牛角(先煎)、赤芍、玄参、連翹、丹皮、黄連、竹叶、葶藶子、生甘草。
推薦中成薬:喜炎平注射液、血必浄注射液、熱毒寧注射液、痰熱清注射液、醒脳静注射液。
*関連方剤:
〇麻杏甘石湯《金匱要略》(麻黄、杏仁、薏苡仁、甘草):発汗解表、祛風利湿
〇宣白承気湯《温病条辨》(生石膏、生大黄、杏仁、栝楼皮):宣肺通腑
〇清瘟解毒飲《疫疹一得》(生石膏、生地黄、犀角、黄連、山梔子、桔梗、黄芩、知母、赤芍、玄参、連翹、甘草、牡丹皮、鮮竹葉):清熱解毒、凉血瀉火
〇化斑湯《温病条辨》(石膏、知母、生甘草、玄参、犀角、白粳米):清気凉血
*中薬注射剤の主要成分(薬品名、組成、効能):
〇喜炎平注射液(穿心蓮成分):清熱解毒、止咳止痢
〇血必浄注射液(紅花、赤芍、川芎、丹参、当帰):化瘀解毒
〇熱毒寧注射液(青蒿、金銀花、山梔子):清熱疏風解毒
〇醒脳静注射液(麝香、欝金、冰片、山梔子):清熱解毒、凉血活血
*疫毒(疫気、癘気、疫癘、異気、戻気)(epidemic toxin/pathogen):一般的な六淫病邪とは性質が異なる外邪で強力な伝染性・流行性を有する特殊な邪気と定義される。『黄帝内経素問遺残篇』刺法論に「五疫之至、皆相染易、無問大小、病状相似。」(五疫の疾病が至ると皆が感染し大小問わず病状が相似る)、明代の呉又可著『温疫論』に「瘟疫之為病、非風、非寒、非暑、非湿、乃天地間別有一種異気所感。」(瘟疫の発病は、風・寒・燥・湿いずれでもない天地の間に在る一種の異気を感受する為である)の記述がある。疫毒が発生し感染性(infectivity)、病原性・毒性(virulence)を発揮する重要な条件として、六淫病邪(SARS-CoV-2関連肺炎で留意すべきは湿邪、そして寒邪)あるいは特殊な形で邪毒となった六淫病邪の関与を考えねばならない。
*気営両燔(きえいりょうはん):気分の熱邪が盛んで営分に波及し、気分証と営分証が同時に存在する病態。衛気営血弁証は主として熱性の外邪を感受して発症する温病の病期・病位の捉え方であり、衛分証(温熱の邪が初めて人体を侵襲する、病位が浅く病状は軽い初期)から、気分証(邪が表から裏に侵入する、病位が深く病状が重い中~極期)、営(血)分証(病位が最も深く病状が最も重篤、津液を灼傷し脱水状態を来す、意識障害や出血症状が出現する)の四証に分けられる。
2.5 危重型(内閉解脱証)
臨床困難:呼吸困難、動輒気喘或需要机械通気、伴神昏、煩燥、汗出肢冷、舌質紫暗、苔厚膩或燥、脉浮大無根。
(呼吸困難、通常呼吸不全で人工呼吸器の導入、随伴症状として意識障害、不穏、発汗、末梢性チアノーゼ。紫暗舌、厚膩苔あるいは燥苔、浮大脈で無根。)
推薦処方:人参、黒順片(附子) (先煎)、山茱萸、送服蘇合香丸或安宮牛黄丸。
推薦中成薬:血必浄注射液、熱毒寧注射液、痰熱清注射液、醒脳静注射液、参附注射液、生脉注射液、参麦注射液。
*関連方剤:
〇参附湯《正体類要》(人参、附子):益気回陽救脱
〇蘇合香丸《和剤局方》(白朮、青木香、犀角、香附子、朱砂、訶子、白檀香、安息香、沈香、麝香、丁香、蓽撥、竜脳、乳香、蘇合香油):芳香開竅、行気止痛
〇安宮牛黄丸《温病条弁》(牛黄、犀角、麝香、真珠、朱砂、雄黄、黄連、黄芩、山梔子、欝金、冰片):清熱解毒、鎮惊開竅
