Yahooニュースより
ディープインパクト 禁止薬物なぜ仏で使用 真相は闇
「フランスでどんな治療がされたのか分からない」。パリで今月1日行われた世界最高峰レース「凱旋門賞」に出走したディープインパクトから、フランスでは使用が禁止されている薬物が検出された問題で、記者会見した日本中央競馬会(JRA)の幹部はこう繰り返した。フランスで禁止されている薬物が、なぜフランスで使用されたのか。真相は闇の中だ。競馬ファンからは「きれいに引退してほしかったのにかわいそう」との声が上がった。
午後6時から東京都港区のJRA六本木事務所で開かれた記者会見には、西村啓二・馬事担当理事、金田裕之・審判担当理事ら4人のJRA幹部が出席した。
JRAによると、「禁止薬物検出」の一報がフランス側からJRAパリ事務所に入ったのは、日本時間の13日午後10時。その後の再検査で最終確認され、19日に通知を受けたという。
今回使われた薬物は「イプラトロピウム」で通常、ぜんそくの治療などに使われるという。ヨーロッパでは禁止薬物に指定されている。気管支拡張剤で運動能力を高める可能性があるが、国内では「使われた実績がない」との理由で禁止されていないという。
凱旋門賞(今月1日)レース前のフランス滞在中に、治療でこの薬物を投与されたことは確かだが、具体的な治療理由や内容については「関係者から事情聴取しておらず、把握していない」と説明するにとどまった。
今後の国内レースへの出走については「影響はない」としている。
JRAは、国内と海外の禁止薬物の違いなどについて、「これまでも関係者には十分説明してきた」と強調。また「国内外問わずレースに出走する際の全責任は馬主と調教師にあると考えている」と、JRAとしての責任はないとの判断を示した。そのうえで、「公正確保が競馬の第一。主催者はもとより競馬サークルの人間が課せられた責任をルール通り果たすことでお客さんに満足してもらえる競馬が提供できる」と再発防止を誓った。
▽JRA・高橋政行理事長の話 競馬ファンの皆様をはじめ、多くの方々から応援をいただいたにもかかわらず、世界最高峰のレースとして栄誉ある凱旋門賞に汚点を残す結果となり、誠に残念でなりません。
◇禁止薬物…各国で異なる基準
ディープインパクトに、なぜフランスで禁止する薬物が使用されたのか。これが最大の謎だ。
JRAによると、フランスには日本の獣医師が帯同したが、免許の関係で、現地での診療行為はできなかったとみられる。「禁止と知ってて使用したのならば…」との疑惑も生じるが、ある専門家は「使用が出走の数日前で、検出しないと考えた可能性がある」と推測した。
イプラトロピウムの効能についても、議論がある。地方競馬の獣医師は「馬は人間のように口を使った呼吸はせず、ほとんど鼻で呼吸する。このため、気管支を広げて、息をしやすくさせ、心肺能力を高める目的で気管支拡張剤を使うことはある」と話す。一方、別の専門家は「リラックス効果はあるものの、体力増強などレースに役立つ効果は証明されていない」と否定的だ。
禁止薬物が世界で統一されていないことも、今回の問題の背景にある。
国内の競走馬の薬物検査をしている競走馬理化学研究所(宇都宮市)の須田功・薬物検査課長は「各国が歴史的経緯などに基づき独自の基準で決めているため、欧米や日本で禁止薬物の種類が異なる。各国の競馬統括機関が集まる国際会議(通称・パリ会議)でも、薬物規制を統一する話はない」と説明する。欧州の競馬では「体内に存在しないすべての物質」が禁止対象。イプラトロピウムは「馬の中で自然に生じる物質ではない」(JRA幹部)ため禁止となっている。
◇競馬ファンから一様に驚きの声
ナイター競馬「トゥインクルレース」が行われていた東京都品川区の大井競馬場では、競馬ファンから「えーっ」「本当ですか」などと一様に驚きの声が上がった。
友人と2人で訪れていた川崎市の会社員、百武兼信さん(29)は「JRAはディープを通じてこれだけ盛り上げているのにチェックが甘い。海外に馬が行く例はたくさんあるのだから、ルールブックなどをきちんと整備すべきだ。(引退して)きれいに終わりたかったのに、ディープがかわいそう」とJRAの対応に疑問を示す。
川崎市の自営業、竹内親大(ちかひろ)さん(37)は「残念だが、(日本では流通していないという)事情があるならば、仕方ないかもしれない」。東京都北区の会社員、吉田昌史さん(34)は「この失敗をバネにして(引退を撤回し)、凱旋門賞にもう1回挑戦してほしい。来年も速くて強いディープをみたい」と今後の活躍へエールを送った。
一方、ディープインパクトのオーナーが経営するキャラクター商品製造・販売会社「ノーザンホースパーク」(北海道苫小牧市)。同社が製造・販売する帽子やTシャツなどに、他社がライセンス生産するぬいぐるみなどを加えた関連グッズは100種類以上ある。引退発表(今月11日)後も売れ行きは好調だといい、広報担当者は「競走馬の人気は死亡しても衰えないほど。(今回も)大丈夫だと思う」と話した。
10月20日9時57分更新
禁止薬物がなぜ統一化されていないのか?これには訳がある。
欧州の競馬はかなり「厳格」。一方、アメリカでは州によってマチマチだが、割と「寛容」な側面が見受けられる。