推薦処方に含まれる山茱萸は補益肝腎、収斂固渋の作用を有する固渋薬である。
*中薬注射剤の主要成分:
〇参附注射液(紅参、黒順片):回陽救逆、益気固脱
〇生脉注射液(紅参、麦門冬、五味子):益気養陰、復脈固脱
〇参麦注射液(紅参、麦門冬):益気固脱、養陰生津
*重型と危重型は、重症呼吸困難、低酸素血症、ARDS、敗血症性ショックなどの重篤な症候を生じる時期で西洋医学との結合医療が不可欠である。中医学的には熱毒が心包に深陥して心竅を内閉した熱入心包が生じ、さらに津液を消耗して陽気が解脱の方向に進行した非常に危険な病態が「内閉外脱」である。
病毒感染或合并軽度細菌感染:喜炎平注射液、熱毒寧注射液、痰熱清注射液。
高熱伴意識障碍(高熱を伴う意識障害):醒脳静注射液。
全身炎症反応総合証或/和多臓器功能衰竭:血必浄注射液。
免疫抑制:参麦注射液。
休克(shock):参附注射液。
(本項の末尾に記されている重型、危重型の症例に対する中薬注射剤の推薦用法である。生理食塩液に混合して投与された中薬注射剤名(加減を要する投与量は省略)を掲示した。)
*全身性炎症反応症候群(systemic inflammatory response syndrome;SIRS):各種の侵襲により誘発される高サイトカイン血症に伴う全身性の急性炎症反応。多臓器障害(multiple organ dysfunction syndrome;MODS)に至る前段階の重篤な病態である。
*生理食塩液:生食、血漿と等張で塩化ナトリウムを0.9w/v%含有の食塩水
2.6 恢復期
(1)肺脾気虚証
臨床表現:気短、倦怠乏力、納差嘔悪、痞満、大便無力、便溏不爽。舌淡胖、苔白膩苔。
(息切れ、倦怠感・脱力感、食欲不振・悪心嘔吐、大腸の蠕動運動低下、胸脘部の痞え、軟便・残便感。淡白舌、胖大舌、白膩苔。)
推薦処方:法半夏、陳皮、党参、炙黄耆、炒白朮、茯苓、藿香、砂仁(後下)、甘草。
(2)気陰両虚証
臨床表現:乏力、气短、口干、口渇、心悸、汗多、納差、低熱或不熱、干咳少痰。舌干少津,脉細或虚无力。
(気力低下、息切れ、口内乾燥、口渇、動悸、多汗、食欲不振、微熱或いは発熱なし、乾性咳嗽・痰は少量。舌は乾燥・津液不足、細脉あるいは虚脉で無力。)
推薦処方:南北沙参、麦冬、西洋参、五味子、生石膏、淡竹叶、桑叶、芦根、丹参、生甘草。
*関連方剤:
〇香砂六君子湯《万病回春》(人参、白朮、茯苓、甘草、陳皮、半夏、香附子、縮砂):
〇沙参麦門冬湯《温病条辨》(沙参、玉竹、甘草、桑葉、扁豆、天花粉、麦門冬):清養肺胃、生津潤燥
〇竹葉石膏湯《傷寒論》(淡竹葉、石膏、甘草、粳米、麦門冬、半夏、人参):清熱生津、益気和胃
*邪熱が消退した回復期は正虚で気血津液不足であり、また余邪や余熱は完全には除かれていない。呼吸器疾患の回復期には「肺脾気虚」がみられ、消化吸収機能(脾胃の機能)を向上させて障害を受けた肺機能の回復をはかる必要がある。体に潤いをもたらす体液(津液)は加齢とともに減少傾向を示す。発汗を伴う熱性疾患で消耗・乾燥が進行すると津液不足がおこり、気虚に陰虚を兼ねた「気陰両虚」の病態が起こる。「肺脾気虚」の推薦処方構成は補気薬の人参と黄耆を含む参耆剤である。「気陰両虚」における西洋人参は、補気養陰、清熱生津の作用を示し補気とともに熱を冷ます作用がある。