ラシックスという薬品がある。フロセミド(C12H11ClN2O5S)というループ利尿薬の代表的な商品名であるが、鼻出血を抑制する作用があるとされ、アメリカの競馬では、ラシックスを使用する場合には出馬表に表記せねばならないきまりがあるが、概ね使用可能である。
しかしながら、ラシックスの使用が認められているのはアメリカだけである。日本の競馬では、「禁止薬物事項」の38項目目として「フロセミド」と明記している。
とりわけアメリカ勢はダートでは今でも世界一を自負しながらも、ラシックスを使用できないことを理由として、ドバイ行きを断念せざるを得なくなったという話も毎年のように持ち上がっている。
だが、そのアメリカにおいても、ラシックスを含めた薬物投与の使用制限の動きが出ているんだとか。
その話はこちらに詳しい(禁止薬物の話についても詳しい)。
http://dayatom.com/blog/chika/archives/000636.html
日本では、欧州のように、体内に存在しない全ての物質は使用禁止というようにはなっていない。全部で53項目ある指定禁止薬物を使用しなければOKであり、今回問題となっている「イプラトロピウム」は「もちろん」入っていない。
だが、上記のブログにも書かれていたが、要は日本では、「禁止薬物の検出を困難にする薬物」の規制が「ない」。したがってまれに、カフェインが検出された、なんていうケースが出てくる。
要するに、日本では人間のスポーツ医学の分野においてもそうだが、競走馬についても、こうした研究というのが明らかに遅れているという他ない。つまり、禁止薬物の指定はなされるが、その認知に手一杯の状況であり、結果、現在使用禁止となっているもの以外の薬物使用ならばOKという、ある意味「ザル法」と化している。まだアメリカのほうがラシックス以外の薬物投与は全面禁止としている分、厳格ということがいえる。
ウイキペディアによると、競走馬に対するドーピング検査体制が整ったのは意外と古く、1911年、オーストラリア競馬協会がロシアに依頼したもので競走馬の唾液にアルカロイドが検出されたことに端を発し、1930年代にはドーピング体制が整えられたという。
対して日本ではその時代というと、競馬といえばとにかく軍馬増強としての意味合いが強く、レース面における内容云々は案外「無頓着」な時代でもあった。したがって、今は当然のことながら禁止薬物に指定されている「カフェイン」が入っている抹茶を飼葉に混ぜていたなんていうことが平気で言われたような時代である。要は「勝った馬が強い。結果が全て。」といった風潮の時代である。
したがって、第二次世界大戦前からドーピング問題に取り組んできた欧州とそうでない日本では明らかにその土壌が違えば、ドーピングに対する意識もまた違う。この歴史の差を穴埋めするのはそう簡単にはいくまい。
しかしながら日本でもここ10年の間に急速に海外競馬への関心が高まり、要は他のスポーツ同様に、海外で大レースを勝つことが美徳とされるような風潮ができつつある。
確かに血統的な背景や調教技術に関して言えば、日本は欧米にほぼ伍して戦える体勢作りは整ってきているといえる。しかしながら、「郷に入れば郷に従え」ということが「できていない」といえるのではないか。
これは明らかにディープインパクト陣営の情報不足が招いた結果でもあるといえるし、はたまた「陰謀説」まで出ているとすれば、その点におけるセキュリティチェックも怠っていたと考える他ない。
よくサッカーの場合、ホームとアウェーでは「天と地ほどの違い」なんてことがよく言われる。競馬ならばもっとそのようなことがいえる。
ただ一方において、少なくとも、凱旋門賞やキングジョージといったレースにおいて、
「ひょっとしたら勝てるかも」
と思わせたケースは本当に、今年が「最初」ではないのか。
確かに凱旋門賞のケースでいえば、エルコンドルパサーの2着というケースはあるが、エルコンドルパサーが生まれたのは「アメリカ」。つまり外車を買ってきてそれを日本で育ててフランスで競馬をさせたといった形容ができるわけで、純国産馬としてひょっとすれば、といったケースはとにかく今年が「初めて」である。
したがってある意味、ディープインパクトもそうだが、キングジョージ3着のハーツクライにとってみても、本当に何もかもが「初めてづくし」であり、そのために見落としていたものがあったという他ないのかもしれない。
そう考えると、私としては、こんなことを言ったら怒られてしまうと思うが、陣営が気づかねばならなかったのに気づけなかったちょっとした「ミス」だったのではないか、とも思うわけである。それとイプラトロピウムという薬物が直接、競走馬に大きな影響を与えるようなものあるのかといえば、必ずしもそうではないというのが通説である。
しかしながら、欧州では当然のことながら「違反」である。違反である以上、それを甘受せねばならないのは当然のことであり、知らなかったでは済まされないことである。ましてやギャンブルである競馬において、違法して仮に勝ったとすれば、明らかに「インチキ勝ち」の謗りを受ける他ない。
ただ今回のケースを期に、競走馬に対するドーピング検査の重要性というものを認識し、それもクリアした上でさらに第二・第三のディープ、ハーツといった馬が出現するようであれば、日本の競走馬がそれこそ「文句なし」に海外の大レースを勝てるのではないかと思うわけで、今回の一件をホースマンたちは教訓作りとしてもらいたいものである。